Frege 算術の無矛盾性証明の書評

Fregeの論理主義が単なる過去の遺物ではないかもしれないと多くの人が思い始めるようになったのは、

  • Crispin Wright  Frege's Conception of Numbers as Objects, Scots Philosophical Monographs Series, number 2, Aberdeen University Press/Humanities Press, 1983

からだと思われますが、Fregeの論理主義の再生の予感ではなく、再生の確信を人々に抱かしめたのは、恐らくこの本のすぐ後に出た書評等からだと推測されます。それらの書評等には以下のものがある。

  • John Burgess  “Book Review of Frege's Conception of Numbers as Objects, by Crispin Wright”, in: Philosophical Review, vol. 93, no. 4, October, 1984
  • A. P. Hazen  “Review of Wrigth(1983)”, in: Australasian Journal of Philosophy, vol. 63, 1985
  • Harold T. Hodes  “Logicism and the Ontological Commitments of Arithmetic”, in: Journal of Philosophy, vol. 81, no. 3, March, 1984

Wrightにより、いわゆるFrege算術が無矛盾であるとの予想が上記の彼の本で述べられたのに対し、すぐ上の三つの書評等でその予想が正しいと、Frege算術のモデルを示すことで、肯定されているようである。また

のⅢ章註(2)ではすぐ上の三つの書評等に対し、以下のように記されている。

[それら三つの書評等]は、「基数抽象の原理」(N=)を唯一の(論理的でない)公理とする第二階算術が整合的だというライトの推定の正しさを、少なくとも可算無限の領域に関しては、証明した。

そこで先日入手したBurgessの書評を見てみる。しかし私の勘違いでなければ、その証明は載っていないように見える。次のHazen書評は未見。Hodes論文は所有しているがまだよく読んでいない。

ところでこの前購入した

  • John P. Burgess  Fixing Frege, Princeton University Press, Princeton Monographs in Philosophy, 2005

のp. 149を見ると、Hodes論文には件の証明は載っていないと書いてある。Burgess・Hazen書評についても、どうやら証明は載っていないと暗に示唆しているような感じの書き方である。最初にこの証明を記す試みが行なわれたのはTennantの1987年の本の中でのことらしい。

  • Neil Tennant  Anti-Realism and Logic: Truth as Eternal, Clarendon Library of Logic and Philosophy, Oxford University Press, 1987

しかしこの本の論証は注目を集めず、代わりに同年に出たBoolosの論文での証明が脚光を浴びる。

  • G. Boolos  “The Consistency of Frege's Foundations of Arithmatic”, in his Logic, Logic, and Logic, Harvard University Press, 1998

この論文によりWright予想が正しいとはっきり証明され、Neo-Fregean Logicism研究がlaunch offしたものと推測されます。
とすると先の野本先生の註における「証明した」という言葉は何かの間違いなのだろうか? まだよくはわからないが…。