先日入手した次の本に載っている
- Denis Miéville et al. Stanislaw Lesniewski Aujourd'hui, Vrin, Recherches sur la philosophie et le langage 16, 1996
以下の文献を読んでいると、
- Czeslaw Lejewski ''Remembering Stanislaw Lesniewski''
些細なことながら、面白い話が出ていた。この Lejewski さんの文は、Lesniewski の生涯と業績を紹介している論文で、Lesniewski の生涯に関する情報は、主として Kotarbinski さんのポーランド語による証言に依拠しながらつづられているようです。そこで以下にそのちょっと面白い話を引用してみよう。なお、引用文を理解するための予備知識を前もってここで記しておきますと、引用文の中で、'I remember ... ' という phrase が出てきますが、Lesniewski の生涯についての話は主に Kotarbinski さんの証言に依拠しているようではあるものの、この 'I' は Kotarbinski さんではなく、Lejewski さんを指すものと思われます。私は一読した際、この 'I' は Lejewski さんではなく、Kotarbinski さんを指すのではないかと思いましたが、Lejewski さんは Warsaw University で Lesniewski から恐らく直接教えを受けていたようなので*1、'I' については深読みせず、素直にそのまま Lejewski さんのことと解すればよいのではないかと思います。また、引用文中で、Lukasiewicz's monograph on the principle of contradiction に触れられていますが、この文献の中では Russell Paradox が取り上げられているようです。それでは引用してみます。
Russell's antinomy concerning the class of all those classes that are not members of themselves continued exercising Lesniewski's mind since he first heard of it in 1911. Initially he thought that finding a mistake in the reasoning that led to a paradoxical conclusion, would present no difficulty. I remember him telling his audience at one of his lectures that soon after he read Lukasiewicz's monograph on the principle of contradiction, he had to go to Moscow. He took the monograph with him expecting that, on the journey, he would have more time than enough to sort out the Russellian puzzle. At one stage he had to change trains and wait a few hours for the right connexion. He continued analysing the antinomy in the waiting room, missed the connexion and arrived in Moscow later than intended, still without a solution to the problem. *2
なるほど、Lesniewski さんは随分自信があったんですね。確かに Russell Paradox というのは、それを定式化した文を見せられると、ひどく簡単な paradox に見えます。数学で言えば、Fermat's last theorem みたいに、その言わんとしていることは簡単に理解できますが、しかしそれを証明するなり、それに何らかの解決を与えることは、極度に難しいもののようです。見た目は簡単そうなのですが、やってみるとものすごく難しい、という訳です。あまりに単純に見えるので、Russell 本人も、当初、こんな単純なものに大の大人が延々と時間をかけて、知恵を絞らなければならないというのも、何だか腑に落ちないと考えたぐらいです。そして Russell 自身、この Paradox が正真正銘の Paradox であり、腹をくくって本気になってかからねば解決不可能な難問であることを悟るのに、どうやら半年ぐらいを必要としたようです*3。きっと Lesniewski も Moscow に着いてから、腹をくくらねばならないと悟ったのかもしれません。Lesniewski にとって、Moscow への旅は、生涯をかけた、Russell Paradox 解決への旅の始まりとなったのかもしれませんね。
*1:See Peter Simons, ''An Obituary for Czeslaw Lejewski,'' in: BLC Newsletter, British Logic Colloquium, September 2002, section 3. http://www.cs.bham.ac.uk/~exr/blc/NewsSep02.html
*2:Lejewski, pp. 29-30.
*3:Bertrand Russell, Autobiography, Routledge, Routledge Classics, 2009 (Originally Published in 3 vols., in 1967-69), p. 138.