Da Vinci が Wittgenstein にどんな影響を与えたというのだろうか? そもそも両者に何か関係でもあるのだろうか? あまりなさそうに見えるのだが…。
新刊で入手したばかりの以下の本
- Nuno Venturinha ed. Wittgenstein After His Nachlass, Palgrave Macmillan, History of Analytic Philosophy Series, 2010
に載っている次の文を今日読んだ。
- Nuno Venturinha “Introduction: The Wonders of the Jungle”
これを読んでいると面白い指摘がなされている。
Wittgenstein は自身の日記などで、暗号を使って色々と思いをつづっていたことはよく知られている。その暗号は簡単なもので、a を z で表し、b を y で表し、c を x で表し、... というものでした。なぜまた暗号で書いたのかについては、どうもまだ学界では説が確定していないようです。一方で、このような簡単な暗号法は、ある書字法に hint を得て、Wittgenstein は書いているものらしいという見解があるようです。その書字法とは Leonardo Da Vinci の使った筆記法だとのことです*1。
調べてみると、Da Vinci は、いわゆる鏡文字を使って文章をつづっていたようです。鏡文字とは alphabet の左右が反転している文字です。例えば、b を d のようにつづり、E を ∃ のようにつづって、鏡を当てれば普通に読み取れるという書記法です。研究ノートのような手稿に Da Vinci はたくさんの鏡文字を残しているようです。なぜ彼がこのような書き方をしたかについては諸説あるようで、左利きだったから鏡文字にして右から左へと記した方が楽だったとか、発明の秘密などを簡単に盗み取られないようにするためだったとか、色々あるみたいです。
Wittgenstein は第一次大戦前から Da Vinci の手稿本6巻を持っていたようで、それは McMaster の Russell Archives に現在保存されているみたいです*2。このような資料から、Wittgenstein は Da Vinci に触発されて、自身の暗号法を使い出したのではなかろうかということです。なおこの説は、2004年に Φystein Hide さんが公刊した論文に基付いています*3。
以前に Wittgenstein が Goethe と結び付くという話を聞いた時にも、意外な感じがしましたが、それはきっと color で結び付くのだろうという予測がすぐに付きます。そしてこれは単に表面的な結び付きではなく、深いところで結び付いているようです*4。それでは今度は Wittgenstein と Da Vinci は深いところで結び付くであろうか? ちなみに次の本の索引を見る限り、Da Vinci の名前は出てこない。
- ルートヴィヒ・ヴィトゲンシュタイン 『反哲学的断章: 文化と価値 (新版)』、丘沢静也訳、青土社、1999年
二人に深い関係があるのかないのか、私にはわからない。