昨日は‘sortal’の現代における起源、言い換えると20世紀以降における起源を調べてみた。
今日はsortalsの全哲学史上における起源を訪ねてみよう*1。
Sortalsは、どんどんさかのぼっていくとAristotleの第二実体(deuterai ousiai)にたどり着くそうである。
それでは第二実体とは何なのか、彼の言葉を邦訳で引いてみよう。
出隆先生訳と山本光雄先生訳を並べて掲げる。同じ箇所の出先生訳と山本先生訳である。この先生順で引用する。引用箇所の選択は、出先生の選択による。
なお、あらかじめ第二実体と、それに関連する第一実体とは何かを述べておく。
例を挙げるならば、FregeさんとかRussellさんとか西田幾多郎さんは第一実体である。Bucephalusも第一実体である。そしてFregeさんは人間であり、人間は動物の一種であるが、この人間や動物が第二実体である。またBucephalusは馬であり、馬は動物の一種であるが、この馬も第二実体である。つまり第一実体とは特定の人間や馬などの個物・個体であり、類や種が第二実体である。
念のために申し添えておくと、FregeさんやBucephalusが個物・個体である。そして人間や馬がこの場合、種であり、動物が類である。個物・個体が種に包摂され、種が類に包摂されている。
さて、sortalsの真のふるさとを引用する。
引用文中の「〔 〕」とその内の字句は、両先生による補足・挿入、出先生訳文中の太字は、先生の訳書中で傍点、山本先生訳文中の鉤括弧は先生の補足、ただしこの鉤括弧内の字句は先生の補足ではない。
実体とは、その勝義の・第一の・また最も主として用いられる意味では、いかなる基体〔主語〕の述語ともならず、またいかなる基体〔主語〕のうちにも存属しないもののことである。たとえば、この人とかこの馬とか〔いうようにこれと指し示される特定の個物〕である。しかし第二義的には、これら第一義的に実体と言われるこれら〔この人とかこの馬とか〕をそのうちに含む〔包摂する〕ところの種、およびこれらの種を含むところの類もまた、実体と言われる。たとえば、この人やあの人は人間という種のうちに含まれ、そしてこの種を含むところの類は動物であるが、この場合、これら、種としての人間やその類としての動物は、第二義的に実体と言われる。[『カテゴリー論』 2 a 11 - 19]
およそ実体と言えばこれなる或るもの〔これなる個物・個体〕のことと考えられている。たしかに、第一義での実体の場合には、この語は、疑いもなく真にこれなる或るものを指し示している。なぜなら、これが指し示している当のものは不可分なものであり、数的に一つであるから。しかし、第二義での実体の場合には、たとえば人間とか動物とか言うとき、なるほどその言い方しだいでは、なんらかこれなる或るもの〔この人とかこの馬とかいう個物〕を指し示しているかにも見えるが、実はそうではなくて、むしろそれがどのような種類のものかを指し示している。[『カテゴリー論』 3 b 10−15。このpaginationは大凡である。]*2
実体 −それも最も本来的な意味で、そして第一に実体と言われ、また最も多く実体であると言われるものは、何か或る基体について言われることもなければ、何か或る基体のうちにあることもないもののことである、例えば或る特定の人間、あるいは或る特定の馬。そして第二実体と言われるのは、第一に実体と言われるものがそれのうちに属するところの種とそれらの種の類とである、例えば或る特定の人間は種としての人間のうちに属し、そして動物がその種の類である。だからそれらのもの、例えば人間や動物は実体としては第二と言われるのである。
しかし、すべての実体は「何かこのもの」を意味するように思われる。ところで第一実体においては、それが「何かこのもの」を意味するということは疑い得ないところで、真実である。というのは〔それによって〕明示されるものは個で、そして数的に一つであるからである。しかし第二実体においては、ひとが「人間」、あるいは「動物」と言う時には、その呼び方の形態によって「何かこのもの」を〔第一実体の場合と〕同様に意味しているように見える。けれどもそれは真実ではない、いや、むしろ「何かこれこれ様のもの」を意味するのである[…]。*3
出先生引用文最後の部分で、第二実体を指す言葉は、指される実体が「どのような種類のものかを指し示している」と述べられているが、この辺りが特にsortalっぽいですね。
なお、上記引用文は、夜中に急いで書き写したので誤字脱字が含まれているかもしれない。よく読み返していない。念のため、正確には引用元となった書を参照下さい。
*1:Sortalsとは何かについては二日前の日記を参照。なおそこにおいてsortalsがどのような重要性を持つのかが若干ながら読み取れると思います。この重要性についてはもう少し敷衍して、いずれ記しておきたいと思っています。可能であればですが…。
*2:出隆、『アリストテレス哲学入門』、岩波書店、1972年、137ページ。この本はAristotleの重要な著述を抜き出し並べ、解説と注解を付したAristotle選集とも言える書物である。
*3:アリストテレス、「カテゴリー論」、山本光雄訳、『アリストテレス全集 1 カテゴリー論 命題論 分析論前書 分析論後書』、山本光雄他訳、岩波書店、1972年、7、12ページ。