When Did Frege Really Recognize the Collapse of His Grundgesetze System After He Encountered Russell Paradox?

先日から

を読んでいるのですが、発表されなかった原稿のためか、中途半端に終わっている論文との感が否めない*1。Schoenflies氏のやり方ではRussell Paradoxに対処できないとして、自説を展開しようとしているFregeの論文ですが、充分論を尽くして持論の有効性を立証し切れているとは言い難いように感じられる。どうしたものなのだろうか?


ところで以下の本の

4ページから6ページを読むと興味深いことが書いてある。Dummettさんのお考えによると、上記Schoenflies論文を書いている最中に、FregeはかつてRussell Paradoxを受けて手直しした自分のGrundgesetzeが、それでも駄目だ、うまく行かない、ということに気が付いてしまった、とのことである。そしてそのDummettさんの文章からは、Fregeがこのことにはっきりと気が付いてしまったが故に、彼はSchoenflies論文で自説を擁護する試みを断念し、その論文の執筆を途中で放棄したのだと暗に述べておられる。このSchoenflies論文が書かれたのは1906年4月から同年8月初旬の間とのことである*2。DummettさんによるとFregeがRussell Paradoxの前にはっきりと膝を屈したのはこの時だった、この時にFregeのLogicismは彼の目の前で音を立てながら崩壊したのだ、この時にLogicismは放棄されたのだ、ということになる。その後、Fregeはこの崩壊の元凶と考えられた概念の外延/クラスに依存していない無傷の残骸を掘り出して、生涯の最後にまとめ直すという作業に取り掛かる。その作業の結果が、例えばFregeのLogische UntersuchungenだというのがDummettさんの見立てである*3
このDummettさんの話を読んで、Schoenflies論文を思い返してみると、ふと不思議に静謐な気分が心に満ちて来るのを感じる。そうだったのか、と思う。Fregeの運命が、少しばかり我が身に感じられる。そんなことがあったのか、と。まるで久し振りに会った友人・元の恋人が、知らない間に苦労していたことに気付かされた時みたいな感じだ。
Fregeが、上記Schoenflies論文の筆を折った時の気持ちは、どんなであっただろうか?


なお、念のために添えると、以上のDummettさんの見解に大筋同意する研究者もいれば、同意しない研究者もいる。
例えば、

  • Joan Weiner  Frege, Oxford University Press, Past Masters Series, 1999
  • Ditto    Frege Explained: From Arithmetic to Analytic Philosophy, Open Court, Ideas Explained Series, vol. 2, 2004

では、確かに件の1906年にFregeは自らのprojectを放棄したことが読み取れるが、1918年のFregeによる書簡から、まだ彼は概念の外延をある種のクラスに代えて数の概念を明らかにしようと試みており、今までと何か似たようなproject、今までと何か似たような方向でのprojectを、まだ追究し続けているようにも見えるとしている*4。つまりDummett説に基本的に同意はするが、事実はもっと複雑だ、という訳である。
また

  • Harold W. Noonan  Frege: A Critical Introduction, Polity, Key Contemporary Thinkers Series, 2001

では、件の1906年にFregeはGrundgesetzeが結局駄目なことに気が付いた、とは明確に述べられていないが、Dummett説をおおむね了承している論調になっている*5


これに対し、次の本

の228ページに見られる訳者による訳註 *9 では、Dummett説に対し「フレーゲ自身がこの時期(1906年)に公理 V の自身による修正についての不成功を明言している証拠は見当たらない。」として、充分な根拠を持たない主張を牽制している*6


結局、以上の調査からは、Dummett説は魅力的ではあるものの、決定的ではない、と推測される。繰り返すが、以上の貧弱な調査にだけ依拠した場合は、恐らくそういうことになるだろうと思われる。


今日の日記も拙いものであるから、間違いが多々含まれているものと考えられます。その際はお詫び致します。
おやすみなさい。

*1:事実、Fregeは恐らく途中で書くのをやめたのだろうと思われる。この原稿の冒頭に目次のような体裁の項目リストが上げられているが、このリストの最後辺りの諸項目は、原稿本文中で論じられていないようである。

*2:Dummett, p. 6.

*3:Dummett, pp. 5-6.

*4:Weiner, 1999, pp. 128-30, especially p. 130. Weiner, 2004, pp. 125-6, especially p. 126.

*5:Noonan, pp. 131-32.

*6:Kennyさん自身はDummett説に同意しておられる。Anthony Kenny, Frege: An Introduction to the Founder of Modern Analytic Philosophy, Blackwell Publishers, 2000, First published in 1995, p. 176. 訳書226ページ。