谷徹先生 『これが現象学だ』について

  • 谷徹 『これが現象学だ』について

私は現象学徒ではありませんので現象学については漠然とした理解しかもっておらず、機会を見てもう少し知りたいと思っていました。新刊ではありませんが今回この本を入手し、序章、第一章、第二章を読みました。とりあえず現象学の基本的なアイデアが説明されているのがこの最初の三つの章でしたので、この部分を読んだという訳です。

一読して非常にわかりやすい説明だと思いました。現象学の専門家ではありませんのでどの程度フッサール現象学を正しく描き出せているのか判断できませんが、正しく描き出せているとするならば出色の入門書だと思います。買って損はないと感じました。私なりにですが読んだ部分は基本的に内容を理解できたという感触を得ました。入門書でありながら入門者には難しすぎることが多い中、この本は比較的わかりよいと思います。

しかし内容は一応理解できたとは思うのですが、その理解できた内容に対して正しいと思うかと問われましたならば、残念ですが私には正しくないと感じたと答えざるをえません。どのような哲学の理論に関しても、大なり小なり瑕疵はつきものであり、多少の難点はいちいちとがめられるほどのことはないと思うのですが、この本の説明によりますと、現象学にはあまりに難点が多すぎるという印象を持ちました。もちろんこの本は入門書でありますし、詳細は説明されていませんから説明不足からくる問題点というものを一掃することはできないと思いますが、それにしても現象学はもう少し望みのある学問的プロジェクトではなかったかと感じざるをえませんでした。期待していただけに残念でなりません。この本に続けて本格的に現象学を学ぼうという気持ちが、悲しいけれど湧いてこなかったというのが偽らざる真実です。

もともと最初に現象学に触れる機会を与えていただいた先生がとてもよい感じの現象学の専門家でいらっしゃったこともあり、この哲学に対しては悪くない印象を持ってきたのですが、認識論が苦手な私は現象学を敬して遠ざけてきていました。今回のわかりやすい谷さんの入門書を持ってしても、現象学をうまく理解し肯定的な評価ができなかったということは、やはり私には認識論に向いていないということを再度裏書した形になってしまったと思います。

私は以前からフッサールのFormal OntologyやMaterial Ontology、それに部分と全体との関係の理論に期待を持ってきたのですが、これは私の一方的な片思いだったのでしょうか? 実にため息が出てしまいます。 本当に残念です。 あるいはフッサールのGrand Theoryは私には期待を持てなくても、Formal Ontologyなどの各論にはきっと面白いアイデアがまだまだ見つかるものとして希望を抱いていたいものです。できるならばですが…。

しかし入門書だけで終わらせるのは、ことを早急に判断しすぎであり、本格的な解説書や研究書、そして何よりフッサールの著書にじかに接し、じっくり読んでから現象学について評価すべきではなかろうかとも思います。それが正当な筋道というものでしょう。ですけれどもそうはいっても期待していたものが大きかっただけに幻滅感もまた大きいです。これが本当の現象学だったのでしょうか? 谷先生のご説明の通りだとすると私の幻滅感は拭い去られず、谷先生のご説明が間違っているとするならば、あるいは私の幻滅感はもしかしましますと消え去るかもしれませんが、それだと谷先生の立つ瀬がありません。いずれにしろ困ったことだ。やれやれ、がっくりきただけに感想が長くなってしまいました。しかし否定的な評価しか私には残りませんでしたが、ここまでくっきりとした理解を与えてくれるこの入門書はいずれにしてもよい入門書だと思います。