2010年読書アンケート

12月も半ばを過ぎ、年の瀬が迫って参りました。
今年1年間に拝見した文献で、個人的に印象に残っているものを記してみます。


まず、一番興味深く、かつ重要と感じられたのは、

  • Alasdair Urquhart  “Russell on Meaning and Denotation,” in Bernard Linsky and Guido Imaguire ed., On Denoting: 1905 – 2005, Philosophia Verlag, Analytica: Investigations in Logic, Ontology and Philosophy of Language Series, 2005

の末尾に掲載された、Bertrand Russell による以下の書簡でした。

  • Russell's reply to Ronald Jager, 28 April 1960

この書簡では、Russell が自らの Gray's Elegy Argument について、本人の見解を事後的に述べています。恐らくですが、本人が Gray's Elegy Argument について語った、現在のところ、唯一と見られる文献のようです。問題が多く、議論の絶えない Gray's Elegy Argument について、当人が、後々の回想ではあれ、どのように思っているのかを知る上で、極めて重要な文献だと考えられます。この書簡については当日記、2010年2月25日、項目 ‘What Does Russell Himself Say about the Gray’s Elegy Argument?’ と、2010年3月6日 ‘Russell’s Reply Annotated.’ に、その記事があります。Russell のこの書簡は短いものであり、細かい話ですので、一見瑣事に属するかのような印象を与えるかもしれませんが、言語哲学や、広く哲学に対して、巨大な起爆力をもち得る話題だと思います。


次に、長い間、出版が予定されていたものの、なかなか刊行されなかった以下の本が、今年やっと刊行されました。

  • Tom Ricketts and Michael Potter ed.  The Cambridge Companion to Frege, Cambridge University Press, Cambridge Companions to Philosophy Series, 2010

現在私はこの本を読んでいる途中であり、この本に掲載されている論考のすべてが、どれもとても優れているものなのかどうかを判断できませんが、まずはこの本が出版されたことを喜びたいと思います。個人的には巻頭論文である Weiner さんの論考に対して、あまり良い印象を持ち得ませんでしたので、この本に収められている論考のいずれもが非常に良質な仕事だとは、私は断言致しません。この見解に対しては異論もあることだと思いますが、いずれにしましてもこの本がようやく刊行されたことを嬉しく思います。


この他に面白かった本は次の二冊です。

  • Michael Dummett  The Nature and Future of Philosophy, Columbia University Press, Columbia Themes in Philosophy Series, 2010
  • Mark Textor  Routledge Philosophy GuideBook to Frege on Sense and Reference, Routledge, Routledge Philosophy GuideBooks Series, 2010

Dummett さんの本は、話題が一般的であり、かつやさしく書かれているので、大抵の人が読みながら、その人なりの意見や反論を抱きつつ読める本として、楽しめると思います。
Textor さんの本は、読んでいる最中は全く面白くありませんでした。ひどく退屈に感じられて、読むのを途中で放棄しようかと思ったぐらいです。しかし読みながらところどころ重要で興味深い箇所に印を付けたり書き込みを入れたりしながら読み終わり、後でそれらの箇所や書き込みを読み返していると、重要なことに気付かされたりして、興味を覚えました。


あと、以下の文献は、今のところ、掲載されている一部の論文を読んだだけであったり、ところどころ拾い読みした程度なのですが、内容にとても期待が持てるものとして、記しておきます。

  • Paolo Mancosu  The Adventure of Reason: Interplay Between Philosophy of Mathematics and Mathematical Logic, 1900-1940, Oxford University Press, 2010
  • Gregory Landini  Russell, Routledge, The Routledge Philosophers Series, 2010
  • Richard L. Mendelsohn  “Frege's Begriffsschrift Theory of Identity,” in: Journal of the History of Philosophy, vol. 20, no. 3, 1982

これら以外でも、この一年間に刊行された重要な文献はあったと思います。残念ながら私の全く気付いていない興味深い文献もあったでしょうし、目の前にあっても私の感度不足で、それが重要でかつ面白い文献だと気が付かないということもあったかもしれません。また来年にそのような重要と思える仕事に出会えれば幸いです。