Heartless Davidson and Romantic Davidson

前回に続いて、最近購入した

  • Maria Baghramian ed.  Donald Davidson: Life and Words, Routledge, 2012

から、そこに収録されている Davidson さんに関する面白い思い出話をご紹介致します。今回は Marcia Cavell のお話です。Cavell さんは Davidson さんの元奥さんです。たぶんですが、三番目の奥さんだと思います。彼女は、Stanford で B.A. を、Harvard で Ph.D を哲学で取得されたあと、America のいくつかの大学で教え、その後、精神分析学に興味を持たれ、勉強されたようです*1。上記の本の17ページから引用します。Davidson さんて、何だかちょっと冷たいなぁーと思わせる逸話です。試訳も付しました。少し開き気味に訳しています。しかし試訳は私による訳ですので、間違っている可能性が大変高いですから、英語ができる方は無視してください。誤訳がございましたら謝ります。誠に申し訳ございません。

Another airplane story is not so romantic. Donald had spent hours on our deck in California, watching the hawks circle above, waiting for an updraft. Shortly after 9/11 I asked him what he would do if he knew our building was on fire. He said he would take measure of the air currents, spread his wings and take off, looking for the best moment for a dive into the water. 'What about me? Would you take me?,' I asked. His description suggested a one-person plan, but I assumed that somehow his imagination took care of me as best as possible in such dire circumstances. Without a pause he said 'Of course not! You wouldn't know how to do it and you'd just kill us both.' His friends laughed. I did not, or not easily.


飛行機にまつわるもう一つ別の話は、そんなにロマンティックじゃない。Donald は Calfornia にある私たちの自宅のテラスで、鷹が空高く舞い上がるのを待ちながら、頭上で円を描いて舞うのを眺めつつ、何時間も過ごしていた。それは 9/11 の少しあとのことだったので、私たちのいるビルから火が出ているのに気付いたら、どうするか、聞いてみた。窓を開けて空気の流れを確保し、両腕を広げて構え、眼下の水面に飛び込む頃合を見計らって、飛び降りる、と彼は言った。「私はどうするの? 一緒よね?」と私は尋ねた。彼の描写は一人で脱出するつもりを思わせたけれど、そんな恐ろしい状況下でも、できる限り私のことを何とか考えてくれているものと思った。けれど次の瞬間、彼は言った。「そんなわけないよ! どうすればいいんだよ、それじゃあ二人とも死んじゃうだけじゃないか。」 彼の友人たちは笑った。私は笑えなかった。少なくとも簡単には。

確かに笑えない。本気なのかな、Davidson さんは。あるいは彼特有の合理的な判断なのかもしれないけれど、人間として、ちょっとどうかと思うけれど…。まぁ、Cavell さんも、あとで「やれやれ」という感じで笑みを浮かべられたようなので、半ば冗談だったのでしょうけれど、確かに romantic な話じゃないですね。


最後は Davidson さんの romantic なお話で締めます。これも17ページからの引用です。

After Rutgers I visited Donald in California. It was just before we decided to marry. When he did ask me to marry him, I said 'Yes.' But to see what he would say, I asked, 'Why Marry? Why not just live together? We're obviously too old for children.' I was fifty-one, Donald sixty-five. 'Because marriage is romantic,' he said. A week or so before that, sitting in the garden he loved to tend, he said, 'I have something for you. Don't worry about it. You don't have to marry me.' He brought out a little box that held a beautiful, simple diamond ring. 'It was my mother's. I have been saving it for you all these years. I don't know which finger you want it on, so you do it, I mean, if you want to wear it at all.' I decided to put it for the moment on the ring finger of my right hand, which is where I wear it now.


Rutgers のあと、私は California の Donald を訪れた。私たちが結婚を決める直前のことだった。結婚してくれないかなと実際に言われた時、私は「いいわ」と答えた。だけど真意を確かめるために尋ねた。「なぜ結婚を? 一緒に暮らすだけでもいいんじゃない? 子供を授かるには明らかに年を取りすぎてるんだし。」 私は51で、Donald は65だった。彼は「結婚って、ロマンティックだから」と答えた。その一週間かそこら前に、自身手入れをするのが大好きだった庭で腰かけながら、彼は言ってきた。「君にあげたいものがあるんだ。心配しなくていいよ。別に結婚する必要はないんだから。」と言いながら、小さな箱を取り出した。なかには美しくてシンプルなダイヤの指輪が入っていた。「母のだよ。ここのところずっと君のためにと思って取っておいたんだ。どの指にはめたいのかは、わからないけれど、はめてくれないかな。そのー、はめたいと思ってくれるならばね。」 私はとりあえず、右手の薬指にはめることにした。そして、それは今でもそこにある。

なぜ左手の薬指ではないのか、わからないけれど、まぁ、いいや。この翻訳文を書き下しているとき、私の頭の中では、たまたまですが、Eric Carmen の 'All by Myself' という曲が流れていました。この曲の名前は知らなくても、サビの部分を聞けば、多くの方が思い出す曲です。翻訳文の内容と、歌詞のいみがぴったり合っているというわけではありませんが、まったく無関係とも言えないと思います。しかし、まぁ何と言ってもこの曲の melody は、万感の思いがこもっており、また切なくもありますので、何となく romantic な曲ですね。ご存じの方は、この曲の melody を口ずさみながら、上記の文章を読んでみてください。何だか、いい感じかもしれません。

*1:Baghramian, p. xiv.