上記入手文献中の
- Douglas Lackey “Three Letters to Meinong,” in: Russell, Old Series, no. 9, 1973
では、Russell が Meinong に出したドイツ語の手紙3通が英訳されています。1904年、1906年、1907年に書かれた書簡です。どれも興味深い。第1番目の書簡では、Frege の Sinn und Bedeutung が話題に上げられていて興味をそそる。第2番目の書簡では、“On Denoting”の観点から、Meinong の impossible objects について簡単ながら論じられている。第3番目の書簡では、Non-Euclidean Geometory について取り上げられている。
面白いのは、“On Denoting”の書かれる前と書かれた後にまたがるこれら3つのどの書簡でも、Russell は Meinong に対し、「私たちは共に同じ立場にいます。相違があったとしても、それは大した重要性を持ちません」というような趣旨の文章を記していることです。
例えば1904年12月15日付けの書簡では、
I find myself in complete sympathy with its general standpoint, and the problems which it treats are such as seem to me important*1.
と述べています。‘its general standpoint’とは、Meinong の“Über Gegenstandstheorie”における立場のことです。‘it’とは、この Meinong の文献のことです。
また、“On Denoting”を書いた後の1906年11月5日付けの書簡では、次のように述べています。
I too am of the opinion that the differences between us are unimportant. In general I find myself sharing the same standpoint as you do*2.
1907年2月5日付けのものでは
I believe that the difference of opinion between us is not so great as it first seemed*3.
と記しています。
“On Denoting”は、Russell が Meinong と決別すべく Meinongian Jungle をなくするために執筆された、という訳ではないらしいということの傍証が、ここにも見られます。但し、上記の Russell の文章には、多少の社交辞令も含まれているでしょうし、何から何までお互いが見解を共有すると述べている訳でもありませんが…。
