Does a Doggy Also Perform an Inference?: Chrysippus's Dog, or the Dog Using a Disjunctive Syllogism.

わんこも、ものを考えるのでしょうか。古代ギリシア世界において、わんこだってものを考えていることが立証されているようです。と言うのは少々言いすぎですが、わんこも結構考えているのじゃないか、と主張する人びとが古代ギリシアにいたようです。その主張によると、犬は選言三段論法を駆使しているのだそうです。この話は割と有名だと思います。簡単な哲学の辞典でも言及されていますので*1、結構知られた話だと思います。今日はそのお話をここに記しておきたいと思います。おそらくですが、後日この日記でその選言三段論法について話すつもりでおります。そのため、その前口上のようなものとして、今回のお話を記します。ただし、そのお話を引用するだけで、何らの comment も致しませんが…。


さて、犬が選言三段論法を駆使しているという報告は、例えば次の文献に出てきます。

この本では、Sextus Empiricus, 『ピュロン主義哲学の概要』、第1巻、69節から、以下のような文章が引用されています。


Sextus が言います。

 また、クリュシッポスは非理性的な動物にことのほか敵対していた人であるけれども、その彼によると、犬はかの有名な問答法をさえ与り知っているのである。ともかく上述のこの人は、十字路に到達した犬が、獣が通っていなかった二つの道を嗅いだのち、第三の道は嗅ぎも し な い でただちにその道を突進していくときには、多数の選言肢をもった第五の証明不可能な議論 (推論) を会得している、と主張しているからである。すなわち、この昔の人の主張によれば、犬は実質的に次のような推論を行なっているというのである − 「獣が行った道は、この道か、あるいは、この道か、あるいは、この道かのいずれかである。しかるに、この道でも、この道でもない。したがって、この道である」。*2


同じ本の中で、似たような話がもう一つ出てきます。以下ではまず Annas and Barnes 先生が言葉を述べられ、それから Pyrrho の話を引用されています。

「非理性的な動物にことのほか敵対していた」クリュシッポス […] が、それにもかかわらず、犬が理性をもっていると認めている −実際、論じている− のである。セクストスが伝えている話は、他のいくつかの資料にも見出される。ピロンはそれを次のように述べている。

猟犬が獣を追っていた。猟犬は、右側と左側に一つずつ、計二つの小道が傍らにある深い縦穴のところへさしかかったとき、ほんの少し手前のところまで来ていたのだが、どちらの道をとったらよいかと考えた。右側へ行って何の跡も見出さなかったので、戻って来てもう一方の道をとった。そちらにもはっきり感覚できる痕跡は何もなかったので、猟犬はそれ以上嗅ぐことをしないで、縦穴に跳び込み、急いで跡を追っていった。これは、偶然によるのでなく、むしろ思考を働かせ考察することによって遂行されたのである。論理学者たちは、この思慮に基づく勘考を「複雑な第五の証明不可能な議論」と呼んでいる。というのは、獣は、右へ逃げたかもしれないし、左へ逃げたかもしれないし、そうでなければ、跳び込んだことになるからである。

(『動物ついて』四五-四六節)


犬は三つの選択肢に直面している。すばやく嗅いでみることで二つの可能性は消去される。それ以上嗅ぐことはしないで犬は第三の道をとる。この行動をどう説明すべきであろうか。クリュシッポスは、犬が何らかの簡単な推論を行なったにちがいないと論ずる。すなわち、犬は実質上、「A か、あるいは B か、あるいは C かのいずれかである。しかるに A でない。かつ B でない。したがって C」と自らに語ったのである。(セクストスは、五つの「証明不可能な議論 (アナポデイクトス anapodeiktos)」、すなわち、標準的なストア派論理学の基礎的議論型を『概要』第二巻一五七 − 一五八節で列挙している。第五の証明不可能な議論は、「A か、あるいは B かのいずれかである。しかるに B でない。したがって A」というものである。犬の推論は、その最初の前提が、二つではなく三つの選言肢を含んでいる点において「複雑」なのである。)*3

以上の選言三段論法については、ちょっと述べておきたいことがありますが、ここではそれはやめ、後日この日記で記すために取っておきたいと思います。とはいえ、そこでは大したことは述べておりませんが…。

Reference

  • J. M. ボヘンスキー  『古代形式論理学』、岩野秀明訳、論理学古典選書 2, 公論社、1980年、142-143ページ。
  • Benson Mates  Stoic Logic, University of California Press, 1953, p. 80.


以上、誤解、無理解、誤字、脱字等がございましたらすみません。

*1:Entry 'disjunctive syllogism,' in Thomas Mautner ed., The Penguin Dictionary of Philosophy, 2nd ed., Penguin Books, Penguin Reference Series, 2005, p. 166.

*2:『古代懐疑主義入門』、102-103ページ。

*3:『古代懐疑主義入門』、128-130ページ。