の解説をいくらか読む。するととてもささいなことだが、?と思うことがあったので調べてみる。それは以下のようなこと。
136ページ、註41に次のようにある。
ゲーデルの[いわゆる不完全性定理]論文のp.22にあるような「集合による順序対」を最初に定義したのはN. ウィーナーである.
そこで22ページの該当箇所を見るとこうある*1。
例えば, 順序対a, bは{{a}, {a, b}}で定義できる.
順序対a, bを{{a}, {a, b}}と最初に定義したのはN. ウィーナーだったのだろうか? この順序対の定義は大変有名なものである。調べてみると、厳密に言うならば、先のように順序対を定義したのは1921年のKuratowskiのようである*2。もちろんウィーナーも定義していて1914年のことである。しかし彼は次のように書いて定義しているみたいである*3。
ι'(ι'ι'x ∪ ι'Λ) ∪ ι'ι'ι'y
これは現代的に書き直すと大体ではあるが、多分以下のような感じになるのではないかと思う*4。
{{{x}} ∪ {Φ}} ∪ {{{y}}}
というわけで、厳密に言うならば、ウィーナーは順序対を{{a}, {a, b}}と定義していたわけではないようである。
まぁ以上の註釈は解説文の本旨に影響を与えないので、本質的にはどっちで順序対を定義していても、いいといえばいいのでしょうが…。
*1:原文では{ }ではなく、( )を使っているが、ここでは前者の記号を使っておく。この註では引用符を省いている。
*2:このことはよくQuineがあちこちで指摘している。彼のFrom a Logical Point of ViewやMethods of Logicを参照。
*3:ι はイオタの小文字、上付きの添え字’は‘の代用。イオタの小文字と上付きの添え字ι'でいわゆる単元集合の記号となる。また∪は和集合の記号、Λ は空集合記号。この註では引用符を省いている。HeijenooortさんのReadings, p. 225参照。またGrattan-GuinnessさんのThe Search for Mathematical Roots, 1870-1940のpp. 420-21参照。