別々の paradox に見える the Liar paradox, Curry's paradox, Russell's paradox が、もしもすべて同じ paradox だとしたら、どのように思われますか? それらが同じ種類のものだとしたらどうでしょう? 同じ matrix, format から発現しているものだとしたら?
The Bald Man paradox (薄毛の人のパラドックス) と the paradox of the Heap (砂山のパラドックス) が同じ種類の paradox であることは一般に認められていると思います。同様に the Liar paradox, Curry's paradox, Russell's paradox も同じ paradox の別々の形態に過ぎないのならば、それは意外なことですし、その場合、それらの paradox を統一的に、かつ一挙に解決してしまうことも夢ではありません。少なくともそのような解決を夢想することは許されるでしょう。
では、the Liar paradox, Curry's paradox, Russell's paradox はみな同じ種類の paradox なのでしょうか? とりあえず本日記す内容の目次を掲げます。
- Section 1. Is the Liar Sentence a Special Case of the Curry Sentence?
- Section 2. Curry and Russell Come from the Same Home Town, Namely the General Structure.
- Section 3. The Liar too!
Section 1 では、the Liar paradox に見られるうそつき文が、Curry's paradox に見られる Curry Sentence の一特殊事例になっているという見解を示します。
Section 2 では、Curry's paradox と Russell's paradox が同じ一般的構造から出てくることにより、ともに同じ種類の paradox であるという見解を細かく説明します。
Section 3 では、the Liar paradox も同じ構造から出てくるので、これも先の二つの paradox と同じ種類の paradox であるという話をします。
本日記す内容から引き出される結論: The Liar paradox, Curry's paradox, Russell's paradox はみな同じ種類の paradox である (可能性がある)。
注意: このあとの本論で、the Liar paradox, Curry's paradox, Russell's paradox のすべてが同じ種類の paradox である可能性を述べますが、はたして本当にこれらすべてが同種の paradox であるのかどうかについては現在係争中であり、専門家の間でもおそらくまだ決着がついていない模様です*1。実際、これらの paradox を同じ種類のものと見なすことに対しては、重要な反論が存在します。次がそれです。
- Graham Priest ''What If?: The Exploration of an Idea,'' in: The Australasian Journal of Logic, vol. 14, no. 1, 2017, Section 15.4: Neo-Curry Paradoxes, pp. 118-119.
私はこの反論を十分考慮しておりません。この反論に何も答えておりません。そのため、このあとの話は、この反論が決定的だとするならば、すべてが崩壊するか、あるいは一部が崩壊するものと思われますので、以下の話を全部正しいものと思い込んで読むようなことはないようにお願い致します。なお、言うまでもありませんが、このあとの話に私の original な主張はございません。すべて既知の事柄です。注意終わり。
Section 1. Is the Liar Sentence a Special Case of the Curry Sentence?
The Liar paradox は Curry's paradox の特殊形なのでしょうか? Curry's paradox を特殊化したものが、the Liar paradox なのでしょうか? Curry's paradox が the Liar paradox の一般形なのでしょうか?
- Roy T. Cook Paradoxes, Polity, Key Concepts in Philosophy Series, 2013, p. 76,
によると、上記の問いに対しては ''Yes'' と答えられるようです。まずそのことを確認してみましょう。その際、以下の文献該当個所を参考にしています。つまり、
の、Section ''2.1 Truth-Theoretic Version,''*3 です。
The Liar paradox と Curry's paradox を見ると目立つのは、そこにある Liar Sentence と Curry Sentence です。そこでこれらの文に注目してみます。
さて、Liar Sentence を
(1) この文は真ではない
とし、この文を 'L' と呼ぶと、
(2) L = この文は真ではない
となります。(2) の右辺の「この文」とは L のことです。そこで
(3) L =. L は真ではない。*4
としてもよさそうですが、(3) は正しくありません。なぜなら L は文であり、(2) や (3) の右辺の「は真ではない」という表現の主語には、文ではなくて文の名前がこなければ文法的におかしいからです*5。そこで、言語表現から、その名前を作る手立てを '[ ]' で表せば*6、(3) は
(4) L=. [L] は真ではない。
とする必要があります。
今、真理述語 (「〜は真である」) を 'T' とし、否定記号を '¬' とすると、(4) は
(5) L = ¬T[L]
となります。そして '⇔' を同値記号とした時、
T-Schema: T[A] ⇔ A
が成り立つとすると*7、(5) は
(6) T[L] ⇔ ¬T[L]
となります*8。
再び T-Schema により、(6) は
(7) L ⇔ ¬T [L]
です。
次に否定の定義を記します。この定義は、しばしば許容されているものです。今、'Φ' は文あるいは式を一般的に表わすものとし、'⊥' は矛盾式または偽を表わすものとする時、否定記号 '¬' は
¬Φ ⇔def. Φ → ⊥
と定義されます ('→' は material conditional を表わします)。そうすると、(7) の否定記号を否定の定義により書き換えるならば、
(8) L ⇔. T [L] → ⊥
となります。
ところで Curry Sentence は
(9) L ⇔ T [L] → Φ
と書くことができます。この 'Φ' を '⊥' で置き換えてやると
(10) L ⇔. T [L] → ⊥
です。これは (8) に他なりません。(9) の 'Φ' は一般的に文/式を表わしていましたが、(8) (= (10)) の '⊥' は一意に矛盾式/偽を表わします。つまり Curry Sentence は、いわば、一般性をそこに含みますが、形式化された Liar Sentence (8), (10) は、いわば、一般性をそこに含まず、Curry Sentence の特殊例になっていると思われます。
ということは、the Liar paradox は Curry's paradox の特殊形であり、the Liar paradox を一般化したものが Curry's paradox なのだ、ということになりそうです。しかし、それは本当でしょうか? もしもそれが本当ならば、the Liar paradox を解決するためには、その一般形である Curry's paradox を解決する必要があり、かつ Curry's paradox を解決してやれば、それとともに the Liar paradox も合わせて解決されるということになりそうです。そうだとすればこのことは、問題の二つの paradox を解決するにあたり、とても重要な戦略的知見をもたらしそうです。つまり問題の二つの paradox を別々に解決してやる必要はなく、ただ一つだけ、Curry's paradox を解決してやるだけで済むのであり、わざわざ the Liar paradox まで手を出す必要はなく、より一般的な Curry's paradox こそ、何よりも解決してやる必要があるのだ、と考えられます。
実は、the Liar paradox も Curry's paradox も、ともにより一般的な、共通の構造から生み出される paradox だと主張されるようになって来ています。それは 'Curry connective' と呼ばれる結合子 ⊙ に伴っている、ある一般的な規則から生み出されます。そのことを次の section で見てみましょう。
Section 2. Curry and Russell Come from the Same Home Town, Namely the General Structure.
この section では*9、以下の文献のなかの、
- Lionel Shapiro and Jc Beall ''Curry's Paradox,'' in: The Stanford Encyclopedia of Philosophy, Winter 2017 Edition,*10,
次の部分の内容を、''5.2 Pointing to a General Paradox Structure,''*11 ほとんどそのままなぞって一部補足を入れ、くどくどと述べ直したものです*12 *13。
Section 1 では Curry's paradox と the Liar paradox の関係について述べましたが、この Section 2 では Curry's paradox と Russell's paradox の関係について述べます。そして、このあとの Section 3 で再び Curry's paradox と the Liar paradox の関係について述べることにします。
さて、上の Shapiro and Beall 先生による文献の中の ''5.2 Pointing to ... '' の説明によるならば、Curry's paradox と Russell's paradox は同じ一般的構造から出てくるとのことです。この構造に対し、条件法記号 (→) を使えば前者の paradox が生じ、否定記号 (¬) を使えば後者の paradox が生じます。
この一般的構造は、Curry's paradox の原因となる単項命題結合子を定義することで明示できます。それを「Curry 結合子」と呼びます。
(Curry 結合子の定義) π を、理論 T の言語による任意の文としましょう*14。T における π に対し、単項結合子 ⊙ が Curry 結合子であるのは、次の二つの原理を満たす場合です。なお、以下の ⊢ α は T で α が定理であるということ、α ⊢ β は T で前提 α から結論 β が帰結するということです。
(P1) If ⊢ α and ⊢ ⊙α, then ⊢ π.
(P2) If α ⊢ ⊙α, then ⊢ ⊙α.
差し当たり、⊙ にはいみはないので、P1, P2 の式が何をいみしているのか、そのことはここではわからなくても構いません。P1, P2 の式が「何かに似ている」と、可能であるならば、感じてもらえればと思います。何に似ているかは、以下で明らかになります。(今、感じられなくても大丈夫です。)
次に、この結合子に加えて、問題の一般的構造を示すには、下記の Generalized Curry-Paradox Lemma が必要です。
(Generalized Curry-Paradox Lemma: GCPL) T を次のような理論としましょう。その理論では同一性規則 Id ( i.e., α ⊢ α ) が成り立ち、かつある文 π と μ について、(i) T によれば、μ と ⊙μ は、それらが現れている文において、真理値を変えることなく互に交換可能 (Curry-intersubstitutivity) であり、かつ (ii) T における π に対し、⊙ は Curry 結合子であるとします。この時、T では ⊢ π となります。つまり T におけるあらゆる文 π が定理となります。
Proof:
1 μ ⊢ μ Id
2 μ ⊢ ⊙μ 1 Curry-intersubstitutivity (1 の結論 μ を ⊙μ と交換)
3 ⊢ ⊙μ 2, P2
4 ⊢ μ 3 Curry-intersubstitutivity (3 の ⊙μ を μ と交換)
5 ⊢ π 3, 4, P1
今話題としている一般的構造とは、上記の P1 と P2 と Generalized Curry-Paradox Lemma (GCPL) の組です。つまり、
The General Structure = < P1, P2, GCPL >.
Generalized Curry-Paradox Lemma (GCPL) からは、単項結合子 ⊙ を条件法記号による式で置き換えれば Curry's paradox が生じ、⊙ を否定記号で置き換えれば Russell's paradox が生じます。具体的な手順としては、次のとおりです。まず、Generalized Curry-Paradox Lemma から Curry's paradox を引き起こしてみましょう。最初に Curry Interpretation という下ごしらえを作ります。
(Curry Interpretation) Curry's paradox を引き起こすためには、単項結合子 ⊙ に関し、⊙α を α → π に置き換え、T における μ を μ → π と、これらが現れている文において、真理値を変えることなく互に交換可能な文としましょう。つまり、μ と μ → π に関しては、μ が Curry Sentence なわけです (μ ⇔. μ → π)。そうすると P1 は Modus Ponens (MP) となり、他方 P2 は Contraction (Cont) となります*15。下に P1 を再度掲示し、それを MP へ書き換えてみましょう。P2 も Cont に書き換えてみましょう。
- (P1) If ⊢ α and ⊢ ⊙α, then ⊢ π.
- Curry Interpretation では単項結合子 ⊙ に関し、⊙α を α → π とするのでした。この π は任意の式を表わすので、それを β とすれば、⊙α は α → β となります。そこで P1 の ⊙α を α → β と書き換え、and の前後を入れ換えれば、下の MP になります。
- (MP) If ⊢ α → β and ⊢ α, then ⊢ β.
- (P2) If α ⊢ ⊙α, then ⊢ ⊙α.
- この ⊙ に関し、⊙α を α → π とするのですが、π を β とすれば、⊙α は α → β となるので、その上でこの P2 を書き換えると、下の Cont になります。
- (Cont) If α ⊢ α → β, then ⊢ α → β.
下ごしらえは作り終えました。ここで、the General Structure の GCPL に Curry Interpretation を施すことで、実際に Curry's paradox が生じることを確かめてみましょう。
Curry Interpretation では単項結合子 ⊙ に関し、⊙α を α → π とするのでした。この α は任意の文を表わすので、α を μ に付け替えると、⊙α と α → π はそれぞれ ⊙μ と μ → π となります。このようにすることを念頭において、先ほどの Lemma (GCPL) の Proof を再び掲げ、その下部に Curry Interpretation の内容、指図を書き込むと、以下のようになります。
Proof:
1 μ ⊢ μ Id
2 μ ⊢ ⊙μ 1, Curry-intersubstitutivity
3 ⊢ ⊙μ 2, P2
4 ⊢ μ 3, Curry-intersubstitutivity
5 ⊢ π 3, 4, P1.
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- 2 の ⊙μ を μ → π とします。Curry-intersubstitutivity を Curry Sentence とします。
- 3 の ⊙μ も μ → π とします。P2 は Cont とします。
- 4 の Curry-intersubstitutivity を Curry Sentence とします。
- 5 の P1 は MP とします。
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この下部の指示に従えば、
1 μ ⊢ μ Id
2 μ ⊢ μ → π 1, Curry Sentence
3 ⊢ μ → π 2, Cont
4 ⊢ μ 3, Curry Sentence
5 ⊢ π 3, 4, MP
となります。これは Curry's paradox です。
今、the General Structure の ⊙ を条件法記号で置き換えることで、Curry's paradox が生じるのを見ました。今度は the General Structure の ⊙ を否定記号で置き換えれば Russell's paradox が生じるのを見てみましょう。まず、先ほどの Curry Interpretation に対応する下ごしらえ Russell Interpretation を記します。
(Russell Interpretation) Russell's paradox を引き起こすためには、⊙α を ¬α に置き換え、T において、μ を ¬μ と、これらが現れている文で、真理値を変えることなく互に交換可能な文としましょう。これは要するに Russell Sentence (μ ⇔ ¬μ) のことです。すると、P1 は ex contradictione quodlibet (ECQ) となり*16、他方 P2 は reductio (Red) となります*17。下に P1 と P2 を再度掲げ、それぞれを ECQ, Red に書き換えてみましょう。
- (P1) If ⊢ α and ⊢ ⊙α, then ⊢ π.
- Russell Interpretation では単項結合子 ⊙ に関し、⊙α を ¬α とするのでした。また、P1 の π は任意の式を表わすので、それを β としましょう。そうすれば下の ECQ になります。
- (ECQ) If ⊢ α and ⊢ ¬α, then ⊢ β.
- (P2) If α ⊢ ⊙α, then ⊢ ⊙α.
- ここの ⊙α を ¬α とすれば、ただちに下の Red になります。
- (Red) If α ⊢ ¬α, then ⊢ ¬α.
下ごしらえはできました。ここで、the General Structure の GCPL に Russell Interpretation を施すことで、実際に Russell's paradox が生じることを確かめてみましょう。前に記した Lemma (GCPL) の Proof を再び提示し、その下部に Russell Interpretation の内容、指図を書き込みます。なお、先の ECQ: If ⊢ α and ⊢ ¬α, then ⊢ β の β は任意の式を表わすので、ここではこの β を元の π としておきます。つまりこの場では If ⊢ α and ⊢ ¬α, then ⊢ π が ECQ です。
Proof:
1 μ ⊢ μ Id
2 μ ⊢ ⊙μ 1, Curry-intersubstitutivity
3 ⊢ ⊙μ 2, P2
4 ⊢ μ 3, Curry-intersubstitutivity
5 ⊢ π 3, 4, P1.
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- 2 の ⊙μ を ¬μ とします。Curry-intersubstitutivity を Russell Sentence とします。
- 3 の ⊙μ も ¬μ とします。P2 は Red となります。
- 4 の Curry-intersubstitutivity を Russell Sentence とします。
- 5 の P1 は ECQ となります。
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この下部の指示に従えば、
1 μ ⊢ μ Id
2 μ ⊢ ¬μ 1, Russell Sentence
3 ⊢ ¬μ 2, Red
4 ⊢ μ 3, Russell Sentence
5 ⊢ π 3, 4, ECQ
となります。これは Russell's paradox によって引き起こされた不合理だと言えます。
Section 3. The Liar too!
この前の section では Curry's paradox と Russell's paradox の関係が述べられ、両者が同じ一般的構造から発現することを見ました。では the Liar paradox はどうなのでしょうか? The Liar も同じ一般的構造から出てくるものと思われます*18。このことの確認は簡単に済みます。上の GCPL と Russell Interpretation を少し書き換えるだけで済むからです。この Section 3 は手短に終えます。GCPL と Russell Interpretation を書き換える前に、簡単な準備をします。
Section 1 で、うそつき文
(1) この文は真ではない
を書き換えて行くと、
(6) T[L] ⇔ ¬T[L]
が出ました。この文を、同値記号を残して日本語に直すと
(6.1) 「この文は真ではない」は真である ⇔ 「この文は真ではない」は真ではない
となります。ところで、たとえば、「花子は太郎を愛している」が真であるならば、花子は太郎を愛しています。したがって、(6.1) の左辺は、カギカッコを取って、真理述語を省けば、次のように書き換えられます。
(6.2) この文は真ではない ⇔ 「この文は真ではない」は真ではない。
また、たとえば、「花子は太郎を愛している」が真ではないならば、花子は太郎を愛していません。したがって、(6.2) の右辺は、やはりカギカッコを取り、真理述語を省き、元々カッコ内にあった文を否定してやれば、次のように書き換えられます。
(6.3) この文は真ではない ⇔ この文は真ではないことはない。
この右辺は、一般に、以下のように書き換えられます。二重否定を肯定に変えます。
(6.4) この文は真ではない ⇔ この文は真である。
こうして、(6.1) を (6.4) のように書き換えることができるので、(6) は次のように書き換えることができます。
(6.0) L ⇔ ¬L.
これを the Liar Sentence Variant と呼ぶことにします。これで準備は終わりました。
さて、the General Structure の GCPL に Russell Interpretation を施せば、そこから Russell's paradox が出てくるのでした。今度はこの GCPL の証明に出てくる文 'μ' を全部、今先ほどの 'L' に直し*19、Russell Interpretation の中の Russell Sentence (μ ⇔ ¬μ) を、今先ほどの the Liar Sentence Variant (L ⇔ ¬L) に書き換えてやれば、すべての作業は終了です。まず、Section 2 末尾で提示した、Russell's paradox が出てきた証明を、もう一度記してみましょう。
1 μ ⊢ μ Id
2 μ ⊢ ¬μ 1, Russell Sentence
3 ⊢ ¬μ 2, Red
4 ⊢ μ 3, Russell Sentence
5 ⊢ π 3, 4, ECQ
これを今の指示に従って書き換えると、次になります。
1 L ⊢ L Id
2 L ⊢ ¬L 1, The Liar Sentence Variant
3 ⊢ ¬L 2, Red
4 ⊢ L 3, The Liar Sentence Variant
5 ⊢ π 3, 4, ECQ
この 3 と 4 の導出は the Liar paradox の出現だと言えます。そしてそこから 5 が「爆発」して出てきているわけです。こうして the Liar も、同じ the General Structure 出身だとわかりました。結局、これまでの話が正しいとするならば、正しいとすればですが、the Liar paradox, Curry's paradox, Russell's paradox の三者はみな同じ町の出身であるということになると思われます。(すると、これら三者のうち、一つだけを解決して満足するのではなく、全員を一網打尽にしなければならないでしょうね。その場合、the General Structure に何か制限をかければ、それだけで一網打尽にできるかもしれません。いや、そんなに簡単に行くのかな? 不安になってきました ... 。単に制限をかけるだけではなく、そのような制限を課す際にも、それなりの哲学的、論理学的、さらには数学的正当性を要求されるでしょう。なかなか大変ですね。)
この日記項目の冒頭でも述べましたが、the Liar paradox, Curry's paradox, Russell's paradox が全部同類の paradox であるかどうかについては、まだ専門家の間でも意見が分かれています。そのため、ここまで記してきたことが正しいかどうか、慎重な検討を要します。私自身もまだ確信を持つことができていません。日記の初めで言及した Priest 先生の反論にも、私なりの答えを出すことができていません。今回は暫定的な見取り図を自分の勉強のためもあって記してみた次第です。これらのことに興味のある方は、よろしければ本日の日記を参考にして考えてみてください。
以上、誤字、脱字はもちろん、誤解や無理解や勘違いや大間違いが含まれていましたら大変すみません。一部表現の使用と言及の区別を明確にせず述べていた部分もあったろうと思います。それらすべてに対しお詫び申し上げます。もう少し勉強致します。
*1:Mark Colyvan, ''[Philosophy of Logic: 5 Questions],'' in T. Adajian, T. Lupher eds., Philosophy of Logic: 5 Questions, Automatic Press, 2016, pp. 61-62. 2016年に出たこの本の p.62 で、論理学の哲学に関し、現在最も重要な open problem を尋ねられた Colyvan 先生は今問題にしている三つの paradox が同じ種類のものなのかどうか、読者に問いかけておられます。
*2:<https://stanford.library.sydney.edu.au/archives/sum2010/entries/curry-paradox>. これは、The Stanford Encyclopedia of Philosophy における entry ''Curry's Paradox'' の旧バージョンです。ご注意ください。
*3:<https://stanford.library.sydney.edu.au/archives/sum2010/entries/curry-paradox/#2>.
*4:等号右下の '.' は区切りを示すために入れています。
*5:たとえば、「「花子は太郎を愛している」は真である」は文法に適っていますが、「花子は太郎を愛しているは真である」は文法に適っていません。
*6:日本語でよく使うカギカッコ '「 」' でも構いませんが、体裁上、'[ ]' を使っておきます。
*7:T-Schema とは、簡単には真理述語の基本的特徴を記したもの、あるいは定めたものであり、図式 (schema) であって、ここの場合では 'A' に任意の式を代入することができて、この schema からは無数の同値式が生み出されます。
*8:T-Schema により、(a) T[L] ⇔ L. 今 (5) L = ¬T[L] なので、(a) の右辺の 'L' を (5) の右辺の '¬T[L]' と入れ換えれば (6) になります。
*9:上の Section 1 では、記号 '→' を material conditional としていました。この Section 2 ではその記号を必ずしも material conditional と初めから解すべきではないのですが、話が細かくなりすぎるので、このあたりのことは不問に付しておきます。
*10:<https://plato.stanford.edu/archives/win2017/entries/curry-paradox/>. こちらは、The Stanford Encyclopedia of Philosophy における entry ''Curry's Paradox'' の、2017年秋に出た新バージョンです。ご注意ください。
*11:<https://plato.stanford.edu/entries/curry-paradox/#PoinGeneParaStru>.
*12:このあと、私は the General Structure というものの解説を行っていますが、Shapiro and Beall 先生は、''5.2 Pointing to a General Paradox Structure'' で the General Structure について語っておられるものの、それが正確に言って、あるいは具体的に言って、何であるのかに関しては、明示されておられません。代わりに私が以下でそれを明示してみました。これが間違っておりましたらすみません。また、以下では 'Curry Interpretation,' 'Russell Interpretation' という言葉が出てきますが、これらの言葉は Shapiro and Beall 先生によっては使われていません。事柄をはっきりさせ、言及しやすくするために、私が付けた名前です。
*13:以下の私の記述を理解するには、この 5.2 の section までの知識がいくらか必要ですので、以下を読まれる際には前もって 5.2 までを読んでおいていただければ幸いです。ただし、既に Curry's paradox を一定程度ご存じであれば、この限りではございません。
*14:Section 1 で真理述語を 'T' で表わし、ここではある理論のことを 'T' と言って、同じ文字で表わしていますが、文脈からして混同される恐れはないと思いますので、同じ文字を使うことにします。
*15:Curry 結合子の定義の終わりで、P1 と P2 が何かに似ていると述べましたが、その似ているものとは、この MP と Cont のことです。
*16:近年、ECQ は「爆発律 (explosion)」とも称されています。
*17:Curry 結合子を定義した際の終わりあたりで、P1 と P2 が何かに似ていると言いましたが、その似ているものとは、MP と Cont に加えて、ECQ と Red のことでもあります。
*18:このことについて、同種の指摘が先の Shapiro and Beall 先生の文献 ''Curry's Paradox'' における section ''5.2 Pointing to a General Paradox Structure'' の註26に見ることができます。See <https://plato.stanford.edu/entries/curry-paradox/notes.html#note-26>.
*19:'μ' は任意の文を表わしていたので、それを 'L' に書き換えることができます。