今日、用事があって、某大学の某敷地内を歩いていた。人通りはまったくない。そこに女の子が乗った自転車が通りすぎた。するとうしろから僕の名前を呼ぶ声が聞こえる。「なぜこんなところで?」と思いながら振り返った。そこには、かつて見たことのある女の子が立っていた。もう何年も何年も連絡を取っていない、懐かしい顔をした女の子。僕はおもわず彼女のあだ名を大きな声で口にした。あまりに突然のことで、信じられなかった。また会えるなんて思わなかった。しかも時々やってくるこの場所で会えるなんて。何の前触れもなく、何も予期しないところで、こんなことが起ころうとは…。
僕にはかつてとても苦しい時代があった。一生懸命やっていたが、うまくいかず、精神的にひどくまいっていた。僕は彼女と携帯電話で話をしていて、その時、何が原因だったのかは覚えていないのだが、僕は苦しくて泣いていた。泣きながら携帯電話を握りしめ、川べりを自転車を押しながら歩いていた。その電話の先には彼女がいた。「苦しい、苦しい」と言う僕を、電話の先で慰めてくれていた。励ましてくれていた。今でもその時のことを、時々思い出す。この時の彼女の温かい気持ちを僕は忘れない。いわゆる「彼女」でも何でもない女の子が、ここまで親身になってくれるなんて。僕はその時、人間の心の温かさを教えてもらった気がする。
この苦しい時代、僕は大きく成長した。僕の人生のターニング・ポイントだった。それは僕の第二の人生の始まりで、その時代を経て、僕は生まれ変わった。生きて行くことができるようになったし、人々のなかにいることができるようになった。僕をそのような人間にしてくれたのが、彼女を含めた多くの人たちだった。あのころは本当にがむしゃらに生きていた。無我夢中で体裁も体面も一切考えず、一直線に生きていた。苦しくて泣いたし、うれしくて飛び上がって喜んだ。「自分のことはあとにして、人のために生きること」、この基本を身をもって教えてくれたのが、彼女たちだった。これで僕の人生が変わった。
彼女はまったくワン・アンド・オンリーの存在だった。いろいろ探しても、ちょっと見つけることのできないタイプの女の子だった。まったく独特の雰囲気と存在感を持っていた。今日、本当にひさしぶりに会ったけど、昔のままの彼女だった。彼女は芸術家方面の人間で、自分の技量だけで独立独歩、生きていた。でも、道端の小さなタンポポのように華奢でかよわく見えた。だから僕はとても心配だった。でも今日会って、少し話を聞くと、最近この大学で働き始めて、結婚もしていて赤ちゃんも生まれたとの話だった。芸術家方面の旦那さんと生活しているらしい。よかった。彼女を助けてくれる人がいるわけだ。幸せそうな笑顔を見せてくれて、とても安心した。本当によかった。元気でいてくれてたんだ。人生を生きていると、いろいろいやな目にあったり、ニュースを見ると、いやな事件が国内外で起きている。でも彼女の笑顔を見て安心した。まだこの世のなかにも、幸せがあるのだ。この地上にも、幸せがあるのだ。
たいした年数を生きているわけではないけれど、人生生きていると、本当に突然、思ってもみない偶然の再会を経験することがある。今日みたいな、こんな経験ができるのだから、ささやかながら、「生きていてよかったな」と思う。どこかで誰かが見てくれているんだ。一人ではないという気がする。僕も誰かのことを見ていてあげたいと思う。僕は、彼女と彼女の人生に感謝したい。本当にありがとう。ありがとうね。
人ごみに流されて 変わってゆく私を
あなたはときどき 遠くでしかって
あなたは私の 青春そのもの
written by Yumi Arai