What Is the Yablo Paradox?: An Informal Exposition

数日前に the Yablo Paradox の本を購入しましたが、いい機会だし、手持ち無沙汰なので、the Yablo Paradox を説明してみます*1。まず、次の原典から、

原文の該当箇所を引用し、それに対し、うまくない和訳を付けてみます。引用は draft からのもので、それに対し訳を与えます。和訳は誤訳している可能性が非常に高いので、英語原文を何よりもお読みください。和訳はあくまで参考程度にしてください。誤訳しておりましたらお詫び申し上げます。なお和訳の調子は硬めにします。この和訳のあとには、私による Yablo Paradox のくどい説明を加えます。数学や論理学が得意な方は、英語原文を一読すれば、内容を理解されるかもしれませんが、一読してすぐにわからなくても、しつこく書かれたこの説明を読まれれば、大抵の方は理解されるのではないかと考えております。私自身、原文を一読してすぐさま理解できた口ではありません。ゆっくりと、そして数回読み返していただければ、把握できると思います。私の説明がまずくてうまく理解できないようでしたら誠に申し訳ございません。ちなみに私は Yablo Paradox の専門家ではありません。間違った説明をしていないという保証はございません。運よく正しい説明をしていたとしても、専門家ではないので、何らの洞察もたたえていない浅薄な説明になっている可能性が極めて高いです。(というか、実際そうなっています。まぁ、私の能力では仕方がない。Yablo Paradox の研究現場は、かなり technical な field をなしていますので…。) そのような説明でしかないことを、どうかお許しください。それでは英語原文該当箇所を引用し、訳を与えます。ちなみに上記の Yablo 論文は1ページちょっとの長さしかないので、以下の引用文が論文の何ページ目に当たるのかについては、明記致しません。

Imagine an infinite sequence of sentences S1, S2, S3,....., each to the effect that every subsequent sentence is untrue:


(S1) for all k >1, Sk is untrue
(S2) for all k >2, Sk is untrue
(S3) for all k >3, Sk is untrue
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Suppose for contradiction that some Sn is true. Given what Sn says, for all k>n, Sk is untrue. Therefore (a) Sn+1 is untrue, and (b) for all k>n+1, Sk is untrue. By (b), what Sn+1 says is in fact the case, whence contrary to (a) Sn+1 is true! So every sentence Sn in the sequence is untrue. But then the sentences subsequent to any given Sn are all untrue, whence Sn is true after all!


文 S1, S2, S3,....., の各々から成る無限列を想像してみよう。それは、どの後続する文も偽である*2、という内容の無限列である。


(S1) k > 1 であるすべての k に対し、Sk は偽である
(S2) k > 2 であるすべての k に対し、Sk は偽である
(S3) k > 3 であるすべての k に対し、Sk は偽である
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.


矛盾を得るために、ある Sn は真であるとしてみよう。Sn の言っていることを考慮すれば、k > n であるすべての k に対し、Sk は偽である。それ故、(a) Sn + 1 は偽であり、かつ (b) k > n + 1 であるすべての k に対し、Sk は偽である。(b) により、Sn + 1 の言っていることは、実際、その通りであり、そのため (a) に反し、Sn + 1 は真である! だから上記の列のどの文 Sn も偽である。しかしそうすると、任意に与えられた Sn後続する文はすべて偽であり、そのため結局 Sn は真である!

話を始める前に、一つ注記しておきます。これ以降、「無限列」と言えば、上記引用文中の無限列のことを指すことにします。


さて、これから Yablo Paradox を説明しますが、その際、何をするのか、あらかじめここで述べておきます。最初に、無限列を構成している文を一つ取り上げ、その文が何を言っているのかを確認します (以下の「無限列中各文の内容」)。それから、一般的な論証ではなく具体例を使って Yablo Paradox の詳しい説明を行います。そこでは次のことが示されます。まず、無限列のどの文を真としても矛盾が出てしまうことが示されます (「Yablo Paradox の説明前半」)。次に、無限列のどの文を真としても矛盾が出てしまうならば、それらの文は真ではなく偽だとすると、どうなるのかを調べ、その場合でもやはり矛盾が出てしまうことが示されます (「Yablo Paradox の説明後半」)。こうして結局、無限列のどの文を真としても矛盾が出てしまい、どの文を偽としても矛盾が出てしまうことが示されます (「Yablo Paradox の説明 結論」)。以上のように Yablo Paradox の説明においては、その前半で、無限列の各文を真としたことからくる矛盾が示され、その後半で、無限列の各文を偽としたことからくる矛盾が示され、最後に、真であれ偽であれ、いずれにせよ矛盾が出てきて進退相窮まるという結論が示されます。


無限列中各文の内容

では初めに、上記の無限列を構成している文を見て、その文が何を言っているのかを確認してみましょう。無限列中の文、例えば、


(S2) k > 2 であるすべての k に対し、Sk は偽である


は、何を言っているのでしょうか? この文の k には 3, 4, 5, …, という自然数が順番に入ります。実際に順番に入れてみてできる文は、次のものです。3を入れると、


S3 は偽である


ができ、4を入れると、


S4 は偽である


ができ、以下同様にして、文ができていきます。文の S2 が言っているのは、このような、S3 は偽である、S4 は偽である、…, すべてのことです。そしてこの S2 のみならず無限列中の S3 や S4 などの各文も、同様のことを言っています。簡単に言えば、無限列を構成するこれら各々の文は、自分の下に並んでいる文が全部偽であることを言っているのです。


Yablo Paradox の説明前半

無限列を構成している文の言っていることがわかったところで、これら各文は、真かまたは偽であると思われます。そこで、無限列のどれかの文が真であるとしてみましょう。どれでもよいですが、例えば S2 が真であるとしてみましょう。S2 とは次でした。


(S2) k > 2 であるすべての k に対し、Sk は偽である


この文が言っているのは、


S3 は偽である
S4 は偽である
S5 は偽である
.
.


ということでした。言い換えれば、S2 が真であるとは、S2 より下に並んでいるすべての文が偽である、ということです。そうすると、(a) S2 の直下にある文、つまり S3 は、当たり前ですが、偽です。S2 より下の、S3, S4, S5, …, がみんな偽なのですから、その一部である S3 も偽だからです。

繰り返しますが、S2 が真であるとは、S2 より下に並んでいる文がすべて偽であるということです。つまり S3, S4, S5, …, がみんな偽だということです。(b) すると、これも当たり前ですが、S4, S5, …, はみんな偽だということになります。S4, S5, …, は、S3, S4, S5, …, の一部だからです。

さて、S3 が言っていることは何でしょうか? それはその文より下の文すべてが偽だということです。すなわち、S4, S5, …, がみんな偽だということです。ところで、S2 が真であるとは、S3, S4, S5, …, がみんな偽だということ、ゆえに、(b) S4, S5, …, がみんな偽だということでした。とすると、S4, S5, …, がみんな偽だということは、S3 の言っていることと同じです。S3 の内容そのものです。ということは、これは S3 の言っている通りになっているということであり、よって S3 は真です。しかしこのことは (a) S3 は偽である、に反します! こうしてここで、S3 は真であり、かつ偽である、という矛盾が出てきてしまいました。


Yablo Paradox の説明後半

この矛盾は、無限列中の S2 が真であると仮定することで出てきました。しかしもちろん、S2 だけでなく、S3 でも S4 でも S118 でも、どの文でも同じように矛盾が出てくることが推測できるでしょう。つまり、無限列のどの文を取り上げても、上記のような矛盾が出てくることは、すぐさま推測できます*3。これは要するに、無限列のどの文からも、それを真と仮定するならば矛盾が出てくるということです。ところで、何かを仮定して矛盾が出てくる場合、私たちはその仮定は間違っていると考えます。A 氏が犯人に違いないと考えて推理を進めると、どうしても矛盾が出てきてしまう場合、私たちは A 氏が犯人であるという仮定は間違っていて、この人物は犯人ではないと考えざるを得ません。同様に、今問題にしている無限列のどの文からも、それを真と仮定すると矛盾が出てくる場合、それを真ではない、偽であると考えざるを得ません。したがって、私たちは無限列のどの文も偽であると考えざるを得ません。

こうして上記の考察から、無限列のどの文も偽なはずなので、どの文でもいいですが、試みにやはり S2 を取り上げて少しじっくりと見てみましょう。S2 とは次でした。


(S2) k > 2 であるすべての k に対し、Sk は偽である


そしてこの文は偽です。無限列のどの文も偽なはずだからです。そして、今、無限列のすべての文が偽であると私たちは考えているのですから、この S2 より下の文もすべて偽です。つまり、


S3 は偽である
S4 は偽である
S5 は偽である
.
.


になっているということです。ところで、S2 は何を言っているのでしょうか? 何を主張しているのでしょうか? それは、


S3 は偽である
S4 は偽である
S5 は偽である
.
.


になっている、ということです。そして今も見たように、


S3 は偽である
S4 は偽である
S5 は偽である
.
.


は、実際にそうなっています。ということは、S2 の言っている通りになっているということであり、それはすなわち S2 が真である、ということに他なりません。しかし、無限列のすべての文は偽であり、だから S2 も偽であると私たちは確認していたのでした。にもかかわらず、S2 は真になっています! これは矛盾です!

今、無限列のどの文も偽であると考え、試みに S2 を偽として、事態を観察してみたのでした。しかしもちろん言うまでもなく、矛盾が出てくるのは S2 に限ったことではなく、S3 だろうが S4 だろうが S118 だろうが、どの文についても同様の矛盾が出てくるであろうことは、すぐに推測がつくと思います*4。ですから、無限列のどの文を偽としても、矛盾が出てきてしまいます。


Yablo Paradox の説明 結論

以上により、問題の無限列のどの文を真としても矛盾を招き、かつ無限列のどの文を偽としても矛盾を招くことがわかりました。こうしていずれにしても問題の無限列では矛盾を招くということになり、にっちもさっちも行かなくなってしまうということです。


これで Yablo Paradox の説明そのものは終えますが、上記のようなひどく長々とした説明よりも、もっと簡潔な説明をお求めの方は、次をご覧ください。

  • Roy T. Cook  Paradoxes, Polity, Key Concepts in Philosophy Series, 2013, pp. 63-64,
  • Roy T. Cook  The Yablo Paradox: An Essay on Circularity, Oxford University Press, 2014, pp. 11-12.

とりわけ後者の説明は、informal ではあるものの、形式的な証明を提示していて、非常に簡潔、明瞭です。


最後に、Yablo Paradox が注目される理由を一言。

うそつき文


この文は偽である


は、真であるとすると偽であり、偽であるとすると真であり、故に矛盾を引き起こしますが、その理由として考えられるのは、このうそつき文が自分自身に言及 (self-reference) していることにあるとされます。しかし、Yablo Paradox の無限列を構成している各文は、自分より後の文にしか言及しておらず、自身には言及していないように見えます。

また、次の二つの文は、Jourdain's Paradox の一種であるとか*5、Buridan's Ninth Sophism などと呼ばれるものですが*6


(S) Socrates 「Plato の言っていることは偽である。」
(P) Plato 「Socrates の言っていることは真である。」


これらについて、(S) が真であれば、(P) は偽で、(P) が偽であるということは、とりもなおさず (S) が偽であるということです。しかし、(S) が偽なら、(P) の Plato が言っている通りであるということで、それは (S) が真だということです。よって、(S) は真であるとともに偽であるということになって矛盾になりますが、その理由はここで何かまずい循環 (vicious circle) を引き起こしていることにあるとされます。しかし、Yablo Paradox では、各文ともそれより下の文に言及するだけで、自分に跳ね返ってくるようには見えません。

こうして、珍しいことに、Yablo Paradox は、見たところ、自己言及にも循環にも無縁であるところで矛盾を引き起こしているように感じられます。自己言及にも循環にもよらず、矛盾を生成できている点で、Yablo Paradox は珍しく貴重な Paradox と考えられているようです。Paradox 一般の本質を見極め追究するうえで、Yablo Paradox は興味深い事例を提供してくれているのです。ただし、その Paradox は本当に少しも自己言及になっておらず、かつ/または、全然循環にもなっていないのかについては諸説あるようで、不勉強な私にはよくわかりません。このあたりのことについてきちんとしたことを述べるには、うそつき文や真理の理論についてちゃんと勉強した上でないといけないと思います。これ以上話すとぼろが出ますので、もうやめます。既にぼろが出ているようでしたらすみません。なお、注意しておきますが、上述の Yablo Paradox の説明は、一応の、一通りの、とりあえずの、表面的な説明です。これで Yablo Paradox がすっかりわかったという気分になっては絶対いけません。


以上の私の説明は、Yablo Paradox の専門家でもない者がなしている説明ですから、本当に正しい説明となっているか、ここまでお読みいただいた方は、念のためにもう一度、お手数ですが初めから読み返してみてください。大変お手間おかけしましてすみません。Yablo Paradox について、間違ったまま理解していると危険です。足をすくわれないためにも、改めて読み返し、間違っていないかどうか、確認してみることを強くお勧め致します。細かく、くどく説明しましたから、どこかに誤りがあれば、すぐにわかると思います。間違っておりましたら誠に申し訳ございません。どうかお許しください。

*1:一般に 'the Yablo Paradox' と書かれますが、便宜上、以下では定冠詞を省いて記します。

*2:原文の 'untrue' は、直訳すれば「非真」または「不真」というところでしょうが、このような日本語はないと思われますし、代わりに「真でない」と訳してもいいのかもしれませんが、便宜上、簡単に「偽」という訳語で代用しておきます。

*3:S2 も S3 も S4 も S118 も、いずれもその上にある文に後続している文ですが、S1 だけ、どの文にも後続しない文になっています。その点で、S1 は他の文と異なる特徴を持っています。しかしそれでも S1 も、それを真とすると今まで述べてきたのと同様の矛盾が生じます。読者の方々は念のため、実際にそうなることをご確認ください。

*4:S2, S3, S4, S118 のいずれを偽としても矛盾が生じますが、どの文の後続ともなっていない唯一の文 S1 についても、それを偽とすると同様の矛盾が出ることを、読者の方々はご確認ください。

*5:Cook, Paradoxes, p. 34.

*6:Michael Clark, Paradoxes from A to Z, 1st ed., Routledge, 2002, p. 215. ここで Clark 先生は Yablo Paradox を説明してくれているのですが、私個人の印象では、「すごくわかりよい説明だ」という感じはしませんでした。しかし、別の方が読まれると、それはとてもわかりよい説明だと感じるかもしれません。私の説明でわからなかった方は、一読してみるとよいかもしれません。