Books That Mattered to Quine

  • W. V. Quine  Quine in Dialogue, Dagfinn Follesdal and Douglas B. Quine ed., Harvard University Press, 2008

この新刊をぱらぱらめくっていると、次のような文があって、とても短い文なので読んでみると興味を覚えた。

  • W. V. Quine  “Books That Mattered to Me,” First Published in 1986.


Quineさんにとって重要であった本の名前と手短なcommentが付されている。以下、簡単に紹介してみます。
その重要であったという本は7冊あったようです。


1. B. Russell  Introduction to Mathematical Philosophy (1919)
2. Whitehead and Russell  Principia Mathematica (1910-12)
3. Sir Arthur Eddington  The Nature of the Physical World (1928)
4. B. Russell  Our Knowledge of the External World, 2nd ed. (1914)
5. R. Carnap  Der logische Aufbau der Welt (1928)
6. R. Carnap  Logische Syntax der Sprache (1934)
7. W. Skeat ed.  An Etymological Dictionary of the English Language (1879)


Quineさんはそれぞれの本について、大体次のように語っておられます*1

1. 私はこの本によって数理論理学の厳密さとinfinite numbersの謎に導かれた。古くからある身近な数学上の諸概念を、論理学と集合論に還元することによって、これらの概念は明晰にされた。事柄の魅力とRussellの書きっぷりの見事さとが相まって、数理哲学(mathematical philosophy)を専門とする道を私は歩み始めるべく促された。

2. この三巻本は、記号だらけなので、堅くて咀嚼し難いが、1. の本に刺戟されて、この三巻本を読みたいと思った。ここでは古典数学が論理学と集合論から形式的に厳密で詳細に渡って導出されている。

3. 物理的実在(physical reality)の基礎(basis)、限界(bounds)、内的働き(inner workings)に対する私の好奇心に火を付け、かつその好奇心を満たすのに役立った科学教養書のうち、最も記憶に残っているのが恐らくこの本だった。

4. 先に述べた数理論理学上の関心と物理学上の関心という二つの哲学的関心が、この本の中でお互い相まみえている。現代論理学の力を借りて、我々の感覚的証拠(sensory evidence)から自然についての我々の知識を引き出してみせるというプログラムが、この本で素描されている。

5. Russellが素描したプログラムが、ここでは最も真剣かつ明示的な形で技術上細部に渡り、実行されていて、論理学の記号だらけである。見事なビジョンを持ち、創意工夫を有する作品である。

6. 私は一時期、この著作が書かれるのを目撃するという特権にあずかったことがあるが、この著作によって論理実証主義は栄華を極めた。科学哲学(the philosophy of science)は科学的言語(the language of science)の論理とシンタックスであるとして、ここでは展開されている。数年後、Carnapと私はここからまったく反対の方向へと離れて行ったが、私はこの本に今でも深い影響を受けている。

7. 今まで挙げた六つの本は、相互に関連した諸々の関心を刺激しかつ育んだが、これらの関心が私の専門的な部分を成していた。しかしこの本は、十代後半にどうしてか抱くようになった、専門とは異なるそれ自身で自足している関心を、57年間に渡ってずっと変わることなく喚起し続けている。それというのは、語源への飽くなき関心のことである。

以上のうちで私の興味を今回引いたのは、3. です。Quineさんの科学的理論、科学論について考えるためには、この3. を踏まえておく必要があると思われます。この本は以下の本として和訳されているようです。

  • アーサー・エヂントン  『物的世界の本質』、寮佐吉訳、岩波書店、1931年

また後日この本を見てみたいと思う。


以上のQuineさんの選書状況からわかるのは、Russell + Carnap つまりmathematical logic と Eddington ≒ Einstein つまりrelativity theory から、あと足りないのは量子論量子力学だけだと考えられます。20世紀前半における学問上の大きな三つの波のうち、二つをもろにQuineさんは被っておられるものと推測されます。なるほどね。


上記の話は読み返していないので、間違いが含まれていましたら申し訳ございません。
おやすみなさい。

*1:Quine, pp. 328-9.