I Have Finished the Book Routledge Philosophy GuideBook to Frege on Sense and Reference.

次の本を読み終える。

  • Mark Textor  Routledge Philosophy GuideBook to Frege on Sense and Reference, Routledge, Routledge Philosophy GuideBooks Series, 2010

読み終えた印象を、ごく簡単に述べてみる。
この本が重要であるか否かの判断は置いておいて、この本を読んでいて面白かったかどうかと聞かれたならば、概して面白くなかったと答える他はない。面白く読んだページもあったが、しばしば退屈で、読み進めるのをやめようかと思ったこともあった。そのため、読むスピードが途中から急速に落ちてしまって困った。しかし、取り合えず最後まで読んでみようと思い、気を取り直して読み進め、読み終えることができた。本の最後の方は結構面白く読めました。
この感想は、私個人の感想です。別の方が読まれれば、全編に渡ってとても面白いと感じるかもしれません。私の場合、読む前に勝手に自分が期待し予想していた内容と本書の内容とが異なっていたために*1、このイメージのギャップを本の最後近くになるまで埋めることができず、少々読書が空回りしていたとも、今となっては感じられます。わかり切ったことですが、以上の私の印象は、本書の実相を反映していないでしょうから、あてにはなりません。極めて局地的な個人的印象ですので、各自が各自で本書を読まれてそれぞれなりの印象を持たれたらよいと思います。


このように、本の最後の方は別として、気持ちが萎えそうなこともありましたが、読んでいてよく考えてみたいと思う事柄もいくつかのページで見られました。簡単な表現を使って、そのような論点を少し挙げてみましょう。

    • pp. 64f. 諸概念が構成されて文ができ、そのような文どもから論証ができていると考えるのではなく、論証を構成する文から始めて概念へと至るという Frege の idea は Kant に先駆がある*2
    • pp. 89f. 文をその文の部分に分割する (decompose) Frege の方法は、どのようなものであるか?
    • pp. 85, 92 そしてその方法を鍛錬し直した著者の方法 In Focus 法は、有効か? この新たな方法に不都合な点は生じないか?
    • pp. 110f. 語・記号が固有名であるための条件とは何か?
    • p. 199 文が bedeuten する根拠を示す論証は、いかなる形になるか?
    • p. 205 文の Bedeutung が対象であることを示す論証は、いかなる形を取るか?
    • pp. 253f. Frege は晩年に、概念の外延は存在しないと考えるようになったが、ではそうすると(自然)数は何になるのか?
    • pp. 258f. 文 ‘The concept horse is a concept.’ は、Frege によると偽である。しかしこの文は Kant の言うような典型的な分析命題で、馬であるものはこの世に存在するのだから、この文は真である分析命題ではないのか?
    • pp. 259, 266 Is the Bedeutung of the concept horse the same thing as the Bedeutung of the extension of the concept horse? Is it right that what two concept-words refer is the same if and only if the extensions of the corresponding concepts coincide?


最初の Kant の話はあまり重要ではないかもしれないが、その他はどれもとても重要だと私には感じられます。いずれもよく考えてみたい問題であり、再考する際には、Textor 先生のご高著をぜひ再びひも解きたいと思います。
この他に、この本では Frege の判断に関する考えが重要視されているように見える。今後判断についても勉強してみたい。もしも判断論に興味のない方がこの本を読まれる場合には、次の論文を読んでから、この本を開いてみるのも一興かもしれません。

  • 岡本賢吾  「「命題」・「構成」・「判断」の論理哲学」、『思想』、岩波書店、2003年10月号

この論文では、Frege の判断論が今もって actual であることを伝えようとされています。この論文で Frege の判断観の actuality を体感した後で、Textor 本を読むと、より真剣に、緊迫感を持って本の内容に入って行けるかもしれません。

何にしましても、上記の諸問題に関し、再考を促していただきました Textor 先生には感謝を申し上げます。また勉強させてもらいます。
最後に、以上の記述に対しまして、誤字・脱字、無理解や誤解がございましたら、前もってお詫び致します。

*1:‘Bedeutung’ をなぜ ‘reference ’と訳すのかに関して、一言ぐらいあるものだと思いながら読んでいた。また、文の Bedeutung が真理値であるという Frege の見解に対する反論として、Slingshot Argument が取り上げられ検討されるものと思って読んでいた。本書ではどちらについても全く触れられていない。

*2:この件に関しては、当日記の2010年10月9日、項目“Is Frege's ‘Judgement-First’ Principle Anticipated by Kant's Conception of the Understanding?”を参照下さい。