Frege's Book in Johns Hopkins University Library and Peirce's Offprint in the University of Jena Library

以下の文献を読んだ。

  • Benjamin S. Hawkins  “Peirce and Frege: A Question Unanswered,” in: Modern Logic, vol. 3, no. 4, 1993

Peirce は Frege の著作を読んだことがあるのか、そして Frege は Peirce の著作を読んだことがあるのか、この二つの疑問について、返答しようとしている論文です。しかしその返答は、論文副題でも示唆されているように、決定的な答えは与えられずに終わっています。但し、今のところ、Peirce と Frege が互いの著作を読んでいたというはっきりとした証拠がない状態なので、決定的な回答を与えられないのも無理のないことだろうと思われます。ただ、二人とも Schroder の著作を通じて、相手のことは知っていたはずだと Hawkins さんは上記の論文で述べておられます*1


ところで、上記論文を読んでいて、個人的に興味を持ったことをここに記しておきます。それはこの項目の title でも示されているように、Peirce が Johns Hopkins Univ. にいた時期に、Frege の本が Johns Hopkins University の Library に所蔵されるようになったという事実と*2、Frege が Jena にいた時期に、Peirce の Logic の著作が University of Jena の Library に所蔵されるようになったという事実です*3
具体的な書名を言うと、Frege の、そのものずばり Begriffsschrift1881年4月5日に Johns Hopkins University の Library に受け入れられている記録があるそうです*4。また、Peirce は 1880年に出された自分の著作 “On the Algebra of Logic” を the University of Jena Library に寄贈しているようで、大学図書館からは受領書を Peirce はもらっているらしい*5。この Peirce が寄贈したらしい著作は Journal の論文なので、寄贈したのはその offprint か、あるいはその pamphlet みたいな体裁のものだと推測される。


因みに “On the Algebra of Logic” でなされた Logic に対する貢献とは、そこで full disjunctive normal form と full conjunctive normal form が、おそらく共に初めて明示的に提示され、考察されていることにあるものと思われます。この点については、

  • Alonzo Church  Introduction to Mathematical Logic, Princeton University Press, Princeton Landmarks in Mathmatics, 1996, originally published in 1956, pp. 165-6

を参照して下さい。


さて、お互いの著作がお互いの大学図書館に自分たちが大学にいた時期に所蔵されていたということは、それだけでお互いがお互いの著作を読んだということにはならないけれども、読むなり手に取るなりしていた可能性を思い起こさせるものがあって大変興味深い。二人が相手の著作をひも解いている様をちょっと想像してしまいます。


なお、この他に Hawkins 論文で興味を引く記述は、Peirce に関するもので以下の通りである。
Peirce は自分の教え子たちと論文集を編んでいる。次の本である。

  • Charles S. Peirce ed.  ‘Studies in Logic’ by Members of the Johns Hopkins University (1883), with an introduction by Max H. Fisch, with a preface by Achim Eschbach, John Benjamins Publishing, Foundations of Semiotics 1, 1983

この中の次の論文の参考文献表に

  • Christine Ladd  “On the Algebra of Logic”

Frege の Begriffsschrift と Schroder による Begriffsschrift の書評の名が掲示されているそうである*6。手元にこの Peirce 編集の本があるので確認してみると確かに70-71ページにその通りの記述が見られる。
またこの Peirce 編集本に寄稿している Allan Marquand さんは Frege の Begriffsschrift を所有していたそうである*7
そうすると、Peirce は Christine Ladd さんの論文文献表を、論文査読の際に目にしていたかもしれませんし、あるいは Christine Ladd さんまたは Marquand さんから Frege という人に Begriffsschrift という著作があると教えられていたかもしれません。もしくは Marquand さんから直接 Begriffsschrift を見せられたことがあったかもしれません。実に興味深い…。
あと、Peirce は Schroder による Begriffsschrift の書評の offprint を所有していたことが、はっきりしているそうである*8。Peirce による詳しい書き込みは、その offprint にはないらしいのだが*9

以上、細々とした瑣事だが、個人的にはちょっと色々空想してしまいました。


最後に上記の Hawkins 論文にはダイジェスト版がある。以下である。

  • Benjamin S. Hawkins, Jr.  “Peirce and Russell: The History of a Neglected ‘Controversy,’” in Nathan Houser, Don D. Roberts, and James Van Evra, ed., Studies in the Logic of Charles Sanders Peirce, Indiana University Press, 1997

この論文の §4, pp. 134-137 がそうである。但しこのセクションを斜め読みする限り、Peirce が 1880年に出された自分の著作 “On the Algebra of Logic” を the University of Jena Library に寄贈していたという話は省かれているようである。


終わりにあたって、ざっと書き下したので、今回の項目中で間違い等がございましたら、予めお詫び致します。

*1:Hawkins, pp. 379-80, §3 Peirce, Schroder, Frege, their connection., §4 Peirce's awareness of Frege 's work.

*2:Ibid., p. 377.

*3:Ibid., p. 381, note 5.

*4:Ibid., p. 377.

*5:Ibid., p. 381, note 5.

*6:Ibid., p. 377.

*7:Ibid.

*8:Ibid.

*9:Ibid.