ここでは全く個人的な memo を記します。
- 松坂和夫 『集合・位相入門』、岩波書店、1968年、94ページ
において、松坂先生は、写像 f が順序単射であることは、f が順序写像でかつ単射であることとは必ずしも一致しないと述べておられます。このことに対し、疑問符が頭に浮かんだことのある方は、下の記述をお読みください。疑問符が頭に浮かぶ前に、松坂先生の話をすぐさま理解できた方は、下の記述を pass してください。
以下で、順序単射の説明と、順序単射が必ずしも順序写像でかつ単射であるような写像ではないことを説明する。
(A, ≦), (A', ≦') を2つの順序集合とする。
f がA から A' への写像で、A の任意の元 a, b に対し
(1.6) a ≦ b ⇒ f(a) ≦' f(b)
が成り立つとき、f を (A, ≦) から (A', ≦') への順序写像または単調写像という。
f が順序写像で、(1.6) の逆
(1.7) f(a) ≦' f(b) ⇒ a ≦ b
も成り立つ場合は、f は単射となる。
次にこれが単射となる理由を記す。
そもそも単射とは、次の条件 # を満たす写像であった。
# f(a) = f(a') ⇒ a = a'.
ここで、(1.7) の前件 f(a) ≦' f(b) を仮定する。そうならば、(1) f(a) <' f(b) または (2) f(a) = f(b) である。
(1) 今、f(a) <' f(b) とする。するとこれは少なくとも f(a) ≠ f(b) ということである。そうすると条件 # の前件は偽であって、その結果、# は全体として trivial に真となる。
(2) 次にまず、再び (1.7) の前件を仮定する。すると (1.7) により、その後件 a ≦ b が帰結する。
一方今度は、f(a) = f(b) とする。すると、(1.7) の前件の不等号の前後をいわば入れ替えることができて、f(b) ≦' f(a) となり、これは (1.7) により、b ≦ a を帰結する。
こうして帰結した a ≦ b と、b ≦ a により、a = b が得られる。つまりこのとき、(1.7) の前件の仮定のもと、f(a) = f(b) とすることにより、a = b が得られたので、(2) の場合でも # が成り立っていることが確認できた。
以上で f が単射となる理由の提示を終わる。
さて、話を元に戻して、(1.7) も成り立つ場合は、f は単射となる。(1.6) と (1.7) を満たす順序写像 f を、A から A' への順序単射と呼ぶ。
ただし、f が順序単射であることは、f が順序写像でかつ単射であることとは必ずしも一致しない*1。
以下、順序写像でかつ単射でありながら、順序単射ではない例を示す*2。
今、順序集合 X を (P({0, 1}), ⊂) とし、順序集合 Y を (N, ≦) とする。
P({0, 1}) は集合 {0, 1} の冪集合で、φ, {0}, {1}, {0, 1} から成る集合である。したがって、X の台 = { φ, {0}, {1}, {0, 1} } である。
Y の N は自然数の集合である。
X の台の中では、順序が次のように定められている。
φ ⊂ {0}
φ ⊂ {1}
φ ⊂ {0, 1}
{0} ⊂ {0, 1}
{1} ⊂ {0, 1}.
そして写像 f : X → Y を次のように定義する。
f(φ) = 1
f({0}) = 2
f({1}) = 3
f({0, 1}) = 4.
このとき、この写像 f は、(1.6) を満たしている。確認してみると、
φ ⊂ {0} ⇒ f(φ) ≦ f({0}) ⇒ 1 ≦ 2
φ ⊂ {1} ⇒ f(φ) ≦ f({1}) ⇒ 1 ≦ 3
φ ⊂ {0, 1} ⇒ f(φ) ≦ f({0, 1}) ⇒ 1 ≦ 4
{0} ⊂ {0, 1} ⇒ f({0}) ≦ f({0, 1}) ⇒ 2 ≦ 4
{1} ⊂ {0, 1} ⇒ f({1}) ≦ f({0, 1}) ⇒ 3 ≦ 4.
# f(a) = f(a') ⇒ a = a'.
先ほどから問題にしている写像 f は、この条件を満たしているので単射である*3。
したがって、この写像 f は、(1.6) を満たしているので順序写像であり、# も満たすので単射である。
しかし、この写像 f は条件 (1.7) のすべての場合を満たす訳ではないので、順序単射ではない。
例えば、
2 ≦ 4 ⇒ f({0}) ≦ f({0, 1}) ⇒ {0} ⊂ {0, 1}
は、(1.7) を満たしているが、次の場合は
2 ≦ 3 ⇒ f({0}) ≦ f({1}) ⇒ {0} ⊄ {1}
となって、(1.7) を満たしていない。
したがって、今、私たちが取り扱っている写像 f は、順序写像でかつ単射でありながら、順序単射とはなっていない。
よって、
Order injection ≠ monotone function + injection.
(上記の説明に間違いがありましたらすみません。謝ります。お許しください。勉強し直します。)