読書概要: Peter Simons “The Next Best Thing to Sense in Begriffsschrift”

以下を終わり近くまで読み返す。

  • Peter Simons  “The Next Best Thing to Sense in Begriffsschrift”, in: Frege: Sense and Reference One Hundred Years Later, Dordrecht, Kluwer Academic Publishers, 1995

読んだところまでを大雑把にまとめると、以下の様である。
Fregeの文献ではしばしば同一性言明が重要な役割を果たしている。“Uber Sinn und Bedeutung”(以下SB)論文の冒頭などがその典型である。この冒頭で同一性言明に絡めてSinnが導入されている。
ところでSinnとBedeutungはBegriffsschrift(以下BS)の概念内容(Conceptual Content)が2つに分かれて出てきたものだと思われているが、それは単純すぎる。実は言うとBSの中の同一性言明に相当する記号の説明の場面で、後のSinnの萌芽が見られるのである。それは概念内容の規定様式(Bestimmungsweise)である。そしてここからBSには記号と、記号の概念内容と、概念内容の規定様式が区別でき、これら三者はそれぞれ順に後の記号、Bedeutung, Sinnになるのである。ではなぜBSの段階ではまだSinnは萌芽状態であって今だ発芽には至っていないのか? 何がSinnの発芽を妨げていたのか?
著者の診断によると、この段階のFregeは記号が何か1つのものについてのもので、記号とそれがいみするものとを媒介するものを自律的なものとして見做していなかった、概念内容の規定様式に相当するこの媒介者を物化または例化(hypostatize or reify)することをFregeが拒んでいた、というところにあるとのことである。
この物化・例化の拒否により、BS段階のFregeの意味論にはその単純性からくる無理がかかっており、言語現象の様々なパターンを説明できかねるものだったが、規定様式を物化し、Sinnとして自律的に扱い始めると、SB論文での分析に見られるように、様々な話法などの分析に力を発揮し、Fregeの意味論はmatureなものへと発展を遂げたのである。このような発展を促した文脈は、BSでもSB論文でも同一性言明の分析という脈絡からなのである。
以上、備忘録的にかなりはしょってまとめてみた。これは今日読んだ第7節までの極めて大まかな概略である。誤読してなければよいが、正確・詳細には本文を参照しなければならない。
しかし歴史学的な観点からではなく、理論的な観点からいって、BSにすでにSinnに相当するものが見られる、それは概念内容の規定様式だ、という主張はちょっと驚きである。これは重々ちゃんと検討してみる必要があるだろうな。ちなみに論文題名の‘The Next Best Thing to Sense’とは先ほどから記してきたBS中の概念の規定様式のことである。Sinnを使ってほどうまく言語現象を説明できるわけではないが、それに準じるレベルで説明に資するもの、というほどのいみか?