Quine, Analytic Philosophy, Frege, and Wittgenstein

洋書

  • Edward Becker  The Themes of Quine's Philosophy: Meaning, Reference, and Knowledge, Cambridge University Press, 2012
  • Stephen P. Schwartz  A Brief History of Analytic Philosophy: From Russell to Rawls, Wiley-Blackwell, 2012


和書


野本先生のご高著は、出たらすぐに購入しようと待っておりました。という訳で、出たのですぐさま購入。本書は論理主義を基軸に、Frege の考え方が初期から晩年に到るまで、どのような変遷をたどったのか、それは Frege の死後、いかなる形で発展して行ったのかを、跡付けようとされています。但し、Frege の死後、近年の論理学や情報科学からの触発による Frege 研究は、あまり触れられていないようです。また、最近出たばかりの Landini さんによる Frege の研究書は、検討する時間がなかったそうで、本書ではその点も論じられていないようです。とはいえ、先生のご高著にはいつも大変お世話になっておりますので、この本にも今後色々とお世話になると思います。


Frege の考えを解説した日本語によるある有名な書籍において、重要と思えるある論証に不備があることに、以前、気が付いたことがありました。Atomic sentence と molecular sentence を、合わせて sentence と呼ぶとすると、sentence の Bedeutung が真理値であることを論証するのに、molecular sentence の Bedeutung を真理値だと論証しただけで、atomic sentence をも含めた sentence 全体の Bedeutung も真理値であると、その書籍では論証されていました。この場合は、atomic sentence の Bedeutung が真理値であることの論証も必要だと思われます。その必要性にうっかり気付かずに、その書籍は書かれていたようです。その論証が出ている個所は、長い間何度も読んでいる所なのに、そのようなうっかり miss がこれほど著名な書籍に隠されているとは、私は長い間気が付きませんでした。その後、野本先生による、その書籍の書評を拝見すると、既にこの miss について、野本先生が早々に指摘されているのを見て、驚いたことがあります。(生意気なことを申しているとしましたら、謝ります。すみません。)


「Frege の ''Über Sinn und Bedeutung'' は何を行っている論文か?」と問われれば、おそらくですが、多くの方々が、「「宵の明星」や「明けの明星」などの単称名のいみに、Sinn と Bedeutung の区別を設けるべきことを論証している論文だ」というような趣旨の答えを与えるのではないかと推測します。私もずっと前はそのように答えていたと思います。しかし Frege のこの有名な論文の全体を見渡してみると、「宵の明星」や「明けの明星」などの単称名のいみである Sinn と Bedeutung の話は、論文最初の方だけで、残りの大部分は、別の話を Frege はしています。この論文の大半は、文の Bedeutung が真理値であることの論証を行っているように見えます。もう少し正確に言うと、文ではなく、文基 (Satzradikal) の Bedeutung が真理値であることの論証を行っているように見えます。つまり、Frege のこの有名な論文は、明快に言ってしまうと、主としてやろうとしていることは、文基の Bedeutung が真理値であることの論証をしようとしているのであって、「宵の明星」や「明けの明星」などの単称名のいみに Sinn と Bedeutung の区別を設けるべきことの論証は、主としてやろうとしていることの、前口上であり、本筋の枕に過ぎない、ということです。この種のことは、既に随分昔に Angelelli 先生によって指摘されていますが、国内では、これも結構昔に野本先生が指摘されています。野本先生の本を読んでいて、このことに気が付いた時にも驚きました。Frege のこの有名な論文が、主として何をやろうとしているのかについて、基本的な点に関し、私見では、いまだに理解されていないように見えることがあります。この論文が出て100年以上経ちますが、ここ最近においても、この論文の主目的について、私見では、point を外していると感じられるような説明を、国内の有力な研究者の中に見かけることがあります。そのようななか、野本先生は結構昔に既にちゃんとこの論文のmotif を見抜いておられた訳です。(やはり生意気なことを申しているとしましたら、謝ります。すみません。私は Frege の件の論文について、よく知っているとか、きちんとわかっているとか、詳しく読み込んでいるとか、そのようなことはまったくありません。今もって勉強の途中です。間違ったことを言っていましたら、お詫び致します。)


今回購入させていただきました野本先生のご高著にも、以上のごとき驚いてしまうような慧眼が含まれていると思います。また勉強させていただきます。
本日の私の感想の中に、誤りがありましたら、お詫び申し上げます。大変申し訳ございません。私の記しましたことは、たぶんほとんど間違っていると思います。自分でも間違っていることに気が付きましたら訂正致しますので、どうかお許しください。本日の日記を読まれた方は、くれぐれも真に受けないようにお願い致します。