- Christian Thiel “Zur Inkonsistenz der Fregeschen Mengenlehre,” in sein hg., Frege und die moderne Grundlagenforschung: Symposium, gehalten in Bad Homburg im Dezember 1973, Verlag Anton Hain, Studien zur Wissenschaftstheorie, Bd. 9, 1975
この論文の載っている本の冒頭に、Frege の写真が掲載されており、その写真に対し‘Gottlob Frege?’と疑問符が付されている。
この本は1975年に出版されていることから、当時、Frege がどのような姿をしているのかは、学界においては未確認だったようである。
これが確認されたのは、1970年代後半から1980年代初頭にかけてのことであったようだ。
そのことについて述べている2006年8月13日の私の日記を以下に再録しておく。
先日入手した以下の文献を読んでみると面白いことが書かれている。
- C. Thiel “A Portrait: or, How to Tell Frege from Schroder,” in: History and Philosophy of Logic, vol. 2, 1981
この論文の題意がよくわからず、読んでみたのだが、読むと疑問が氷解した。題を和訳すると次のようになるであろう。「ある肖像写真、あるいはFregeの写真をSchroderの写真から見分ける方法」、またはもっと崩して訳すと「ある肖像写真、あるいはSchroderかも知れないと思われていた写真がFregeの写真であるということを確認できたことの顛末」。ちょっと崩しすぎだが…。
どういうことかというと、こういうことである。
ある人の写真があってその人はFregeではないかと思われたので、Thielさんは1975年に新たにその写真を‘Gottlob Frege?’との疑問符付きのキャプションを添えて発表した。この写真と同じと思われるものが、例えば野本先生の勁草書房刊『フレーゲ入門』の119ページに載っている。この写真を発表したThielさんだったが、Fregeなんかではないとか、Schroderではないのか、というような批判を多く受けたらしい。確かに問題の写真はSchroderに似ているところがある。よく見かけるSchroderの写真が、やはり同じく先の野本先生の本の87ページに載っている。これらを見ると、両人とも長くひげを伸ばし、髪の毛をなで付けている。同じ角度から同じような服装の写真として撮られている。明らかに違うのは、Schroderが眼鏡を掛けているのに対し、Fregeは掛けていないという点である。それ以外は両人とも似た感じで写っており、遠くから見ると結構同じ人間に見えるかもしれない。上記のThiel論文は、野本先生本119ページのFregeの写真が、確かにFrege本人であるかどうかを調査してみた結果の報告である。
結論から言えば、例の119ページの写真は、やはりFrege本人だったようである。調査結果の詳細な報告の記述は省くが、1900年頃にドイツ・オーストリア・スイスの教授団の肖像写真を一堂に集めた本が出されているようで、その中に例のFregeの肖像写真も含まれていて、ViennaのNationalbibliothekに一つだけ完全版が所蔵されているようだ。肝心のドイツには残されていないらしい。この本からのreprint写真が、野本先生本119ページの写真のようである。
さらに言うとこのViennaのNationalbibliothek版はオリジナルからの写しのようで、原本は他にあるらしい。この原本の所在まではThiel先生もわからなかったようである。
しかし当たり前のように見ているFregeの写真も、元々はFregeかどうか疑われていた時期もあったのですね。知らなかった。確かに今やFregeを直接知っている人は恐らくこの世に誰一人としていないでしょうから*1、誰かの写真を見せられてそれが本当にFregeかどうか問われたならば、即答できないでしょうね。骨相学か何かの先生に科学的な分析をしてもらわなければ何とも言えないだろうな。
*1:全く生存していないとは断言できないかもしれない。Fregeは1925年に亡くなられているので、現在100才ぐらいの方で若い頃会ったことがあるという人がいてもおかしくはないのだが。