洋書

  • Jan von Plato  Elements of Logical Reasoning, Cambridge University Press, 2014

自然演繹の中級の教科書。教科書とはいえ練習問題はあまり載っていないですが、明快な説明により、論理の原理の基本を理解できる本みたいです。

  • Jean-Marc Ginoux and Christian Gerini  Henri Poincaré: A Biography Through the Daily Papers, translated by Selma Naëck, World Scientific Publishing, 2013

Poincaré の比較的私的な側面を、America の日刊紙や、書簡などを通じて描き出した伝記。写真も割と掲載されている。Poincaré の成績表の写真などもいくつか出ている。楽しく読めそうな本。この本は次の France 語の本の英語版のようです。

  • Jean-Marc Ginoux et Christian Gerini  Henri Poincaré: Une Biographie au(x) Quotidien(s), Les Editions Ellipses, 2012

最初に挙げた英語の Poincaré 伝で、なぜ France の日刊紙ではなく、わざわざ America の新聞を元に伝記を書いているのか、私は不思議に思ったのですが、この英語版の翻訳者の note や著者たちの preface を読むと、元々は France 語版で出していて、上記英語版を出す際に、単なる英訳版を出すのではなく、改めて America の日刊紙から記事を集めて作り直したみたいです。その結果、Poincaré に関する当時の France の報道と America の報道とでは、若干傾向の違いが見られるようです。例えば The New York Times は Poincaré と Dreyfus 事件との関係を特に熱心に報じていたみたいです。なので、France 語版は France 語版で、また違った情報が得られるようです。

  • Matthias Wille  Frege: Einführung und Texte, Wilhelm Fink/UTB, Reihe: Studium Philosophie, 2013

これは刊行されたら購入しようと考えていたら、知らない間にもう刊行されていた。というわけで、早速注文し購入。

この本は Frege の著述の原文を抜粋して掲げ、それに解説を付した入門書。構成としては、まず、(1) Frege 本人の文を提示し、(2) これに対し著者の Wille 先生が、抜粋された Frege の文の背景を述べ、(3) 続いて、抜粋された文を先生が分析し、(4) 最後に、この抜粋に書かれている事柄が、その後、どのように受け止められたのかを、各章で順次解説している模様。全12章。各章が扱っている Frege の著作と、その内容を大まかに記すと以下の通り。

第1章 „Logik“, 真理が存在する根拠 vs. 真理だと思う原因
第2章 Begriffsschrift, §§9〜11, 新たな論理学の必要性について
第3章 „Booles logische Formelsprache und meine Begriffsschrift“, Begriffsschrift の革新性について
第4章 Die Grundlagen der Arithmetik, §§45f., 数言明の言語分析
第5章 Die Grundlagen der Arithmetik, §§62〜64, 抽象による方法の考案
第6章 Die Grundlagen der Arithmetik, §§71〜74, 論理主義の第一歩
第7章 Die Grundlagen der Arithmetik, §88, 形式から内容へ
第8章 „Über Sinn und Bedeutung“, 固有名の Sinn und Bedeutung
第9章 „Über Sinn und Bedeutung“, 主張文の Sinn und Bedeutung
第10章 „Ueber Begriff und Gegenstand“, 概念と対象について
第11章 „Über die Grundlagen der Geometrie. II“, Hilbert の定義について
第12章 „Der Gedanke“, 外界を不在とする懐疑論駁論


英語論文

  • Saul A. Kripke  ''Fregean Quantification Theory,'' forthcoming in Journal of Philosophical Logic, November 2013
  • Lionel Shapiro  ''Naive Structure, Contraction and Paradox,'' forthcoming in Topoi, January 2014
  • Stefania Centrone  ''Notes on Mally’s Deontic Logic and the Collapse of Seinsollen and Sein,'' in: Synthese, vol. 190, no. 18, 2013
  • María Manzano and Enrique Alonso  ''Visions of Henkin,'' forthcoming in Synthese, January 2014


邦語論文

  • 笠谷和比古  「思想史と実体史との往還 丸山真男理論の社会不適合説をめぐる議論に寄せて」、『日本思想史学』、第45号、2013年

この論文副題の「丸山真男理論の社会不適合説」でいう「丸山真男理論」とは、『日本政治思想史研究』で提起された、江戸時代を通じ、朱子学的思惟が徐々に崩壊し、徂徠学、国学をとおして近代的思惟が芽生えてくる process を、当時の思潮の流れは取っていたのだ、とする丸山さんの主張のことです。そしてその「社会不適合説」というのは、この丸山さんの主張が江戸時代の実態に合っていない、江戸時代の実態を表わしていない、とする説のことです。丸山さんの主張だと、江戸時代の初期から朱子学が当時の思想の覇権を握っており、それが段々と後退、衰退していって、江戸時代の後期には覇権を失うかのように読めるかもしれませんが、実際には江戸時代初期に朱子学の勢力が時代の学問の大半を占めていた、大勢を占めていた、という事実はなく、朱子学に感化されていた人々は一部の知識人にすぎず、また朱子学の影響力が時代を経るにつれて失われていったという主張は、江戸時代の後期ほど朱子学者と数えられる儒者の数が増えていることから、反証されているのだ、と日本思想史学の学界では一般に言われているようです*1。このような反論については、もっともであるとして、丸山さんも大筋同意されておられます*2
これに対し、本論文の笠谷先生は上記の反証、反論について疑問を呈しておられ、当時の武士の教養の程度を見てみると、存外、朱子学の影響を強く広く、江戸の初期のころから武士たちが受けていることがわかる、というような感じのことを述べておられます。
上記の反論については、個人的に思うところがあるのですが、ちゃんと勉強していない事柄でもありますので、ここで私見を提示することはやめておきます。

*1:例えば最近では、土田健次郎、『江戸の朱子学』、筑摩選書、筑摩書房、2014年を参照。ただし、私が見た感じでは、本書で土田先生は、今述べた反証を声高に主張されているのではなく、既定の事実として冷静に祖述されているという印象を受けました。なお、このことについて私が誤解しておりましたら申し訳ございません。訂正させていただきます。

*2:「英語版への著者の序文」、『日本政治思想史研究』、東京大学出版会、1952/1983年、401-402ページ。