Frege's Foundations of Arithmetic: Some Questions

2日前の12月28日の日記で次の文献を入手したと記した。

  • D. Isaacson, G.P. Baker, S.R. Blamey, and I.P. Rumfitt  “Frege’s Foundations of Arithmetic, Bibliography of Secondary Literature”, Mods and Prelims Sample Reading Lists, Faculty of Philosophy, University of Oxford, 2000

これにはGrundlagenに関する参考文献表が付いているのみならず、Grundlagenについての問題集が付いている*1
それはどうやらOxford Universityが数学と哲学の学士号を授与する際に課している哲学入門コース用の共通試験の例題・過去問のようである。
FregeのGrundlagenから出題するから熟読しておくように、というようなannounceが事前に出され、学生はそれにしたがって課題図書を読んで勉強し、そして試験に挑むのだろうと思われる。
ただし私はOxford Universityの教育システムがどのようになっているのか存じ上げていないので、正確なことはわからない。
いずれにせよ、Fregeをやっている人は、ここに上げられている問題に答えられなければならないだろう。
どの程度答えられるかによって、理解度がわかる。
自学・自習のためにも参考になる問題集である。


そこで以下にその問題全17問をざっくりと訳して掲げ記しておくことにする。
原文の各問題の末尾に、その問題に関連するGrundlagenのsectionの名が記されているが、一部を除いて省いて訳す。

Frege’s Foundations of Arithmetic
Sample questions of the sort that may be asked on the Introduction to Philosophy paper for Honour Moderations in Mathematics and Philosophy

  1. 「数一とは何か?」という問いに数学者たちが答えられないのはスキャンダルであると、Fregeは見なした。これは正しいか? さらにFrege自身はこの問いにうまく答えられたのだろうか?
  2. ジュリアス・シーザー」問題に答えられないような数のいかなる定義も却下されるべきであると、Fregeは考える。これは正しいか? 彼自身の定義は、この問題にパスするのだろうか?
  3. 個々の数はどれも自存的対象であるとFregeは主張したが、それは正しいか?
  4. 「基数概念を獲得するためには、数等式の意義を確定しなければならない。」*2 (Frege) Fregeの説明によるならば、なぜそれで十分なのか?
  5. 数学的帰納法を含め、算術のすべての真理は分析的であるということを、Fregeは示したのだろうか? Grundlagenを形式化したGrundgesetzeで矛盾が出てきたことを考慮した上で答えよ。
  6. 自然数の定義と直線の方向の定義とのFregeによる比較では、どの程度、ことを明らかにできるのだろうか?
  7. 論理的なものと心理的なものとのFregeによる区別は、もっともであろうか?
  8. 客観的なものと現実的なものとのFregeによる区別について、論ぜよ。
  9. Fregeは語「概念」によって何を意味している(mean)のか?
  10. 「Fregeにとって、対象の存在を主張することは、あるいは対象の一意性を主張することは、対象について主張しているのではなく、概念について主張しているのである。」 論ぜよ。
  11. 算術に関するMillの経験主義的見解を、Fregeがしたように批判することは正しいか?
  12. Fregeの論理学は、W. Hodgesの教科書(Penguin)にある現代の論理学と、どのように違うのか?
  13. Fregeは「ヒュームの原理」を算術の公理的基礎として拒否するが、これは正しいか?
  14. 文脈原理は、Fregeが数を論じる際に、どのような役割を果たしているのだろうか? 文脈原理: 語の意味(Bedeutung)は、命題という脈絡(Satzzusammenhang)において問われなければならず、語を孤立させて問うてはならない*3
  15. 幾何学において一般命題が直観から得られるとすれば、それは、直観される点、直線、平面が本来は決して特定のものではなく、それゆえその類全体の代表と見なせるということから説明可能である。しかし、数の場合は事情が異なる。どの数もその独自性を持っている。」*4 S. 13, (Frege) 論ぜよ。
  16. 「私もまた、概念の外延に訴えることに決定的な重要性を置いているわけではない。」*5 S. 107, (Frege) 論ぜよ。
  17. 「 … ある概念が無矛盾だということは、恐らく、何かがその下に属するという立証によってのみ、明らかにしうるだろう。あべこべに考えるとしたら誤りであろう。」*6 S. 95, (Frege) Hilbertの公理観を考慮した上で論ぜよ。

残念ながら、私自身はこれらの問題にすらすらと答えられるわけではない。
しかしそれぞれの問題は、○×で答えを採点できるような、そのような簡単な答えの出せるものでもない。
厳密に答えようとすると一つのpaperかmonographが出来上がるような問題がほとんどであろう。
なかなか難しい問題ばかりだが、challengingであって、面白い。
FregeのGrundlagenについて何か書きたい、あるいは何か書かねばならないが、何を書いたらよいかわからないという方がおられれば、
上記の問題で一番興味を感じる問題に取り組んでみてはいかがだろうか?
しかし、上記の問題に加えて第18問、第19問、…、と各自が各自なりに問題を考え出し、ひねり出してみると、大変勉強になると思う。
問うに値する問題を考え出そうとすれば、やはりそれなりにGrundlagenを読み込んでいなければならないでしょうから。


私も上記の問題を参考に、Fregeの勉強を続けて行ければと思う。

*1:参考文献表に上がっている文献は、それほど珍しいものではないようである。

*2:S. 62 の前に掲げられている表題。英語原文ではAustin訳にはない‘statements’という語が末尾に入っている。ここでは勁草書房の訳文をそのまま引用させていただいた。

*3:緒論の末尾近くに出てくる格率。勁草書房の訳文を引用させていただいた。

*4:勁草書房の翻訳から引用させていただいた。

*5:勁草書房の翻訳からの引用である。

*6:こちらも勁草書房の訳文を引用させていただいた。