Russell と Wittgenstein の日本での受容

昨日、以下の論文名を上げた。

  • 瀬在良男、古田智久  「日本における科学哲学の研究状況 −1945年以前-1-」、 『研究紀要』、日本大学文理学部人文科学研究所 / 日本大学文理学部人文科学研究所編、第48号、1994年
  • ditto     「日本における科学哲学の研究状況 −1945年以前-2-」、 『研究紀要』、日本大学文理学部人文科学研究所 / 日本大学文理学部人文科学研究所編、第49号、1995年

これらを見ていると、面白いことが書かれている。特にすごい事実というわけではないが、何だか「へぇ〜」って感じのことである。ただしもちろんこの種の事実を調査し、突き止めたということは結構大変なことだったかもしれません。色々あれこれ文献をひっくり返さなければなりませんしね。

    • 最初に日本でRussellの記述の理論が紹介されたのはいつ、どの文献においてか?

上記の1994年論文の調査によると、日本で最初にRussellの記述の理論が紹介されたのは、以下のようである。

記述理論が最も早く紹介されたのは、ラッセルの著書An Introduction to Mathematical Philosophy (1919) を宮本鐵之助が大正11年[1922年]に翻訳した『數理哲學概論』[改造社刊]においてである*1

    • 最初に日本でWittgensteinの哲学に言及したのはいつ、どの文献においてか?

やはり上記1994年論文によると以下の通りである。

我国において初めてウィトゲンシュタイン (L.Wittgenstein) の思想に言及した著作は、おそらく輿水實が昭和6年[1931年]6月にマッギル (V. J. McGill) の論文‘Notes on the Logic of Grammar’を翻訳した「文法の論理への覺書」[『國文學誌』1巻2号]であると思われる*2

またこの文に付された註によると*3、Wittgensteinの名前が日本で最初に言及されたのは先の翻訳の宮本本中のことで、390ページにそれが見られるとのことである。この輿水さんは結構がんばってWittgenをお読みになっておられたようで、戦前の唯一本格的なWittgen研究の論文をものされているようである。その論文とは「論理文法の展望」*4とのこと*5。さしずめ輿水さんは日本のWittgenstein研究の元祖というところでしょうか? 今ではWittegen研究で輿水さんに言及するということもなくなってしまったでしょうが、日本におけるすべてのWittgen研究は彼から始まるというわけか…。ふ〜ん、なるほどね〜。このことを知ったとしても、そこから何か深くて新しい哲学の物語が始まるというのでもありませんが、先人の方々も皆さんがんばっていたんだ。うむうむ。
しかし最近はかの地でも、日本でも分析哲学の歴史についてちょくちょく語られるようになりましたが、そういえば日本の分析哲学の歴史というのはどうなんだろう? もしもその手のことを突っ込んで調べるということになれば、上記2論文は要チェックであろうと思われます。

*1:7〜8ページ。

*2:9ページ。

*3:註53。

*4:『コトバ』(不老閣書房)4巻9号、昭和9年9月。

*5:10ページ。