What Characteristics Does Leśniewski's Formula 'A ε b' Have?: Some Materials. Part 2

前回に続き、Leśniewski's Ontology の key term 'ε' を理解するのに有用な文章の列挙、part 2. 今回で完結です。

  • Czeslaw Lejewski  ''On Leśniewski's Ontology,'' in: Ratio, vol. 1, no. 2, 1958, reprinted in Jan T. J. Srzednicki, et al. eds., Leśniewski's Systems: Ontology and Mereology, 邦訳、チェスラウ・レジェウスキー、「レスニェウスキーの存在論について」、石本新、渡辺昌三訳、『論理思想の革命 理性の分析』、石本新編、東海大学出版会、1972年。The English citation is from the journal Ratio.

The functor of singular inclusion occurs in expressions of the type 'a ε b' (to be read: a is b). A proposition of this type will be said to be true if and only if diagram II.1 or diagram II.3 illustrates the semantical status of the two names for which the 'a' and the 'b' stand. Otherwise it will be a false proposition.*1

「単称包摂関数」は、''α ε b'' (α は b であると読む) という形の表現において現われる。このような種類の命題は図表 II・1、あるいは II・3 が ''α'' と ''b'' に対応する二つの名辞の意味論上の地位を表わしているときに、またそのときに限って真である。それ以外の場合にはこれは偽なる命題である。*2

この引用文によると、'a ε b' が真であるのは、Diagram II.1, II.3 が見られるとき、かつそのときに限る、ということになります。そこで、Diagram II.1, II.3 を説明します。

まず、Diagram I.1, I.2 の説明。I.1 は単称名のことです。下の黒丸のオタマジャクシみたいな図がそうです。言語表現で言えば、たとえば、'Venus', 'Hesperus', 'Phosphorus', 'Cuba' などです。I.2 は一般名のことです。下の白玉のオタマジャクシみたいな図のことです。言語表現で言えば、たとえば、'island', 'man', 'book' などです。

次に、Diagram II.1, II.3 の説明。

II.1 は I.1 が二つ ('a' と 'b')、ぴったりと重なり合っているところを表しています。それは主語である単称名 ('a') と述語である単称名 ('b') が、ぴったり重なり合っていることを示しています。

II.3 は I.1 の小さな黒丸 ('a') が I.2 の大きな白丸 ('b') に含まれるように重なっているところを表しています。主語である単称名 ('a') が述語である単称名 ('b') に、含まれるようにして重なっていることを示しています。

上の Diagram II.1 が示しているのは、'a ε b' の 'a' と 'b' の両方に単称名が来ていて、それぞれの単称名が指しているただ一つのものが実際に存在しており、かつ 'a' と 'b' が指しているものが同じ場合のことです。たとえば、'a' を 'Hesperus', 'b' を 'Phosphorus' とすれば、'Hesperus ε Phosphorus' とした場合です。'Hesperus', 'Phosphorus' はどちらも金星を、かつ金星だけを指しています。

上の Diagram II.3 が示しているのは、'a ε b' の 'a' に単称名が来ていて、その単称名が指しているただ一つのものが実際に存在しており、かつ 'a ε b' の 'b' に一般名が来ていて、'a' が指しているものが 'b' に関して成り立つ場合 ('b' に当てはまる場合) です。たとえば、'a' を 'Cuba', 'b' を 'island' とすれば、'Cuba ε island' とした場合です。'Cuba' は the USA の南に浮かぶ島を、かつその島だけを指し、'island' は島を表す一般名です。

こうして、図表を使って言うならば、'a ε b' が真であるのは、Diagram II.1, II.3 が見られるとき、かつそのときに限る、というわけです。


ここから下の box 内の式 (1) から (4) に関する話は、(一部、式の番号は違いますが) 次を参考にして私がまとめたものです。Slupecki, ''S. Leśniewski's Calculus of Names,'' in Studia Logica, pp. 20-21, or in Leśniewski's Systems, pp. 72-73. および次も参照しました。Sinisi, ''The Development of Ontology,'' p. 60, note 7. Russell, Introduction to Mathemarical Philosophy, pp. 176-177, 邦訳、ラッセル、『数理哲学序説』、弘文堂書房、270-272ページ、岩波文庫、231-232ページ。

なお、ここでの話は前回の日記で引用した Sobocinski, ''Leśniewski's Analysis of Russell's Paradox,'' p. 42, c) の詳しい説明です。

次の (1) は Leśniewski の体系 Ontology の公理であり、その右辺が 'ε' のいみを文脈的に明らかにしていると言えるものです。(なおこの式は 'ε' の定義ではありません。式中の '≡' の両辺に 'ε' が出てきているので、定義ではありません。)


 (1) x ε X ≡ [∃y]{ y ε x } ∧ [y, z]{ y ε x ∧ z ε x ⊃ y ε z } ∧ [y]{ y ε x ⊃ y ε X }.


この右辺は、次の連言から成っていることがわかります。


 (2) [∃y]{ y ε x },
 (3) [y, z]{ y ε x ∧ z ε x ⊃ y ε z },
 (4) [y]{ y ε x ⊃ y ε X }.


これらの連言が、(1) の左辺の 'ε' のいみを詳らかにしていると言えます。


さて、(2) は「少なくとも一つ (at least one) の y が x である」と言っています。(一応 '∃' は、厳密なところ、Leśniewski の Ontology においては存在を含意しないとされています。ですから '∃' に関しては、「少なくとも一つのかくかくが、しかじかである」と読まれます。もっと厳密に言うと、そもそも Leśniewski は '∃' という記号を公式には使いません。彼は Frege と同様に、普遍量化子と否定記号でそれに代えています。ただし、非公式にはそれを使いますが。)


(3) は何を言っているのでしょうか。それは次のとおりです。

(3) の [y, z] は、'∀y∀z' のことで、この (3) をそのまま普遍例化すると、


 (3.1) y ε x ∧ z ε x ⊃ y ε z.


今度は (3) の [y, z] における、y を z で、z を y で普遍例化すれば、(3) は


 (3.2) z ε x ∧ y ε x ⊃ z ε y.


この式の連言肢を入れ換えると、


 (3.3) y ε x ∧ z ε x ⊃ z ε y.


この (3.3) の条件文前件は、(3.1) の条件文前件と同じ。ところで (3.1) の条件文後件は 'y ε z'. (3.3) の後件は 'z ε y'. したがって (3.1) および (3.3) の同じ前件からは 'y ε z ∧ z ε y' が出ます。以上、'y', 'z' はともに普遍例化して出てきた表現なので、(3) からは普遍量化子を前置した次の式を結論して構いません。


 (3.4) [y, z]{ y ε x ∧ z ε x ⊃ y ε z ∧ z ε y }.


さて、式 'α ε β' が成り立つ時、'α' は単称名であって、存在しているものを一つ、かつ一つだけ指しています。'β ε α' も成り立っていれば、'β' も単称名であって、存在しているものを一つ、かつ一つだけ指しています。よって、'α ε β ∧ β ε α' が成り立っていれば、'α' と 'β' は同じ一つのものを指していることになるので、この場合、'α = β' と言えます。したがって、(3.4) の条件文前件が成り立つならば、その後件 'y ε z ∧ z ε y' も成り立って、この時、'y = z' です。そしてこの 'y' と 'z' は (3) の前件中の連言肢 'y ε x' と 'z ε x' に出てきていたことを一瞥しておきましょう。

こうして (3) が言っているのは次のことになります。すなわち、(3) の前件の x であるもの y, z は、どれも等しい。つまり x となるもの y, z は、あるなら一つだけ、たとえば y だけです。要するに x であるもの y, z があるとしたら、高々一つ (at most one), たとえば y だけだ、ということを述べているのが (3) です。

こうして (2) では「少なくとも一つの y が x である」と言われ、(3) では「x であるもの、たとえば y は、高々一つである」と言われており、要するに「y は少なくとも一つであり、かつ高々一つである」と言われているから、これはつまるところ「y はちょうど一つである」と言っていることになります。


最後に、(4) はほとんど字義通りです。つまり、何であれ x であるものは、X でもあります。何かが x であるならば、それは X でもあります。だから、「何であれ」とか「何かが」という言葉を略して言い直せば、x は X である、ということを (4) は述べています。


(2), (3), (4) を合わせて考えると、(1) の左辺 'x ε X' が言っているのは、'x' は実際に一つのものを、かつ一つのものだけを指し、その指されたものは X である、ということになります。

(以上に関しては、当日記、2012年1月15日、項目 ''The Longer Single Axiom of Leśniewski's Ontology Comes from the Contextual Definition of the Definite Article of Russell's Theory of Descriptions. In Particular, its Axiom Comes from the Definition in Russell's Introduction to Mathematical Philosophy.'' も参照ください。それにしても長い項目名ですね。我ながらそう思います。)


これで終わります。'ε' を含んだ式のいみが、大体のところ、おわかりになった感じでしょうか? 私は何となくですが、大体のところでは、わかったような感じがしてきました。大体ですが…。

以上、間違ったことを書いておりましたら謝ります。どうかお許しください。

*1:''On Leśniewski's Ontology,'' in Ratio, p. 157, also in Leśniewski's Systems, p. 129.

*2:「レスニェウスキーの存在論について」、209ページ。邦訳引用文中の ''α ε b'' は、邦訳原文では ''α ∈ b'' となっていますが、引用の際に ''α ε b'' と改めました。なおこの邦訳は、英語論文からではなく、ドイツ語論文からの邦訳のようです。