2009年読書アンケート

今年も残すところ後わずかとなりました。2009年に読んだ文献・購入した文献で印象に残っているものを振り返ってみました。
私にとってこの一年で印象に残った文献は、Gregory Landini さんの論文です。

  • Gregory Landini  “Russell's Separation of Logical and Semantic Paradoxes,” in: Revue Internationale de Philosophie, vol. 58, no. 229, 2003
  • Ditto    “Logicism's ‘Insolubilia’and Their Solution by Russell's Substitutional Theory,” in Godehard Link ed., One Hundred Years of Russell's Paradox: Mathematics, Logic, Philosophy, Walter de Gruyter, De Gruyter Series in Logic and its Applications, vol. 6, 2004


これらの Landini さんの諸論考に刺激を受けて*1、Bertrand Russell の仕事に興味を覚えたことが今年の大きな収穫でした。Frege に関心を持っている関係で、もちろん Russell に今までにも興味を持ってはきましたが、あまり commit してきませんでした。それが Landini さんの文献をちらほら読むことで、Russell の考えていることに、とても興味が持てるようになりました。
事の発端は Neo-Fregean の Abstraction Principle に関することでした。この Abstrancion Principle については、それが impredicative であるからよろしくないという批判があります(Dummett)。これに対し、それが impredicative で何が悪いという反論があります(C. Wright)。そこで私は impredicativity を復習してみようと、その元々の出所を確認してみました。するとどうやら少なくとも Richard までさかのぼれるのではないかと思われるのですが、impredicativity が人々にとりわけ知られるようになったのは、Poincaré と Russell の考察、特に Russell の Vicious Circle Principle によってではなかろうかと私には思われました。そこで Russell について調べる過程で、「そういえば Landini さんの論文で何かこの種のことについて述べていたな」と思い出し、氏の論考を開いてみた訳です。するとそこでの話がとても刺激的で面白いことがわかりました。
また、Russell の回想を和訳で読み返してもいたのですが、その際に Russell's Paradox と記述の理論の強いつながりに気付かされ*2、記述の理論を件の Paradox 解決策の一環として、きちんと理解し直したいと思うようになりました。私は以前から何よりも Frege の Logicism に興味があります。なぜ彼の Logicism が倒れたのかということに関心があるのです。これとともにこの Logicism を救う手立てはあるのだろうかということにも興味があります。ですからこの Logicism を倒した Russell's Paradox にも関心があるのです。そしてこの Paradox を克服する方法として何があるのかに興味があるのです。そこへちょうど Russell が自らの Paradox 解決のために記述の理論を援用しているということを今更ながら知るに及んで、今までになく Russell の仕事が気になりだしたという訳です。


ちなみに今年入手できてよかったなと思った本は以下の三つです。


1本目は今ちらほら読んでいますが、本当に入手できてよかったと思う。大学で手にとって現物を初めて見た時、とても重要そうだと思いましたが、本当に重要だと改めて思います。

*1:Landini 論文前者については、2009年11月29日の日記‘Russell’s Separation of Logical and Semantic Paradoxes’を、後者については、2009年11月23日の日記‘Neo-Russellian Logicism!?’を参照下さい。

*2:2009年12月13日の日記‘What is the Significance of the Theory of Definite Descriptions in Russell's Philosophical Development?’をご覧下さい。