A Perfect Solution of the Sorites Paradox

Sorites paradox について、今や完全な解決法が見つかったようなので以下に記してみよう*1。この解決法は、本日購入した次の書物の9-10ページにあるコラム「山と禿頭」に載っています。

 数学的帰納法を学ぶとき、これで証明になっているのかと、悩む人がたくさんいます。じつは、悩むのも当然なのです。エウブリデスは考えました。


     一粒の砂は山ではない [ ¬Fa1 ]
     山ではないものに一粒の砂を加えても山ではない [ ∀n (¬Fan → ¬Fan+1) ]
     したがって、砂を集めたものは山ではない [ ∀n ¬Fan ]


 彼の時代には、まだ数学的帰納法という言葉はは[ママ]ありませんでしたが、上の論法は数学的帰納法に沿っています。砂を十分にたくさん集めたものは山でしょうから、この結論は、パラドクスになっています。
 これの変形に、すべての人は禿頭である、というのがあります。


[…]


 これらの論法がパラドクスを導き出す原因は、数学的帰納法のような考え方にあるのではありません。「山」とか「禿」とかの定義が不足していることにあるのです。「山」を体積や高さで定義したり、「禿」を毛の数で定義したりすると、パラドクスは避けられます。


[…]


 英語では「山」のことを、ふつう、mountain と言います。富士山と同様に、日本のいたるところに愛宕山があります[「讃岐富士」と呼ばれるような富士山が日本各地にあるように、「愛宕山」と呼ばれる山も日本各地にあることを言っています。] ある愛宕山に外国人を案内したとき、外国人に、これは mountain ではない、と言われたことがあります。東京の愛宕山は高さが26メートルということですから、これは mountain ではないと言われると、納得させられます。
 ある英和辞典によると、イギリスで mountain と言えるのは、2000フィート (約600メートル) 以上の高さのものだとのことです。その辞典では、アメリカでは 1000フィート (約300メートル) 以上だとのことです。
 そのような定義があると、エウブリデスのパラドクスは排除されます。1[ママ]粒の砂は絶対に山ではありません。イギリスの定義で考えると、高さ2000フィートを超えるように砂を積み上げたときにはじめて「山」となるわけです。[…]

Mountain というのは、2,000 feet もしくは1,000 feet 以上なんですね、知らなかった。ならば、少なくとも1,000 feet high に達しない砂の堆積は mountain じゃない訳だ。したがって、エウブリデスの論証における一番目の前提「一粒の砂は山ではない [ ¬Fa1 ]」は正しいが*2、二番目の前提「山ではないものに一粒の砂を加えても山ではない [ ∀n (¬Fan → ¬Fan+1) ]」は、‘¬Fan’が真であっても‘¬Fan+1’が偽になるような n に達した時には、全体として偽になることがあるのであり、するとエウブリデスの論証における結論のごとく、任意の n について、¬Fan とは言えなくなる訳ですね。


PS
以上につきまして、もちろん細井先生は、これが sorities paradox の完全なる解決法だ、と主張されている訳ではありません(「数学的な解決法だ」とはおっしゃるかもしれませんが)。私もそのようには主張致しません。哲学的には解決にはまったくなっていませんので。完全解決というのはもちろん冗談です。

*1:引用文中の square brackets は引用者によるものです。

*2:粒の大きさが2,000 feet または1,000 feet に達する巨大なものでなければ、一番目の前提は正しい。