読書メモ: Berkley School Had a Contempt for From Frege to Godel.

昨日に続き、以下をカフェで少し読む。

意外に思ったことを一つ。田中先生の回顧談を引用する*1

1980年代に入り、私は両書[Shoenfield Mathematical Logic, van Heijenoort From Frege to Godel]を抱えて、カリフォルニア大学バークレー校の大学院に留学した。まず驚いたことに、バークレーではハイエノールトの本は人気がない、というよりも嫌われている感じであった。理由は徐々にわかったのだが、要するにバークレー学派の祖タルスキの仕事についてほとんど触れていないばかりか、彼を育てたポーランド学派や、その研究のルーツになるブール、パース、シュレーダーらの仕事をほぼ完全に無視していたからである。

From Frege to Godelバークレーの人々に嫌われていたとは知らなかった。確かにTarskiやポーランド学派や昔の論理代数派の仕事は(Lowenheim, Skolemを除いて)このsource bookに掲載されていないことは、よく知られていたことだけど、多くの重要文献が集成されているので*2、貴重な本であることに変わりはないと思うのだが、嫌わなくともよかろうにと思う。
しかしなぜFrom Frege to GodelにTarskiの論文が載っていないのか? 1931年までに出たTarskiの論文が一つぐらい載ってもよさそうな気もするのだが。私の記憶違いのようにも思うけれども、HeijenoortさんはTarskiさんの論文を例のsource bookに載せようとしたが、著作権の問題から、それを断念せざるを得なかった、という話をどこかで読んだような気がする。しかしどこで読んだのか思い出せない。私が勝手に想像したことをどこかで読んだものと勘違いしているのかもしれない。多分私の勘違いである。しかしあり得そうな話ではある。というのは以前、Steven GivantさんがTarskiさんを紹介する文を読んだことがあり、そこには以下のように書かれていた*3

A different aspect of Tarski's attitude towards recognition can be found in his dealings with publishing houses.He did not share the opinion that mathematicians should be indifferent to their earnings from scientific publications. He was careful to negotiate contracts that gave him a satisfactory royalty and that clearly specified those rights he was ceding to the publisher and those he was retaining. Several contract negotiations with him foundered because publishers did not agree to a high enough royalty percentage.

From Frege to Godelに掲載される文献は論理学史上、画期的な論文である。歴史上画期的な論文ならば学問上価値が高い。学問上価値が高いならば、貨幣に換算しても高価なものとなろう。だとすると印税も充分もらわなければ筋が通らない、というのがTarskiさん側の言い分であろう、掲載の交渉が仮になされていたとするならば。しかし印刷部数の少ない学術書に高い印税は支払うことができない。そういうわけで残念ながらTarski論文掲載の話はご破算となった、ということである。以上は私の単なる空想に過ぎないのかもしれない…。

*1:田中一之、「ブールからゲーデルへ 20世紀ロジックの形成」、田中一之編、『ゲーデルと20世紀の論理学 1 ゲーデルの20世紀』、東京大学出版会、2006年、4ページ。

*2:倉田令二朗「数学基礎論の発生と展開(上) 1879-1931」、『数学セミナー』、1981年9月号の62ページに件のsource bookについて倉田さんは次のように述べておられます。「数学基礎論ないしは数理論理学の現在においてもなお、もっとも重要な問題のほとんどすべての起源をこれらの文献の中に見出すことができよう。」 また倉田さんも論理代数派、特にSchroderの仕事が掲載されていないことに憤っておられます。63ページ参照。

*3:Steven R. Givant, “A Portrait of Alfred Tarski”, in: The Mathematical Intelligencer, vol. 13, no. 3, 1991, p. 26.