やはり由無し事を一つ記します。
購入したばかりの以下の図書を
- Jean-Marc Ginoux and Christian Gerini Henri Poincaré: A Biography Through the Daily Papers, translated by Selma Naëck, World Scientific Publishing, 2013
ぱらぱらとめくっていると、面白い記述が目に入ってきた。Poincaré の生涯に詳しい方はご存じのことかもしれませんが、あの大数学者 Poincaré が、数学で0点を取ってしまったことがあるらしい。上記図書の p. 15 に科学の Baccalauréat の成績表が写真で載っている。そこを見ると、数学の得点が5点満点中、0点になってしまっている。その写真を net から借りてきて掲げさせていただきます*1。
この写真の一部を transcript して、簡単な和訳を付けてみると、次のようにでもなるでしょうか。
Baccalauréat ès Sciences
Subi le 7 Novembre 1871 par Poincaré (Jules-Henri)
Épreuve écrite. Composition scientifique. Coefficients 1, Notes 0
[…]
Mention: Assez bien.
科学バカロレア
筆記試験 科学のテスト 点数の比重 1, 得点 0
[…]
評価 良
上記書籍の同じ p. 15 の本文には以下のように書かれています。
Poincaré was a little late to the math written test on geometric progressions, and probably misread the wording, for he answered a question which had nothing to do with the one that was set. Without the benevolence of the examiners who knew how brilliant Poincaré normally was, this mark would have been disqualifying.
試験に遅れてあわてて問題を解こうとしたが、等比数列の問題なのに、それと全然関係のない見当違いな答えを書き付けて、普段の Poincaré をよく知る試験官たちが、「あの優秀な Poincaré が、こんなに頓珍漢な答えを書くはずがない。何か激しく勘違いしているに違いない。ここはひとつ大目に見てあげよう」ということになったみたいですね。まぁ、本当は試験官の個人的判断で合否を変更してはならないのでしょうが、当時はたぶん私たちからすると牧歌的な時代だったのかもしれないと思えます。でもよかったですね、ここで Poincaré が落とされていたら、数学の状況が今とは異なったものとなり、ひょっとして悪循環原理も Russell は思いつかなかったかもしれませんし、Principia の内容が現在とは違った形を取って、the ramified theory of types もどうかなっていたかもしれないですね。その結果、現代の論理学の歴史は変わっていたかもしれませんね。ちょっと大げさに考えてみればですが…。
なお、Poincaré が数学で0点を取ってしまったという上記の話は、1925年に出版された彼の伝記に元々載っているらしく (P. Appell, Henri Poincaré, Librairie Plon, Paris, 1925, p. 18)、また現在、net で調べてみると、上述の通り、成績表の写真まで簡単に見つかるので、たぶん割と有名な話なのだろうと思います。
それにしても Poincaré が数学で0点とは、ちょっとびっくりした。
以上、誤解、無理解、勘違い、誤字、脱字などがございましたらすみません。
