- Andrea Cantini ''Extending the First-Order Theory of Combinators with Self-Referential Truth,'' in: The Journal of Symbolic Logic, vol. 58, no. 2, 1993
- Reinhard Kahle ''Frege Structures for Partial Applicative Theories,'' in: Journal of Logic and Computation, vol. 8, no. 5, 1998
- Stephen F. Barker ''Lewis on Implication,'' in: Transactions of the Charles S. Peirce Society,'' in: vol. 42, no. 1, 2006
- 山内志朗 『存在の一義性を求めて ドゥンス・スコトゥスと13世紀の〈知〉の革命』、岩波書店、2011年
- 中島信之 『あいまいさの系譜』、ファジィ・ソフトサイエンス叢書 3, 三恵社、2006年
- 足立恒雄 「フレーゲ、デデキント、ペアノを読む 現代における算術の成立、第5回 ペアノ その2」、『数学セミナー』、2011年8月・9月号
上記、中島先生の『あいまいさの系譜』について、若干 comment しておきます。
私はつい最近、この本の存在を知り、vagueness の歴史を扱っているということで、注文し入手しました。私は中島先生のことを存じ上げず、この本のことも最近まで知らず、三恵社という出版社も今まで知りませんでしたので、正直に言いますと、失礼ながら、あまり過大な期待をせずに注文したのですが、入手して本を手に取ってみると、ページ数はそれほどなく、簡略な記述が見られるものの、古代から現代まで、一通りに渡り、vagueness の (研究の) 歴史が概観されていたので、ちょっと驚きました。もっと簡単な歴史が略述されているだけなのだろうなと予想していたので意外に感じました。
参考までに本の目次を一部簡略化し、補足を加えて以下に書き出してみます。
第I部 あいまいさの系譜 1ページ
第1章 あいまいさ序説 [ここでは、あいまいさとは何か、というような話がなされています。] 3ページ
第2章 あいまいさ前史 [古代と近代におけるあいまいさを解説。Aristotle, Galilei, Descartes, Leibniz, Kant が出てきます。] 18ページ
第3章 Vagueness 時代の夜明け前 [John Locke, J. S. Mill] 28ページ
第4章 あいまいさ研究史概観 [5章以降の概略] 31ページ
第5章 数学と論理におけるあいまいさ (19世紀末から20世紀初頭まで) [Frege, Peirce] 34ページ
第6章 科学におけるあいまいさ (1920年代から第2次大戦まで) [Russell, M. Black, Wittgenstein, C. G. Hempel, A. W. Burks, W. P. Alston] 40ページ
第7章 指示理論とあいまいさ (第2次大戦後) [Quine, S. Körner, S. C. Wheeler, C. Wright] 55ページ
第8章 排中律と連鎖式の逆理 (第2次大戦後) [多数の論者が出てきます。例えば、J. A. Goguen, D. Lewis, D. H. Sanford, Dummett, K. Fine, C. Peacocke, G. Todt など。] 69ページ
第9章 あいまいさの論理とファジィ論理 (1960年から1980年頃まで) [Goguen, Zadeh, C. G. Morgan and F. J. Pelletier] 90ページ
第10章 何処へ (1980年代以降) [近年の研究文献量の急増についてなど] 98ページ
第II部 資料篇 [第II部では、Vagueness を論じてきた各論者の当該論述箇所の和訳を、ごく簡単な comment を時に付しつつ掲載しています。] 103ページ
第11章 語寄せ (1) 辞書に見る [漢語、日本語、英語におけるあいまいさ] 106ページ
第12章 語寄せ (1) 定義 [辞書や各哲学者があいまいさをどのように定義しているのかを調査] 112ページ
第13章 連鎖式の逆理 [連鎖式の歴史、Émile Borel] 117ページ
第14章 文献抄 (1) あいまいさ前史 [Descartes, Leibniz, Kant] 123ページ
第15章 文献抄 (2) フレーゲ、パース、ラッセル、ヴィトゲンシュタイン [Frege, Peirce, Russell, Wittgenstein] 128ページ
第16章 文献抄 (3) ブラック [M. Black] 149ページ
第17章 文献抄 (4) その他の重要な論文 [Quine, R. G. Swinburne, K. Fine, Putnam, S. Read and C. Wright, M. Clark, S. P. Schwartz, G. Rea] 160ページ
参考文献 177ページ
索引 185ページ
中島先生は理系の先生のようです。この本の参考文献表には、そのすべてが直接 vagueness を論じたものだという訳ではありませんが、168本もの文献が掲げられています。なかなか詳しく、とても便利そうな本です。取り合えず手元に置いて、vagueness の歴史的な事柄について何かあったら、すぐこの本を開いて調べてみる、という使い方がよさそうです。実際私はそのように利用させてもらうつもりです。あるいは、これから vagueness を勉強したいという方がおられれば、まずこの本を通読すれば、最近までの大まかな研究の流れがわかるようなので、流れを知りたい方は、最初に一読すればよい本かもしれません。
ただし、かなり多くの文献に目を通して執筆されている本ですが、vagueness を哲学的観点から勉強・研究している人々にとって、重要と思われる文献、恐らく必読とされている文献の名前が、この本の参考文献表にいくつか見当たりません。例えば、vagueness の歴史と言えば、次の本の初めの辺りを皆読まれると思います。
- Timothy Williamson Vagueness, Routledge, The Problems of Philosophy: Their Past and Present Series, 1994
私もこの本の初めの辺りを随分前に copy して持っています (とはいえ、copy しておきながら、私はいまだに読んでいないのですが…。) 本文中でこの本の名前に言及されているところがありますが、参考文献表には出てきていません。
また、次の本の intro. 部分の survey 論文も、皆取り合えず読んでいると思いますが (こちらは私も以前に読んで、感心した覚えがあります)、
- Rosanna Keefe and Peter Smith ed. Vagueness: A Reader, The MIT Press, 1996
この本も参考文献表に上がっていません。
ということで、中島先生のご高著では、一部、重要と目される文献への参照がなされていませんので、完全無欠という訳ではないようです。割と包括的ではありますが、完全に包括的ということではないようです。と言っても、これだけ一通り調べて概略を書き上げるというのは、骨の折れることだったろうと思います。完全ではないものの、そしてまた簡潔な記述ではあるものの、哲学の専門家でも歴史の専門家でもない先生が、哲学や歴史の文献をこれだけ調べてまとめるのは、容易ではなかったろうと想像されます。本格的な vagueness の歴史書は、まだこれから書かれることになると思いますが、日本語でそれが書かれる場合には、この中島先生の本が、こう言っては何ですが、一つのたたき台となるだろうと感じられます。この本は今後色々と利用させてもらう予定です。Vagueness で卒論や修論等々を書こうと思っておられる方は、一応持っておいた方がよい、読んでおいた方がよい本かもしれません。少なくとも、かなり便利であろうと思われます。
ちなみに、webcat でこの本を調べると、埼玉大学にしか所蔵されていないようです。(ただし、webcat に参加していない大学もありますし、先生が個人研究費で購入され、webcat を通さず自らの研究室に配架し、学生・院生の閲覧に供しているというような場合もあるかもしれません。そのような場合は、この限りではありません。) 恐らく少部数しか刷られていないと思われるので、まだ出版社に在庫があるのかどうかは、私にはわかりません。Print on Demand であれば、いつ注文しても入手可能なのかもしれませんが、そうでなければ、必要な方は早めに注文された方がよいかもしれません。
なお、私は vagueness を専門的に勉強している訳ではないので、上記の記述に対し、誤解や無理解、勘違い等がありましたら謝ります。何卒浅慮をお許し下さい。