Frege's Context Principle in his Grundgesetze

FregeのContext Principleが、彼の後期の著作においても保持されているかどうかということは、長年議論されてきた*1

の19ページによると、後期に属すると目されるGrundgesetzeにおいて、FregeはContext Principleを依然支持していると述べられており、そのPrincipleはGrundgesetzeの第I巻 ss. 10, 29, 31に記されているという。19-20ページを引用してみる。

フレーゲ後期の文脈原理は、『基本法則』第I巻の第10、29、31の各節で述べられている。そこで彼は、値域名の意味[Bedeutung]を確定するには、それを引数[Argument]としたときに原始的関数がとる値を確定すればよい、と提案している。それは実質的に、値域名を一部とする、より複合的な名辞の意味を確定すればよい、ということである。確かにこの新たな定式化は、『基礎』での定式化と違って文に特別な役割を与えておらず、結果として、循環的であるという印象が強まっている。しかし実際は、古い定式化と新しい定式化の違いは大したものではない。フレーゲにとって、考慮すべき原始的関数はすべて概念ないし関係であり、考慮される「より複合的な名辞」は、実はすべて文なのだから。*2

これが事実だとすると、大変興味深い。


では、Grundgesetzeの第I巻 s. 10ではどうなっているか、以下に引いてみよう*3。次がDummettさんの言うFregeのContext Principleに当たる部分であると思われる*4

Wir haben hiermit die  W e r t h v e r l a u f e  so weit bestimmt, als es hier moglich ist. Erst wenn es sich ferner darum handeln sollte, eine Function einzufuhren, welche auf die bisher bekannten Functionen nicht ganz zuruckfuhrbar ist, konnen wir festsetzen, welche Werthe sie fur Werthverlaufe als Argumente haben solle; und dies kann dann ebenso wohl als eine Bestimmung der Werthverlaufe wie jener Function angesehen werden.


念のため、英訳と和訳も記しておこう。

With this we have determined the courses-of-values so far as is here possible. As soon as there is a further question of introducing a function that is not completely reducible to functions known already, we can stipulate what value it is to have for courses-of-values as arguments; and this can then be regarded as much as a further detemination of the courses-of-values as of that function.*5

我々はこうして値域をここで可能なかぎり広く規定した。更に、これまで知られた関数に完全に還元可能ではないような関数が導入されるということが問題となるときに初めて、我々はそれが項としての値域に対していかなる値をとるべきかを約定することができるのである。そしてこのことがその場合、その[未知の]関数と同様、その値域の確定と見なされるのである。*6


以上の三つの引用文を読むと、確かにDummettさんが言うように、これらはどれもContext Principleのような感じがする。しかしそう言われてみないと私などはContext Principleと気付かずに読み飛ばしてしまうところである。
GrundlagenではContext Principleは初めの方の、本論を開始する直前で、高々と掲げられていて、誰もがそれとすぐわかるようになっている。
しかし上記引用文中にあるとされるContext Principleは、とてもではないが高々とは掲げられていない。
仮にDummettさんが言うように、GrundgesetzeでもFregeはContext Principleを堅持しているのだ、ということを認めても、ぱっとしない形で話の途中にもぐりこまされていることから、Grundgesetze中のこのPrincipleは、Grundlagenにおけるよりも、相対的に評価や重要性が落ちてしまっているのではなかろうか。


さて、どうなんでしょう? よくよく考えて見なければならないと思う。

*1:私自身は詳細を知らない。

*2:引用文中の太字は、引用者のものではなく、訳書原文によるものである。

*3:Umlautの上付き記号は省く。

*4:G. Frege, Grundgesetze der Arithmetik I/II, Neuauflage mit Corrigenda von Christian Thiel, Reihe: OLMS Paperbacks, Bd. 32, Hildesheim, Olms, 1998, S. 18.

*5:Gottlob Frege, The Basic Laws of Arithmetic: Exposition of the System, translated and edited with an introduction by Montgomery Furth, University of California Press, 1964, p. 49. なお引用文中の最初に出てくる語‘courses-of-values’は、英訳では特に強調された書体とはなっていない。

*6:野本和幸編、『フレーゲ著作集 3 算術の基本法則』、勁草書房、2000年、73ページ。引用文中の太字は、引用者のものではなく、訳書原文によるものである。同じく引用文中の括弧「[ ]」による挿入も、訳書原文によるものである。