The Progenitor of Axiomatic Set Theory

先日読んだ以下の論文について記す。

  • Christian Thiel  “‘Not Arbitrarily and Out of Craze for Novelty’: The Begriffsschrift 1879 and 1893”, in: M. Beaney and E. Reck, ed., Gottlob Frege, Critical Assessments of Leading Philosophers Series, Vol. 2, Frege's Philosophy of Logic, Routledge, 2005


この論文の結論が何であるかはわかりやすい。1879年のBegriffsschriftの革新性は、周知の通り、現代的な量化理論の創出であった*1。そして1893年のBegriffsschriftの革新性は、実は言うと、そこで初めて公理的集合論が生み出されたという点にある*2
1893年のBegriffsschriftでは、いわゆるFregeの値域をsetなりclassと解することができ*3、かつこれらの対象を統制する原理としてBasic Law Vを設定している。このBasic Law Vを含め、その他の公理により、1893年のBegriffsschriftは、公理と定理および推論規則等を含んだ公理系として整備されているので、1893年のBegriffsschriftは集合に関する公理的な理論であると解することができる。ただ1893年のBegriffsschriftは、Russell Paradoxに無自覚・無防備という点で、公理的理論とはいえ素朴な集合論と言える。だが、1903年のBegriffsschriftになると、Russell Paradoxに対し、自覚的に対策を取っているという点で、素朴さを幾分脱し、若干本格的な公理的集合論の装いを取り始めている。このような観察が正しいとするならば、Fregeの1893年のBegriffsschriftの革新性は、幾分素朴ながらも、公理的集合論の創出にあったと言うことができるかもしれない。そして彼の1903年のBegriffsschriftの革新性は、幾ばくか本格的になり始めた公理的集合論の創出にあったと言うことができるかもしれない。
大体以上が、いくらか私の方で補足・敷衍しましたが、上記論文著者Thielさんが最終的に最も主張されたいことだろうと思われます。


ただ、私が上記の論文を読んで、そこから読み取りたいと思う教訓は、1893/1903年のBegriffsschriftが公理的集合論であったという、そのsystemの先進性ではなく、まったく別のことにありました。私にはここに見られる先進性は、表面的なことのように感じられます。公理的集合論創始の先取権はZermeloに従来通り譲っておいてもよいような印象を受けます。むしろ注意・注視せねばならない点は、もっと別の点にあるように感じられます。
それについては上記論文著者Thielさんご自身も注目されておられます*4。それは1903年のBegriffsschriftを経た後での概念の外延、値域、値域名を作るということ、これらのことにあるものと私には感じられます*5
概念の外延、値域、値域名を作るということ、これらについて、なぜかつ如何様に考えるべきかは、力不足でここに記すことができません。


しかし、一言だけ記しておくと、1893年および1903年のBegriffsschriftの革新性が何であったにせよ、1903年Grundgesetzeの後書き以降では、概念の外延や値域という対象は一体どうなってしまうのか、そして値域名を作るという、恐らくは極ありふれた所作・営みが、一体何をしていることになるのか、これらの疑問について、突き詰めて再考するよう迫られている、これが1903年Grundgesetzeを経た後での在り様であり、この方向での再考・探究が一つの可能な探索ルートであろうし、また一度は探索せねばならないルートであろうということ、これです。


ただし、以上は私の単なる思い付きです。明日には撤回させていただくかもしれません。上記のようなルートを探索すると、何か有益な知見が本当に得られるのかどうか、私にはまだ確信が持てません。上記Thiel論文を読んで漠然と抱いた予感を記しただけです。激しい勘違いにとらわれているような気がします。


真夜中なのでもう止めます。
おやすみなさい。

*1:Thiel, p. 25

*2:Ibid., pp. 23, 25.

*3:Ibid., p. 23.

*4:Ibid., pp. 23-5.

*5:これらのことだけに注意していればよいという訳ではありません。