入手文献: 石崎津義男 『大塚久雄 人と学問』

私事についてあまり細かく話さない大塚だが、石崎には幼少時からの過去についていろいろと語った。それは『[大塚久雄]著作集』完結後もつづき、分厚いメモが石崎の手許に残った。それに時代背景を加えて整理したのが本書である。

新刊。Cafeで拾い読んでいると面白い逸話が目に入った*1

一九四一(昭和一六)年になって、文部省から、危険な書物は学生の見えないところに処分するようにとの通達が来た。[…] / ある時、東大前の有斐閣の小売部に治安当局の二人の男がやってきた。男たちは書棚の書物を端から順に見ていた。/ そのうちに一人が、昭和十三年に梶山力が訳したマックス・ウェーバーの『プロテスタンティズムの倫理と資本主義の精神』を指して / 「この本は<資本主義>とあるから押収しなければいけないのではないか」といった。するともう一人は / 「しかしこの本には<精神>とある。<精神>とある本はいいことになっている」と応じた。/ 二人はさんざん相談していたが、結局本は押収せず、そのまま立ち去った。治安当局の取締りはますます厳しくなっていくのだった。

本当にあったことなのかどうか、私にはわからない。悲劇と喜劇が入り混じった出来事である。

*1:石崎、67-68ページ。