Anecdotes about David Hilbert

最近入手した

は、文庫化される前の単行本を以前に古書で購入して読んでいた。そこに書かれている些細な話を二つだけ、どういう訳か今も覚えている。それ以外の重要な話はほとんど忘れてしまった。何とはなしに、その話を以下に引用してみます。


Academic Harassment by David Hilbert

いずれにせよヒルベルトは若い科学者が結婚するのには強く反対していた。彼は結婚生活によって彼らが科学に対する責務を十全に果すことが妨げられると感じていたのである。後に、彼と共に研究し、ある書物を出すのに際して、彼と協働したことのあるウィルヘルム・アッカーマンが結婚した時、ヒルベルトは非常に立腹した。彼はアッカーマンが学者としての階梯を登るために手をかすことを一切拒否し、その結果大学での地位を得られなくなった若い有能な論理学者は高等学校で教えることを余儀なくされた。さらにしばらく経ってから、アッカーマン夫人が身ごもったとの知らせを聞いてヒルベルトは鬼の首でもとったように、「それはすばらしい知らせだ!」とよろこんで、「私にとって、それはすばらしいニュースだ。何故ならこの男が結婚しただけでもどうかしている思ったが子供まで作るときては、こんなあきれた男にはこれから一切何もしてやらないでもよいからね!」といったものである。*1

これが本当だとすると、ちょっとひどいですね。Hilbert 先生が偉大な人物だけに、印象が悪いです。Hilbert 先生ご自身も30才で結婚され、その一年後ぐらいにお子さんをもうけておられるのですが…。Ackermann さんは Hilbert 先生と何かケンカでもしてしまったのでしょうか? よく知りませんけれど…。


A Derogatory Remark by David Hilbert

彼の文学に対する態度についてもう一つの話があるが、これは彼の数学についての考え方についても多くを示唆する話である。その話によればある数学者で、後に小説家になった人がおり、「一体どうして彼にそのようなことができたのだろうか?」とゲッティンゲンでは皆がいぶかしがった。「一体どうして数学者だった人に小説が書けたのだろうか?」「しかし、それはまったく簡単なことですよ」とヒルベルトはいった。「彼は数学者にとって必要なだけの想像力を持ち合わせてはいなかったけれども、小説を書くにはそれで足りたということですよ」*2

これも本当だとすると、ちょっとひどい。小説家が聞くと不快に感じるでしょうね。Hilbert 先生ご自身の、小説家に対する想像力のなさを露わにしてしまっており、冗談としては笑うことができないと思います。知性ある人間の発言とはちょっと思えない…。


あまり印象のよくない Hilbert 先生の話を記しましたが、特に Hilbert 先生を、ことさら難じたいという訳ではございません。偉大な人物であるだけに、その分非常に意外に思い、記憶から消えないで残ってしまっているのです。

*1:リード、335ページ。

*2:リード、339-40ページ。