Frege's Context Principle in his Grundgesetze

6月9日の日記の続きです。
その日はGrundgesetzeのs. 10を引用してみました。今日はss. 29, 31を引いて、Context Principleらしきものがあるかどうかを見てみよう。


まず、s. 29にはこうある*1

Ein Eigenname hat eine  B e d e u t u n g  , wenn der Eigenname immer eine Bedeutung hat, der dadurch entsteht, dass jener die Argumentstellen eines bedeutungsvollen Namens einer Function erster Stufe mit einem Argumente ausfullt, 〔…〕*2

ある固有名が意味を持つのは次の場合である −即ち、当の固有名を第一階単項関数の有意味な名前の項場所に充当することによって生成するところの固有名が、常に一つの意味を持ち、〔…〕 *3


次に、s. 31にはこうある。

Wir gehen davon aus, dass die Namen von Wahrheitswerthen etwas bedeuten, namlich entweder das Wahre oder das Falsche. Wir erweitern dann allmahlich den Kreis der als bedeutungsvoll anzuerkennenden Namen, indem wir nachweisen, dass die aufzunehmenden mit den schon aufgenommenen bedeutungsvolle Namen bilden, indem die einen an passende Argumentstellen der andern treten. *4

我々は真理値の名前が、あるもの、即ち真または偽を、意味するということから出発する。次いで、受容されるべき名前が、既に受容されている名前とともに −一方[の名前]が他方[の名前]の適合する項場所に登場することにより− 有意味な名前を形成するということを証明することによって、有意味と承認されるべき名前の範囲を徐々に拡大する。 *5


また同じsection中にはこうもある。

Setzen wir den Werthverlaufsnamen ,ε'Φ(ε)‘ fur ,ζ‘ in ,ξ=ζ‘ ein, so ist also die Frage, ob ,ξ=ε'Φ(ε)‘ ein bedeutungsvoller Name einer Function erster Stufe mit einem Argumente sei, und dazu ist wieder zu fragen, ob alle Eigennamen etwas bedeuten, die hieraus dadurch hervorgehen, dass wir in die Argumentstelle entweder einen Namen eines Wahrheitswerthes oder einen rechten Werthverlaufsnamen setzen. *6

〔さて、値域名が、例えば‘ξ=ζ’に対し、有意味であることを明らかにしなければならない。そのためにはまず〕値域名‘ε'Φ(ε)’を‘ξ=ζ’中の‘ζ’に代入しよう。すると、‘ξ=ε'Φ(ε)’が第一階単項関数の有意味な名前であるかどうかが問題となる。そのためにはまた、その項場所〔‘ξ=ε'Φ(ε)’の‘ξ’〕に真理値の名前をあるいは正則的な値域名を代入することによってこれ[‘ξ=ε'Φ(ε)’]から生じる固有名のすべてが、あるものを意味しているのかどうかを問わなければならない。*7


ラフに言えば、いずれも、文の部分がいみを持つためには、その文全体がいみを持っていればよい、ということのようであり、それを前提として話がなされているように見える。
以上の引用文を読むと、確かにContext Principleを予感させる。Context Principleを知った後で上記を読めば、「なるほどContext Principleだ」と思う。
ところで私は6月9日の日記に以下のように記していた。

仮にDummettさんが言うように、GrundgesetzeでもFregeはContext Principleを堅持しているのだ、ということを認めても、ぱっとしない形で話の途中にもぐりこまされていることから、Grundgesetze中のこのPrincipleは、Grundlagenにおけるよりも、相対的に評価や重要性が落ちてしまっているのではなかろうか。

もしかしてもしかすると、「このPrincipleは、Grundlagenにおけるよりも、相対的に評価や重要性が落ちてしまっている」から「ぱっとしない形で話の途中にもぐりこまされている」のではなく、まったく逆に、Context Principleの妥当性は明々白々だから、Grundlagenのように高々と掲げる必要性をまったく感じていなかったので、話の中にもぐりこまされ、目立たない形で背景と化していた、とも言えるのかもしれない。
FregeにとってContext Principleは、水や空気のように、極めて重要なものであるにもかかわらず、当り前になっていたのかもしれない…。どうなんだろう?

*1:以下、Umlautの上付き記号は省く。また、引用符「〔 〕」は引用者のものである。後ほど和訳に出てくる引用符「[ ]」は翻訳者のものである。

*2:G. Frege, Grundgesetze der Arithmetik I/II, Neuauflage mit Corrigenda von Christian Thiel, Reihe: OLMS Paperbacks, Bd. 32, Hildesheim, Olms, 1998, S. 46.

*3:野本和幸編、『フレーゲ著作集 3 算術の基本法則』、勁草書房、2000年、134ページ。

*4:Frege, S. 48.

*5:野本、138ページ。

*6:Frege, S. 49.

*7:野本、140ページ。