A Derivation of the Contradiction in Frege's Grundgesetze System: Professor Michael Resnik's Membership Version

ここのところ、anecdotes の類いが続いたので、今度は何回かに分けて形式的な話を記したいと思います。
特に深いいみはないのですが、Frege の Grundgesetze 体系で矛盾が出てくる様を見てみたいと思います。わざわざここで記すまでもなく、この様子については知られておりますので、必要性は高くありませんが、何となく記してみたいと思いましたので、個人的に記してみます。矛盾導出のうち、M. Resnik さんがこの矛盾を証明している例を二つと、M. Giaquinto さんが証明されている例を一つ、そして Frege 自身が証明している例を二つ、提示したいと思います。Resnik さんの二つの例は、所属関係を利用した証明と利用していない証明です。Giaquinto さんの例は Resnik さんの所属関係を使った例を簡略化したものです。そして Frege の例は所属関係を利用したものと利用していないものです。Frege の例は、彼独特の記法をできるだけ尊重した形で提示したいのですが、Latex などなどに精通していないため、どこまでできるか現時点ではわかりません。ひょっとすると、Frege による例は提示するのを取り止めるかもしれません。

今回は Resnik さんの所属関係を利用した証明例を、次の本に依って記します。

  • Michael D. Resnik  Frege and the Philosophy of Mathematics, Cornell University Press, 1980, p. 212.

以下の証明は、Resnik さんの証明をなぞって敷衍、補足したものです。Resnik さんの証明は簡潔なもので、ところどころ証明の step が略されていますが、以下で提示する証明は、かなりの程度、この略されている step を復元しています。(Resnik さんの証明の記述を、以下で一部省いているところもあります。) よく言えば丁寧で親切な証明の記述となるでしょうが、悪く言えばくどすぎて長すぎる記述だと思います。くどくて長すぎて、かえってわかりにくくなっていると思いますが、論理学が苦手な方は、これぐらい詳しい方が安心するのではないかと思います。(私もその方が安心します。) 論理学に強い方は、Resnik さんの本を直接ご覧いただければと存じます。なお、以下の記述には間違いが含まれている可能性がございます。細かく書きましたので、間違いが含まれていましたら、それを容易に特定することが可能だと思います。ですから、もしも以下を読まれる方がございましたら、ゆっくりと慎重にお読みください。そうすれば、間違いがある場合、足をすくわれずに済むと思います。あらかじめ含まれているであろう誤りに対し、お詫び申し上げます。


それでは、Resnik さんによる所属関係を使った矛盾導出の例を示します。

以下、引用符を省いて記述します。Use / Mention distinction についても、あまり細かく使い分けをしません。F, G, H を任意の述語、または性質とし、a を任意の単称名、または個体とし、x, y, z を変項とします。また ∈ を所属関係、≡ を双条件法、⊃ を実質条件法、・ を連言記号、¬ を否定、∃ を存在量化子、(x) や (F) のように、丸カッコ内に変項や述語がある表現は普遍量化子、'xFx のように apostrophe を伴う表現は、性質 F を満たすもの x からなる class を表すとします。式の先頭に式の名前を書き込んでありますが、Resnik さんの付けた名前をそのまま尊重して利用するとともに、Resnik さんが名前を付けていない式には、当方で名前を付けさせてもらっています。


まず、一つ定義を掲げます。

    • (Df)  x ∈ y ≡ (∃F )( y = 'zFz ・ Fx ).

これは、例えば以下のように読まれます。x が y に属するのは、次の場合、かつその場合に限る、すなわち、ある性質 F があって、F を満たすもの z からなる class を y とし、かつ x がその F に帰属する。ただし (Df) のこの読み方よりも、いわばそのいみ内容を理解してください。つまり、この式の左辺において、x が class y に属するということが、この式の右辺で言い表されている様を把握してください。

次に、Frege の基本法則 V に相当するものを掲げます。

    • (V)  'xFx = 'yGy ≡ (z)( Fz ≡ Gz ).

これは、例えば以下のように読まれます。性質 F を満たす x からなる class と性質 G を満たす y からなる class とが同一なのは、次の場合、かつその場合に限る、すなわち、任意のもの z が F に帰属するならば G にも帰属し、かつその逆も成り立つ。この式についても、読み方は別にして、いみ内容に注意を払ってください。つまり、左辺での class の同一性が、右辺で言い表されている様を見てください。

さて、次の二つの式 (α), (β) は常に成り立ちますので、以下の証明の前提とします。

    • (α)  'xFx = 'xFx.

これは、ある class が自分自身に等しいということであり、一般的には何かものが自分自身に等しいということであって、普遍的に成り立つことであると考えられます。

    • (β)  Fa ⊃ ( 'xFx = 'xFx ・ Fa ).

この式も常に成り立ちます。仮に (β) が成り立たない、つまり (β) が偽であると仮定してみましょう。(β) が偽となるのは、その前件が真でかつ後件が偽である場合のみです。今、前件の Fa を真とします。この時、後件 'xFx = 'xFx ・ Fa は偽となるでしょうか。この後件が偽となるのは、この後件である連言文における連言肢の、少なくとも左右どちらか一方が偽である場合です。左右の連言肢のうち、右連言肢 Fa は、先ほど仮定した通り、真です。ならばこの連言文を偽とするためには、左連言肢 'xFx = 'xFx が偽とならねばなりません。しかし、この連言肢は常に真です。よってこの連言文を偽とする場合はなく、(β) は常に成り立つということになります。


さて、ここから、Frege の基本法則 V に相当する (V) を利用すると、二階の論理のもと、矛盾が帰結することを証明します。

まず、Fa と仮定します。すると、(β) と Modus ponens により、(β) の後件 'xFx = 'xFx ・ Fa が帰結します。

この後件 'xFx = 'xFx ・ Fa の二番目と三番目の F を H で存在汎化すると、(∃H )( 'xFx = 'xHx ・ Ha ) *1.

この式 (∃H )( 'xFx = 'xHx ・ Ha ) は、上記 (Df) の右辺に相当するので、a ∈ 'xFx.

この式 a ∈ 'xFx は、Fa と仮定することから出てきましたから、条件法を導入して

    • (0)  Fa ⊃ a ∈ 'xFx.


次に、この (0) の逆を証明します。

    • (Df)  x ∈ y ≡ (∃F )( y = 'zFz ・ Fx )

の x に a, y に 'xFx, F に G を代入し、 z を y に付け替えると、

    • (γ)  a ∈ 'xFx ⊃ (∃G )( 'xFx = 'yGy ・ Ga ).

今、a ∈ 'xFx と仮定します。すると、(γ) と Modus ponens により、(γ) の後件 (∃G )( 'xFx = 'yGy ・ Ga ) が出ます。

この後件 (∃G )( 'xFx = 'yGy ・ Ga ) の G を H で存在例化すると、'xFx = 'yHy ・ Ha.

ここから、連言文が成り立てば、その各連言肢も成り立っているはずなので、'xFx = 'yHy が出ます。

ところで (V) により、'xFx = 'yHy ≡ (z)( Fz ≡ Hz ).

'xFx = 'yHy が出ていたから、これと 'xFx = 'yHy ≡ (z)( Fz ≡ Hz ) とで Modus ponens により、(z)( Fz ≡ Hz ).

z を a で普遍例化すると、Fa ≡ Ha.

先ほどの 'xFx = 'yHy ・ Ha からは、Ha も出るので、Fa ≡ Ha と Ha で、Modus ponens により、Fa.

この Fa は、a ∈ 'xFx と仮定したことから出てきたので、条件法を導入して

    • (2)  a ∈ 'xFx ⊃ Fa.

これで (0) の逆が証明できました。


よって、この (2) と、以前に引き出した、

    • (0)  Fa ⊃ a ∈ 'xFx

とで、

    • (3)  a ∈ 'xFx ≡ Fa.

ここで、¬( x ∈ x ) を、class x は自身に属さないということとし、'x( ¬( x ∈ x ) ) を、自身に属しない class x からなる class とします。

そこで、上記 (3) の a と F は任意でしたから、a に 'x( ¬( x ∈ x ) ) を、F に ¬( x ∈ x ) を代入すると、

    • (4)  'x( ¬( x ∈ x ) ) ∈ 'x( ¬( x ∈ x ) ) ≡ ¬( 'x( ¬( x ∈ x ) ) ∈ 'x( ¬( x ∈ x ) ) )

となります*2


(ここまでで Resnik さんの証明は終わっているのですが、以下を私の方で補足しておきます。)


この (4) の

    • 'x( ¬( x ∈ x ) ) ∈ 'x( ¬( x ∈ x ) )

を P とおけば、(4) は次のように書かれます。

    • (5)  P ≡ ¬P.

今、P と仮定しましょう。すると (5) と Modus ponens により、¬P です。今、P と仮定していましたから、P と ¬P とで連言記号を導入すれば、

    • (6)  P ・¬P.

これは矛盾です。

一方、¬P と仮定すれば同様に、(5) と Modus ponens により、P で、¬P と仮定していましたから、

    • (7)  P ・¬P

となって、やはり矛盾します。

P または ¬P のどちらかでしょうから、以上により、どちらにしても矛盾が帰結します。


次回は、Resnik さんが所属関係を使わずに矛盾を証明している例を記述してみたいと思います。今回の記述に対し、間違いや誤字、脱字等が含まれておりましたら謝ります。大変すみません。

*1:念のために注記しておきますと、普遍汎化の場合と異なり、'xFx = 'xFx ・ Fa の F をすべて存在汎化する必要はありません。J. ノルト、D. ロハティン、『例題で学ぶ現代論理学 I 』、加地大介訳、マグロウヒル出版、1994年、192ページ。

*2:この式の読み方をここではあえて記しません。その読み方はすごくややこしく、「Class の class が class の class の…」というような呪文みたいな文になり、詳しくない方は間違いなく頭がこんがらかって、理解できた感じがしないでしょうから。読み方よりも、いわばそのいみ内容を把握するように努めてください。