Habermas, Weber, and Beethoven

前回の日記の冒頭でも述べましたとおり、このところずっと嵐に見舞われていて、日記を書くことのできるような心境ではありません。今日はそんな日々でも記すことのできる簡単な事柄を書きます。


先日書店で次の新刊を手に取って眺めていました。

  • エルンスト・ハーニッシュ  『ウィーン/オーストリア二〇世紀社会史 1890-1990』、岡田浩平訳、三元社、2016年

岡田先生の訳者あとがきの部分を見ていると、「あっ、そうなんだ、それは知らなかったな」ということが書かれていました。それは極めて重大かつ深刻なことだ、というわけではなく、瑣事に属することなのでしょうけれども、私がまったく気が付かなかったことでしたので、ここに簡単に記しておきたいと思います。なお、以下の話は岡田先生の訳者あとがきの763ページから764ページに書いてあったことです。


さて、岡田先生はかつて1980年から81年にかけてドイツに滞在されていたとき、ドイツのラジオ放送をたくさんカセットテープに録音されたそうです。そしてそれを聞いていてわかったことらしいのですが、思想家の Habermas は、日本では「ハーバーマス」とか「ハーバマス」などと記され発音されているようですが、ドイツでは「ハーバマース」と通常発音されているそうです。「ハーバーマス」、「ハーバマス」と記したり発音したりするよりも、「ハーバマース」とするほうが原音に近いらしいです。これは知りませんでした。

また社会学者の Max Weber は、その姓を日本語では「ヴェーバー」としたり「ウェーバー」としていますが、当地のラジオでは、にごらずに「ウェーバー」と発音しているらしいです。これも知りませんでした。何となく「ヴェーバー」が正しいと思っておりましたが、そうでもないみたいです。

最後に音楽家の Beethoven ですが、もちろんこの名前は日本では「ベートーヴェン」ですけれども、向こうでは「ベートホーフェン」だそうです。これも全然知りませんでした。ちなみに私のほうでドイツ語の辞書を引くと確かに [bé:tho:fən] となっていて(相良守峯監修『独和中辞典』研究社)、'Beethoven' の音節は 'Beet' と 'hoven' で切れるみたいです。そうなんだ。しかし「ベートーヴェン」なら、髪を振り乱し難しい顔をした彼らしい姿にぴったりな感じですが、「ベートホーフェン」だとどこかのお上品な貴族みたいな気がして、何だかしっくりこないですね。慣れれば何ともないのでしょうけれど…。


以上は岡田先生による情報です。広いドイツのどの地域でも、いつでも、どの人でも、Habermas を「ハーバマース」と必ず発音しているのか、Weber を必ずにごらずに発音しているのか、Beethoven は例外なく「ベートホーフェン」と発音しているのか、私自身は未確認です。言葉の発音は時代と地域と、発音する社会階層や発音する場面で、実際は色々と異なってくるでしょうし、今後も発音は変化して行くでしょうから、Habermas は必然的かつ永遠に「ハーバマース」と発音されるのだ、とすることはできないかもしれませんが、しかし岡田先生の現地情報によれば、Habermas は「ハーバマース」で、Weber は「ウェーバー」で、Beethoven は「ベートホーフェン」がより正確なのだそうです。ちょっとしたことですけれども勉強になりました。ありがとうございます。

本日の記述は記憶に基づいて記していますので、間違って記憶し、間違って記しているようでしたら大変すみません。岡田先生にもお詫び申し上げます。正確には上記の図書の訳者あとがきをご覧ください。