読書: Some Papers on Russell's “On Denoting”

以下をカフェで読む。

  • 松阪陽一  「フレーゲのGedankeとラッセルのProposition −“On Denoting”の意義について」、『科学哲学』、vol. 38, no. 2, 2005
  • David Kaplan  “What is Russell's Theory of Descriptions?”, in W. Yourgrau and A. Breck, ed., Physics, Logic, and History: Based on theFirst International Colloquium held at the University of Denver, May 16-20,1966, New York, Plenum Press, 1970

前者ではRussellの“On Denoting”におけるGray's Elegy Argumentが解説・検討されている。どうやらGray's Elegy Argumentによると、FregeのSinnに相当するdenoting concepts/denoting complexというものは、それについて語ろうとしてもうまく語れないので怪しい…、という論証なのだろうか?
後者は昔からある記述理論に対する有名な解説。なるほど、ふむふむ。
“On Denoting”というのは、確定記述句に関する理論であって、確定記述句を含む文‘The such-and-such is so-and-so.’をそれを含まない文‘One and only one thing is a such-and-such, and that one is so-and-so.’に換え、この変換の際に生じるあいまいさを手なずける手立てを確立した論文と思われているかもしれないが、実はそうではない、と主張されている*1。少なくとも“On Denoting”というのは確定記述句に関する理論だ、と解するのは、あまりに浅く狭い理解であると言っているようである。そうではなくこの論文は確定記述句をその一つとして含んだ表示句denoting phraseに関する理論なのであって*2、そのようなglobalな観点から見ると、ここでRussellが展開してる重要なideaはlogically imperfect languageをlogically perfect languageに翻訳することで哲学的問題を解決しようという試みであり*3、この翻訳の際に行なわれているのは、被定義項としての確定記述句に定義項を与えることで定義しているのでもなければ*4、省略語として確定記述句を捉え、この記述句を省略する前の元の言葉に展開して戻しているのでもない*5、そうではなく論理的に不完全な自然言語の文を論理的に完全な言語のlogical formに翻訳しているのだ*6、ということらしい。

PS. あと次ぎの文献も眺める。本当は今日はこの文献をよく読みたかった。

  • Nathan Salmon  “Russell's “Gray's Elegy Argument””, ms., February 2004

これはたった4ページの原稿だけど、Russellの“On Denoting”におけるGray's Elegy Argumentの部分を、より微細な言葉と何種類もの引用符を用いて逐語的に言い変えたもの。結構meticulousである。これが理解できれば、かなり理解できたことになりそうだ。しかしよくここまでやりますねSalmonさんも。
なお飯田先生『大全』IのRussellの章の註(57),(58)で、Gray's Elegy Argumentに関する参考文献が合わせて3つほど上がっているが、

  • Nathan Salmon  “On Designating”, in: Mind, vol. 114, no. 456, 2005

のnote 3では、最近までのを含めて23もの関連文献を上げていて要checkものと思われる。

*1:Kaplan, pp. 278-288.

*2:Kaplan, p. 279.

*3:Ibid.

*4:Kaplan, p. 282.

*5:Ibid.

*6:Kaplan, pp. 282-283.