Why Does Leśniewski Use the Equivalence Sign Instead of the Definitional Equality Sign for Definitions? Part 1

(本日の日記はものすごく長いです。長すぎて、字数制限に引っかかり、一日では日記に収まりませんので、今日と明日に分けて記します。本日はその第一日目です。)

今回は、Leśniewski の定義のやり方について、記します。現在、私たちが論理学や数学において定義を行なう際には、定義のための特別な記号を使って行っています。例えば '⇔' という記号の上、または下に 'def' という記号を添えることで定義記号としたり、':=' を定義記号としたり、著者の好みに応じてその他いくつかの形をした記号を、その都度、定義記号として採用して利用していると思います。その際には、それらの定義記号は、文や式が互いに同値であることを表す同値記号、または必要十分条件を表す記号とは、形の上ではもとよりいわば内容的にも異なっているということが前提されています。繰り返しますが、定義記号とは、同値記号、必要十分条件の記号とは違うものだ、ということが、point となっているということです。このように、同値記号と定義記号を区別することが、現代においては常識だと思います。

ところが、専門家の方はよくご存じの通り、Leśniewski は定義記号として、まさに同値記号を使っています。意図的に同値記号によって定義を行ない、同値記号を定義記号としているのです。なぜわざわざそのような奇妙なことをするのでしょうか。なぜそのような非常識なことをするのでしょうか。この後、そのわけを彼自身の言葉のうちに見てみます。そしてこの彼のやり方に反対する人たちの批判を見てみます。最後に、Leśniewski の定義のやり方は、非常に特異なので、そのような主流の定義観から大きく逸脱した定義観は、重要性を持たないように見えるものの、それでももしかすると現代の哲学において有するかもしれない意義があるとするならば、それが何であるかを示唆することで、本稿を閉じたいと思っています。

私はこの日記で original な主張を展開することよりも、既存の資料に語らせることで、そこから浮かび上がってくる考えを示すことに、重点を置いています。そこで今回の日記でも、既存の文献からいくつも長い文を引っ張ってきて、それら自身に語らせることを試みます。迂遠な方法ですが、一応匿名で小難しい話をしているという事情から、海のものとも山のものとも知れない主張を一方的にぶち上げるのではなく、既にある文献を一つ一つ、明瞭、簡単に指し示すことで、そこから自然に見えてくる情景、そこからすぐさま帰結する考えを示唆することにより、私の述べようとしていることのご理解を得たいと思っております。どうかご了承願えればと存じます。なお、いつものように、私の記していることには、きっと間違いが含まれているはずです。また、以下では私自身による英語文献からの邦訳も掲げますが、そこには誤訳がいくつも含まれているはずです。このようなことから以下を読まれる場合には、文面を絶対にそのまま信じてしまうことのないようにお願い致します。必ず疑ってかかりながら読んでください。そうでないと足をすくわれる結果となると思います。前もって、ここでそれらの誤解、無理解、誤訳、悪訳に対し、お詫び申し上げます。


目次

1. 定義記号に対する現在の通説 (戸田山先生)

2. 現在の通説の起源としての古典的定義観 (Whitehead and Russell 先生)

3. Leśniewski による定義の方法 (Leśniewski 先生)

4. 古典的定義観と Leśniewski の方法の比較、および Leśniewski の方法の擁護 (Lejewski, Lukasiewicz 先生)

5. Leśniewski の方法への批判 (Church, Prior 先生)

6. Church, Prior への疑問、および現代において Leśniewski の方法からくみ取ることができるかもしれないこと (八木沢先生)

丸カッコ ( ) 内の先生の名前は、それぞれの section で、主に引用される文献の著者名であることを表しています。


本文

1. 定義記号に対する現在の通説 (戸田山先生)

現在、論理学において、定義記号はどのように考えられているでしょうか。そのことを確認してみましょう。今、日本でよく読まれていると思われる論理学の入門書から、定義についての説明を見てみます。次の文献からその説明文を引用をしてみます。

さて、以下ではまず論理的同値の説明があり、その説明をもとに論理的同値が定義されています。そして論理的同値の記号と双条件法の記号と定義記号との違いが解説されています。

 双条件法を導入した際に、A ↔ B の真理表と (A → B) ∧ (B → A) の真理表は同じになるから、A ↔ B は (A → B) ∧ (B → A) の略記と考えてもよいと述べた。こうした関係はこの2種類の論理式だけに成り立つことではない。次の例を考えてみよう。「来週論理学の試験をします。」「げげーっ。来週のいつですか?」 この質問に意地悪な教師が、(1) 「さあね。火曜か水曜だよ」と答えるのと、(2) 「火曜じゃなかったら水曜日だ」と答えるのでは結局同じことだと思うだろう。そこで、「来週の火曜に論理学の試験がある」を P, 「来週の水曜に論理学の試験がある」を Q として、(1) と (2) を記号化しその真理表を書いてみよう。両方とも同じように真理値が並ぶはず (上から 1110)。つまり、この2つの式はどのような場合も同じ真理値をとる。ようするに、「(1) と (2) は結局同じことだ」というのは、(1) と (2) の真理値はつねに一致するということなのだ。このようなとき、論理式 (1) と (2) は論理的同値 (logically equivalent) である、と言う。

【定義】 ふたつの論理式 A, B が論理的同値である ⇔ A, B は、それを構成する原子式の真理値のいかなる組み合わせに対してもつねに同じ真理値をとる。


 これから、論理式 A, B が論理的同値であることを、A╞╡B と書くことにしよう。ここでとても大切な注意をしておく。A╞╡B という書き方を、すでにお馴染みの双条件法 P ↔ Q とごっちゃにしてはいけない。P ↔ Q は1つの論理式であって、[命題論理の] 言語 L の一員だ。一方、A╞╡B は論理式ではなく、「論理式 A, B が論理的同値である」という日本語の文を簡単に書くための約束事として導入したものだ。だから L に属する式ではなく、むしろ日本語に属する文なのである。
 ついでに言えば、この 【定義】 の枠の中に出てきた「⇔」も、結合子「↔」とは異なり、L の語彙ではなくて、L について話をするための記号である。今後、【定義】と書かれた枠の中に出てくる「~ ⇔ ・・・」は、「~ というのはつまり、次のことの手短な言い方 (書き方) である。すなわち ・・・」という日本語の表現を、長くなるのを避けるために省略して書くための便法だと考えてほしい。まちがっても、「⇔」を結合子「↔」と混同しないこと。

ここで確認していただきたいのは、定義記号が、命題論理の中の記号ではなく、命題論理とは別の、命題論理について語るための記号となっていること、および定義とは、その定義式の一方の辺にある表現を他方の辺にある表現へと手短に言い換える便法だということです。このことのため、命題論理の記号ではない定義記号「⇔」を命題論理の記号である双条件法記号「↔」と決して混同してはならないと警告されています。


2. 現在の通説の起源としての古典的定義観 (Whitehead and Russell 先生)

上の 1. では、現在の通説となっている定義記号の見方を確認しました。そこでの定義観は少なくとも今から大体100年ぐらい前までは、さかのぼります。現在の定義観の起源となっている説明を次に確認してみましょう。

その起源となっている文献は、Whitehead and Russell の Principia Mathematica です*1。そこでその文献の該当箇所を引用し、加えて私の試訳ではなく、一般に利用されている和訳を掲げます。まず英語原文から。

  • Alfred North Whitehead and Bertrand Russell  Principia Mathematica to *56, Cambridge University Press, Cambridge Mathematical Library Series, 1997, pp. 11-12. 1st ed., published in 1910, 2nd ed., published in 1927. This volume is an abridged edition of its second edition. We will exclude footnotes from the original.

 Definitions. A definition is a declaration that a certain newly-introduced symbol or combination of symbols is to mean the same as a certain other combination of symbols of which the meaning is already known. Or, if the defining combination of symbols is one which only acquires meaning when combined in a suitable manner with other symbols, what is meant is that any combination of symbols in which the newly-defined symbol or combination of symbols occurs is to have that meaning (if any) which results from substituting the defining combination of symbols for the newly-defined symbol or combination of symbols wherever the latter occurs. We will give the names of definiendum and definiens respectively to what is defined and to that which it is defined as meaning. We express a definition by putting the definiendum to the left and the definiens to the right, with the sign ''='' between, and the letters ''Df'' to the right of the definiens. It is to be understood that the sign ''='' and the letters ''Df'' are to be regarded as together forming one symbol. The sign ''='' without the letters ''Df'' will have a different meaning, to be explained shortly.

 An example of a definition is


     p ⊃ q .=. ~p ∨ q Df.


 It is to be observed that a definition is, strictly speaking, no part of the subject in which it occurs. For a definition is concerned wholly with the symbols, not with what they symbolise. Moreover it is not true or false, being the expression of a volition, not of a proposition. (For this reason, definitions are not preceded by the assertion-sign.) Theoretically, it is unnecessary ever to give a definition: we might always use the definiens instead, and thus wholly dispense with the definiendum. Thus although we employ definitions and do not define ''definition,'' yet ''definition'' does not appear among our primitive ideas, because the definitions are no part of our subject, but are, strictly speaking, mere typographical conveniences. Practically, of course, if we introduced no definitions, our formulae would very soon become so lengthy as to be unmanageable; but theoretically, all definitions are superfluous.

 In spite of the fact that definitions are theoretically superfluous, it is nevertheless true that they often convey more important information than is contained in the propositions in which they are used. This arises from two causes. First, a definition usually implies that the definiens is worthy of careful consideration. Hence the collection of definitions embodies our choice of subjects and our judgment as to what is most important. Secondly, when what is defined is (as often occurs) something already familiar, such as cardinal or ordinal numbers, the definition contains an analysis of a common idea, and may therefore express a notable advance. Cantor's definition of the continuum illustrates this: his definition amounts to the statement that what he is defining is the object which has the properties commonly associated with the word ''continuum,'' though what precisely constitutes these properties had not before been known. In such cases, a definition is a ''making definite'': it gives definiteness to an idea which had previously been more or less vague.

 For these reasons, it will be found, in what follows, that the definitions are what is most important, and what most deserves the reader's prolonged attention.

 Some important remarks must be made respecting the variables occurring in the definiens and the definiendum. But these will be deferred till the notion of an ''apparent variable'' has been introduced, when the subject can be considered as a whole.


次に、和訳です。

  • A・N・ホワイトヘッド、B・ラッセル  『プリンキピア・マテマティカ序論』、岡本賢吾、戸田山和久、加地大介訳、叢書思考の生成、1, 哲学書房、1988年、46-49ページ。本訳書は、1910年刊行の初版からの翻訳。註を省いて引用。脚注は、引用者によるものです。傍点は太字に変えています。

 定義 (Definitions)

 定義とは、或る新たに導入された記号または記号の組合わせが、すでにその意味がわかっている或る他の記号または記号の組合せと同じ意味であることを宣言するものである。あるいは、もしも定義を与える方の記号の組合せが、他の記号と適当な形で結合してはじめて意味を持つようなものである場合、定義が意味することは次のとおりである − 新たに定義される記号または記号の組合せを中に有するいかなる記号の組合せも、その新たに定義される記号または記号の組合せがどこで現われようと、定義を与える方の記号の組合せにそれを置き換えることによって帰結する意味 (もしもそれに意味があれば) をもつ。被定義項 (definiendum) と定義項 (definiens) という名をそれぞれ、定義されるものと、定義によってそれが意味することとされるものとに与えよう*2。定義は、被定義項を左に、定義項を右に置き、その間に符号「=」を、定義項の右に文字「Df」を付加することによって表現される。留意すべきは、符号「=」と文字「Df」は、一体となってひとつの記号をなすと見なされねばならないということである。文字「Df」を伴わない符号「=」は異なる意味をもつが、それについてはすぐ後で説明される。

 定義のひとつの例は、次のようなものである。


     p ⊃ q .=. ~p ∨ q  Df


 定義は、厳密に言えば、それが現われる主題の一部ではないということに注意されたい。というのは、定義が関わるのはもっぱら記号にであって、記号によって表わされるものにではないからである。さらに、定義は真でも偽でもない。それはひとつの意思の表明であって、命題の表現ではないからである。(この理由により、定義の前には主張符号が置かれない)。理論的には、あえて定義を行なう必要はない。我々はその代わりに定義項を常に用いればよいのであり、そうすれば被定義項はまったく用いなくてもすむ。したがって、我々は定義を採用しながら「定義」の定義は行なっていないが、にもかかわらず、「定義」は原始概念のひとつではない。なぜなら、定義は我々の主題の一部ではなく、厳密に言えば、表記上の便法にすぎないからである。もちろん、実際上は、もしもひとつも定義を導入しなかったならば、我々の論理式はたちまち長大なものとなって手に負えなくなるであろう。だが理論的には、すべての定義が余計なものなのである。
 定義が理論的には余計なものであるという事実にもかかわらず、種々の定義が、それらを利用している諸命題に含まれている以上に重要な情報をしばしば伝えるということもまた事実である。このことはふたつの理由から生ずる。第一には、定義は、定義項が注意深く検討するに値することを通常含意している。それゆえ、定義の全体は、我々の主題と、何が重要かということに関する我々の判断とを具現している。第二に、(しばしばそうであるように) 定義されるものが、基数や順序数のようにすでに馴染みのものである場合、その定義は日常的概念の分析を含んでおり、そうであれば、それは明らかな進歩である。カントールの連続体の定義がこのことをよく説明してくれる。彼の定義はつまるところ次のような言明である − 「自分が定義を与えているものは、通常「連続体」という言葉と結びつけられる諸属性をもつ対象であるが、それらの属性を構成するものが正確には何であるのかはそれ以前はわかっていなかったのだ」。このような場合、定義はまさに、意味を「定かにする(making definite)」*3ものである。それは、それまでは多かれ少なかれ曖昧であった概念に明確さを与えるものなのである。
 以上の理由により、以下では定義は格別に重要なものであり、読者のたゆみない注目に最も値するものであることがわかっていくであろう。
 定義項被定義項のなかに現われる変項についていくつか重要な注意を与えなければならない。だがそれらは、「見かけ上の変項」の概念が導入されるまでは控えておくことにし、そのときにその問題についてまとめて検討することにしよう。

Whitehead and Russell が述べている見解の中で、確認していただきたいことは、定義をする記号がその論理体系の中の記号ではなく、その体系外から体系内の記号に関してなされているものである、ということです。

次に Leśniewski はどのように定義を行なおうとしているのか、そのことを見てみましょう。


3. Leśniewski による定義の方法 (Leśniewski 先生)

では Leśniewski がどのように定義を行なっているかを見ます。Leśniewski は定義を行なう際、上で見た Whitehead and Russell たちのように、' ... = ... Df' というような定義記号を使いません。特別に定義記号を別に立ててそれを利用するのではなく、元々その論理体系にある命題結合子を利用します。なぜ特別な定義記号を使わずに、元からある命題結合子で済まそうとするのか、その理由を探りつつ以下の文をお読みいただければと存じます。引用するのは次の文献からです。

  • Stanisław Leśniewski  ''Fundamentals of a New System of the Foundations of Mathematics,'' translated by M. P. O'Neil, in S. J. Surma, J. T. Srzednicki, D. I. Barnett ed., with an Annotated Bibliography by V. Frederick Rickey, S. Leśniewski Collected Works, Volume II, PWN-Polish Scientific Publishers and Kluwer Academic Publishers, Nijhoff International Philosophy Series, vol. 44/II, 1992, pp. 416-419. In the following quotations, original footnotes are omitted. This paper was first published in 1929.

 In 1912 Henry Maurice Sheffer proved that in Whitehead and Russell's theory of deduction one may define functions of two propositional variables having the following property: each one can be used in the theory of deduction to define both alternation and negation (the two primitive functions in Whitehead and Russell's system) if instead of them it is adopted as the primitive function. According to Sheffer's discovery, one of the functions with this property is that which for all values of the variables is equivalent to the function '~(p ∨ q)'; the second is that function which for all values of the variables is equivalent to the function '~p ∨ ~q'.
 In 1916 J. G. P. Nicod used the second Sheffer function to base the theory of deduction on a single axiom. If in accordance with Nicod the vertical stroke '|' is used to express that Sheffer function which is primitive in Nicod's system, and if dots are used as in Whitehead and Russell's system, then Nicod's single axiom for the theory of deduction can be written as follows:


   p |. q | r :|:: t |. t | t :|∴ s | q .|: p | s .|. p | s.


[…]


 In defining the functions of the theory of deduction in terms of other such functions, both Sheffer and Nicod use a special equal-sign for definitions which they do not define in terms of the primitive functions of the system. The definitions of Sheffer have the form of expressions of the type of 'p = q'. Nicod's definitions have the form of expressions of the type 'p = q Df', used also by Whitehead and Russell. This circumstance makes it difficult to say whether Nicod's theory of deduction is in fact constructed out of the single primitive term '|'.
 In 1921 I realized that a system of the theory of deduction containing definitions would actually be constructed from a single term only if the definitions were written down with just that primitive term and without recourse to a special equal-sign for definitions. In particular, if this reform were introduced into Nicod's system, its definitions could be written out using some selected function constructed only with the primitive function 'p | q' and which is equivalent for all its values to the ordinary equivalence function of the type 'r ≡ s'. For example, in accordance with Nicod's definitions relevant to


   p ≡ q .≡:: p |. q | q :|: q | . p | p ∴|∴ p |. q | q :|: q |. p | p,


appropriate expressions of type


   p |. q | q :|: q |. p | p ∴|∴ p |. q | q :|: q |. p | p


could be formulated as definitions instead of expressions of type 'p = q Df', which Nicod used. The definition of negation in circumstances thus turned around could have the form of the proposition


    ~p .|: p | p .|. p | p ∴|∴ p | p .|: ~p .|. ~p ::|:: ~p .|: p | p .|. p | p ∴|∴ p | p .|: ~p .|. ~p;


the definition of alternation could have the form of the proposition


   p ∨ q .|∴ p | p .|. q | q :|: p | p .|. q | q ::|∴ p | p .|. q | q :|: p ∨ q .|. p ∨ q :・: | :・: p ∨ q .|∴ p | p .|. q | q :|: p | p .|. q | q ::|∴ p | p .|. q | q :|: p ∨ q .|. p ∨ q;


etc.


そして私訳/試訳を掲げます。生硬な直訳調の訳出方針で行きます。

 1912年に Henry Maurice Sheffer は、Whitehead と Russell の演繹理論において、次のような性質を持った、二つの命題変項を伴う二つの関数が定義できることを証明した。その性質とはすなわち、どちらの関数も演繹理論において選言と否定 (Whitehead と Russell の体系における二つの原始関数) をともに定義するために使うことができるもので、選言と否定が原始関数としてない場合には、Sheffer によって定義できると証明されたこの関数が原始関数として採用される。Sheffer の発見によると、この性質を持った関数の一つ目は、変項のあらゆる値に対し、関数 '~(p ∨ q)' と同値であり、二つ目は、変項のあらゆる値に対し、関数 '~p ∨ ~q' と同値であるような関数である。
 1916年に J. G. P. Nicod は、ただ一つの公理の上に演繹理論を打ち立てるため、二番目の Sheffer 関数を使った。Nicod に従って、彼の体系において原始的である、その二番目の Sheffer 関数を表すために垂直線 '|' を使い、かつ Whitehead と Russell の体系にあるように点々を使うならば、演繹理論に対する Nicod の単一公理は、以下のように書くことができる。


   p |. q | r :|:: t |. t | t :|∴ s | q .|: p | s .|. p | s.


[…]


 演繹理論の関数を、これ以外の上記の Sheffer 関数によって定義する際に、Sheffer と Nicod はともに、定義のための特別な等号を使用しており、二人はこの等号をその体系の原始関数によって定義することはしていない。Sheffer による定義は、'p = q' という型の表現形式を持っている。Nicod の定義は、'p = q Df' という型の表現形式を持っており、これは Whitehead と Russell によっても使われている。このような状況からして、Nicod による演繹理論が、実際にただ一つの原始名辞 '|' だけから構成されているのかどうかを言うのは難しい。
1921年に、定義を含む演繹理論の体系は、ただ一つの名辞*4から現実に構成されるであろうことに私は気が付いた。定義がちょうどその原始名辞*5を使って書き下され、かつ定義のための特別な等号に訴えることがない限り、そうであろうことに気が付いたのである。とりわけ、このような改良が Nicod の体系に施されるならば、原始関数 'p | q' だけを使って構成されていて、かつその値のすべてに対し、'r ≡ s' という型をした通常の同値関数に同値であるようなある関数を選んで使うことにより、そこでの定義を書き出すことができるのである。例えば、今述べたことに関連して導き出される Nicod の定義式*6


   p ≡ q .≡:: p |. q | q :|: q | . p | p ∴|∴ p |. q | q :|: q |. p | p,


に従えば、


   p |. q | q :|: q |. p | p ∴|∴ p |. q | q :|: q |. p | p


という型の表現を、Nicod が使ったような 'p = q Df' という型の表現の代りに、定義にふさわしいものとして定式化できるであろう。このように捉え返された状況においては、否定の定義は、


    ~p .|: p | p .|. p | p ∴|∴ p | p .|: ~p .|. ~p ::|:: ~p .|: p | p .|. p | p ∴|∴ p | p .|: ~p .|. ~p


という命題の形式を持つことができるであろうし、選言の定義は、


   p ∨ q .|∴ p | p .|. q | q :|: p | p .|. q | q ::|∴ p | p .|. q | q :|: p ∨ q .|. p ∨ q :・: | :・: p ∨ q .|∴ p | p .|. q | q :|: p | p .|. q | q ::|∴ p | p .|. q | q :|: p ∨ q .|. p ∨ q*7


という命題の形式を持つことができるであろうし、その他の関数の定義でも同様のことが言えるであろう。

上記の Leśniewski の話の中に出てくる technical な事柄のいくつかに対し、簡単な説明を付けておきます。

まず、二つのSheffer 関数の真理表を掲げておきます。一番目の Sheffer 関数は次です。

p q p ↓ q
1 1   0
1 0   0
0 1   0
0 0   1


これは選言が取る真理値と、ちょうど反対になっていることに注意します。そのため、引用文中にあるように ~(p ∨ q) と同値です。次に二番目の Sheffer 関数。

p q p | q
1 1   0
1 0   1
0 1   1
0 0   1


これは連言が取る真理値と、ちょうど反対になっていることに注意します。そのため、~(p ∧ q), すなわち、引用文中にもあるように ~p ∨ ~q と同値です。


ちなみに、この二番目の Sheffer 関数を使って p の否定 ~p を表すと、

p p | p
1   0
0   1


となります。つまり ~p とは p | p のことである、あるいは逆に、p | p とは ~p のことである、ということです。


また、引用文中で Nicod の単一公理が出てきますが、


p |. q | r :|:: t |. t | t :|∴ s | q .|: p | s .|. p | s


これを dots ではなく、念のためにカッコを使って表しておくと、


( p | ( q | r ))|( ( t |( t | t ) )|*8


次に、引用文中に出てくる式


p ≡ q .≡:: p |. q | q :|: q | . p | p ∴|∴ p |. q | q :|: q |. p | p


についてですが、この式は、左から二つ目の同値記号 ≡ の左辺である


p ≡ q


という式と、左から二つ目の同値記号 ≡ の右辺である


p |. q | q :|: q | . p | p ∴|∴ p |. q | q :|: q |. p | p


という式が、同値であることを述べています。つまり、


p ≡ q


という式が真になる時とは、p と q がともに真であるか、ともに偽である時であり、それ以外の時は今の式は偽になりますが、


p |. q | q :|: q | . p | p ∴|∴ p |. q | q :|: q |. p | p


についても同じことが言える、ということです。以下ではそのことを確認してみましょう。この直前の式を同値変形して行くことで、p と q がともに真の時、今の式が真であり、あるいは p と q がともに偽の時、今の式が真であって、それ以外の時は今の式が偽となることを見てみます。この後、それを確認する論述部分は box でくくることにしましょう。

ちなみに同値変形して行く際に主に使う論理法則は De Morgan's Laws です。ここでまずその法則を上げておきます。便宜上、否定の記号を '¬' で表します。以下の box 内の否定も '¬' で表します。


De Morgan's Laws

¬( A ∧ B ) ≡ ¬A ∨ ¬B

¬( A ∨ B ) ≡ ¬A ∧ ¬B

さて、先ほどの次の式が


(0)  p |. q | q :|: q |. p | p ∴|∴ p |. q | q :|: q |. p | p


結局 p ≡ q と同じことになるのをこれから見てみますが、この式は長くて難しく見えるかもしれないものの、よく見ると、式の真ん中の ∴|∴ における | の左側の式と、右側の式がまったく同じであることがわかります。つまりど真ん中の | の左側も右側も、p |. q | q :|: q |. p | p という形をしていて、これが左右に並んでいるだけだとわかります。

ここで今の式の dots を丸カッコに代えてみましょう。ところで dots を使った記法では、dots が最もたくさん打たれているところが、その式で最も大きな切れ目になっています。ですから ∴ が最も大きな切れ目です。この二つある ∴ のうち、右の ∴ は右に開いたカッコを、左の ∴ は左に開いたカッコを表しています。それではカッコに直してみますと、


(1)  ( ( p | ( q | q ) ) | ( q | ( p | p ))) | ( ( p | ( q | q ) ) | ( q | ( p | p )))


となります。こうして見ると、長くて難しそうですが、先ほども言ったように、この式は中心を対称に、左と右が同じ形の式だから、そんなに難しいものではありません。つまり中心を対称に ( ( p | ( q | q ) ) | ( q | ( p | p ))) が二つ左右に並んでいるだけです。

ところでしばらく前にも確認した通り、一般に p | q とは、¬( p ∧ q ) のことです。したがって p | p とは、これも確認した通り、¬( p ∧ p ) のことであり、これは結局 ¬p のことです。だから q | q も ¬q のことです。よって、式 (1) の p | p と q | q をそれぞれ ¬p と ¬q と書き換えれば、


(2)  ( ( p | ¬q ) | ( q | ¬p ) ) | ( ( p | ¬q ) | ( q | ¬p ) )


同様に、| を ¬ と ∧ を使って書き換えます。(2) の、p | ¬q, q | ¬p, p | ¬q, q | ¬p を書き換えると、


(3)  (¬( p ∧ ¬q ) | ¬( q ∧ ¬p )) | (¬( p ∧ ¬q ) | ¬( q ∧ ¬p ))


この式における ¬( p ∧ ¬q ), ¬( q ∧ ¬p ), ¬( p ∧ ¬q ), ¬( q ∧ ¬p ) の、それぞれ左外にある ¬ を De Morgan's Law により、右のカッコ内にいわば繰り込んでやると、

(4)  ( ( ¬p ∨ q ) | ( ¬q ∨ p ) ) | ( ( ¬p ∨ q ) | ( ¬q ∨ p ) )


この式における ( ¬p ∨ q ) | ( ¬q ∨ p ) と ( ¬p ∨ q ) | ( ¬q ∨ p ) の、それぞれの | を、¬ と ∧ で書き換えてやると、


(5)  ¬( ( ¬p ∨ q ) ∧ ( ¬q ∨ p ) ) | ¬( ( ¬p ∨ q ) ∧ ( ¬q ∨ p ) )


この式の中心にある | の左右両式の、それぞれ左外にある ¬ をカッコ内に繰り込んでやると、


(6)  ¬( ¬p ∨ q ) ∨ ¬( ¬q ∨ p ) | ¬( ¬p ∨ q ) ∨ ¬( ¬q ∨ p )


この式における ¬( ¬p ∨ q ), ¬( ¬q ∨ p ), ¬( ¬p ∨ q ), ¬( ¬q ∨ p ) の、それぞれ左外にある ¬ をカッコ内に繰り込んでやると、


(7)  ( p ∧ ¬q ) ∨ ( q ∧ ¬p ) | ( p ∧ ¬q ) ∨ ( q ∧ ¬p )


この式における中心の | を ¬ と ∧ で書き換えると、


(8)  ¬( ( ( p ∧ ¬q ) ∨ ( q ∧ ¬p ) ) ∧ ( ( p ∧ ¬q ) ∨ ( q ∧ ¬p ) ) )


左端の ¬ をカッコ内に繰り込んでやると、


(9)  ¬( ( p ∧ ¬q ) ∨ ( q ∧ ¬p ) ) ∨ ¬( ( p ∧ ¬q ) ∨ ( q ∧ ¬p ) )


この式は、真ん中の ∨ を中心として両辺は同じなので、一方の辺を削除します。詳しくは冪等律 (idempotent law) i.e., ( A ∨ A ) ≡ A によって一方の辺を削除してやると、


(10)  ¬( ( p ∧ ¬q ) ∨ ( q ∧ ¬p ) )


左端の ¬ を繰り込んでやると、


(11)  ¬( p ∧ ¬q ) ∧ ¬( q ∧ ¬p )


さらに二つの ¬ を繰り込めば、


(12)  ( ¬p ∨ q ) ∧ ( ¬q ∨ p )


右連言肢 ( ¬q ∨ p ) を左連言肢 ( ¬p ∨ q ) 内に繰り込めば、


(13)  ( ¬p ∧ ( ¬q ∨ p ) ) ∨ ( q ∧ ( ¬q ∨ p ) )


¬p ∧ ( ¬q ∨ p ) の ¬p を右のカッコ内に繰り込み、q ∧ ( ¬q ∨ p ) の q を右のカッコ内に繰り込めば、


(14)  ( ( ¬p ∧ ¬q ) ∨ ( ¬p ∧ p ) ) ∨ ( ( q ∧ ¬q ) ∨ ( q ∧ p ) )


余計なカッコを一部省くと


(15)  ( ¬p ∧ ¬q ) ∨ ( ¬p ∧ p ) ∨ ( q ∧ ¬q ) ∨ ( q ∧ p )


今、0 を矛盾した式、もしくは恒偽式を表すとして、一般に ( A ∨ 0 ) ≡ A なので、(15) の中の ( ¬p ∧ p ) と ( q ∧ ¬q ) を省くと、


(16)  ( ¬p ∧ ¬q ) ∨ ( q ∧ p )


これを少し整えると


(17)  ( p ∧ q ) ∨ ( ¬p ∧ ¬q )


この式が真であるのは、p と q がともに真であるか、またはともに偽である時であり、それ以外の時は、偽になります。これは同値記号の表していることと同じです。

こうして、


p ≡ q .≡:: p |. q | q :|: q | . p | p ∴|∴ p |. q | q :|: q |. p | p


の、左辺と右辺が同じこと、同値であることが確認できたと思います。左右両辺とも、p と q が真であるか、偽である時に、真であり、それ以外の時は、偽である、ということです。ところで、Russell らの使う定義記号 ' ... = ... Df' や私たちの使う定義記号とよく似たふるまいをするのは、言うまでもなく、命題論理における同値記号 '≡' です。つまり、 'p = q Df' とよく似た働きをするのは、'p ≡ q' です。そこで、仮にですが、定義記号をこの同値記号 '≡' で代用してやるとしましょう。すると、p = q Df としたい時には、p ≡ q してよく、そして p ≡ q とできる場合には、


p ≡ q .≡:: p |. q | q :|: q | . p | p ∴|∴ p |. q | q :|: q |. p | p


により、この式の右辺である


p |. q | q :|: q | . p | p ∴|∴ p |. q | q :|: q |. p | p


としてよい、ということです。すなわち、p = q Df と定義したい場合には、この定義式を表すのに、


p |. q | q :|: q | . p | p ∴|∴ p |. q | q :|: q |. p | p


でもって行うことができる、この直前の式が p を q で定義する定義式 p = q Df になっている、ということです。(この直前の式を (定義形式) と呼ぶことにします。) ですから、'p = q Df' の 'p' に被定義項、'q' に定義項を入れたいのならば、


(定義形式)  p |. q | q :|: q | . p | p ∴|∴ p |. q | q :|: q |. p | p


の 'p' に被定義項、'q' に定義項を入れてやれば、'p = q Df' と同じように、定義を行なうことができる、ということです。ところでしばらく前に見たように、p の否定 ~p とは、二番目の Sheffer 関数で表すと p | p のことでした。ですから、否定 ~ を二番目の Sheffer 関数を使って定義してやることができます。それを Russell らの定義式で表すと、'p = q Df' の 'p' に '~p' を代入し、'q' に 'p | p' を代入してやればよく、そうすると


~p = p | p  Df


と表すことができます。このようにして表すことができるならば、同じことを先ほどからの


(定義形式)  p |. q | q :|: q | . p | p ∴|∴ p |. q | q :|: q |. p | p


で表すこともできます。この (定義形式) の 'p' に '~p' を代入し、'q' に 'p | p' を代入してやればよいのです。そのようにしてやると、


~p |. p | p | p | p :|: p | p | . ~p | ~p ∴|∴ ~p |. p | p | p | p :|: p | p |. ~p | ~p


です。ただ、これではこの式中の部分式がどこで切れるのか、どこからどこまでがカッコでくくられているのか、正確にはわからなくなっているので、dots を補足、変更してやると、


~p .|: p | p .|. p | p ∴|∴ p | p .|: ~p .|. ~p ::|:: ~p .|: p | p .|. p | p ∴|∴ p | p .|: ~p .|. ~p


になります。これが p の否定 ~p の、Sheffer 関数 p | p による定義式です。(なお、この定義式は長くて難しそうに見えますが、真ん中の ::|:: を対称に、左右に同じ式が並んでいるだけです。) そして、否定に対するこの定義式が、上記の引用文中で否定の定義として出てきていることをご確認ください。


ここまで、p の否定 ~p が、私たちの (定義形式) を通して、Sheffer 関数 p | p により、定義できることを見ました。同様にして、選言 ∨ も私たちの (定義形式) を通して Sheffer 関数 により、定義できます。今度はそのことを確認してみます。

選言 p ∨ q を、Sheffer 関数 | で表すにはどのようにすればよいでしょうか。p ∨ q とは、p でも q でもない、ということはない、ということです。言い換えれば、p と q がともに偽になるということはない、ということです。記号で表わせば ~( ~p ∧ ~q ) となります。ところで ~p とは、Sheffer 関数 | で表すと、p | p でした。したがって、~( ~p ∧ ~q ) の中の ~p と ~q は、それぞれ p | p と q | q と表せるので、~( ~p ∧ ~q ) は ~( p | p ∧ q | q ) と表すことができます。また、そもそも p | q とは、~( p ∧ q ) のことでした。そこで今しがた得られた ~( p | p ∧ q | q ) をよく見ると、この式は ~( p ∧ q ) の p に p | p が、q に q | q が入っている式だとわかります。よって、~( p | p ∧ q | q ) を Sheffer 関数 | だけで表すと、p | p .|. q | q となることがわかります。こうしてつまるところ選言 p ∨ q を Sheffer 関数 | だけで表せば、p | p .|. q | q となる、ということです。つまり、選言 p ∨ q を、p | p .|. q | q で定義できるということです。そうすると、この定義を上記の (定義形式) で表すには、その (定義形式) の 'p' に 'p ∨ q' を、'q' に 'p | p .|. q | q' を代入すれば、Sheffer 関数 | による選言の定義式ができるということになります。そこで今述べた代入を (定義形式) に施してやり、dots を補足、調整してやれば、次の式が得られます。


p ∨ q .|∴ p | p .|. q | q :|: p | p .|. q | q ::|∴ p | p .|. q | q :|: p ∨ q .|. p ∨ q :・: | :・: p ∨ q .|∴ p | p .|. q | q :|: p | p .|. q | q ::|∴ p | p .|. q | q :|: p ∨ q .|. p ∨ q


これが選言の定義式です。この式は、ものすごく長く、とても難しいように見えますが、今言ったように、単に私たちの (定義形式) の 'p' に 'p ∨ q' を、'q' に 'p | p .|. q | q' を代入しただけにすぎません。しかも、真ん中の ':・: | :・:' を対称にして、左右に同じ式が並んでいるだけにすぎません。そしてこの式が、上記の引用文中の最後で、選言の定義として上げられていることをご確認ください。


ここまで、Leśniewski の話の中の technical な側面をいくつか長々と説明してきました。これらのことがご理解いただけましたとして、Leśniewski の話の中で私たちが確認しておかなければならないことは、なぜ、Leśniewski が通説の起源としての Russell らの定義記号 ' ... = ... Df' を拒否しているのか、そしてなぜ同値記号 '≡' までも排除して、Sheffer 関数 | 一本やりで済まそうとしているのか、ということです。この答えは Leśniewski の話の中にそのまま出てきますのでおわかりと思いますが、彼は ' ... = ... Df' を、無定義な原始関数と見なしており、その場合、無定義な関数であるSheffer 関数 | 一つだけから成る命題論理は、実はこの原始関数一つだけから成っているものではなく、Sheffer 関数 | と定義関数 ' ... = ... Df' の、二つの原始関数から成ってしまっていると見なし、命題論理を本当にたった一つの原始関数だけから構成したいのならば、二つの原始関数である Sheffer 関数 | と定義関数 ' ... = ... Df' を、一つに絞らねばならないと考え、そこで後者の定義関数をまず同値記号で表現することに還元し、そしてさらにこの還元を進めて、全部を Sheffer 関数だけで表し済まそうとしたというわけです。命題論理をできるだけ minimal な道具立てだけで maximal に表したいと考え、従来はそれを Sheffer と Nicod が遂行、完成させたと思われているが、それは子細に見ると十分でなく、実際は二つの原始関数で行うことにとどまっており、還元を極限まで進めれば、たった一つの原始関数で済ますことができるのであって、そのことを実際にやってみせると言って、実行してみせたのが、上記で引用した Leśniewski の文章だった、ということです。Leśniewski によるならば、定義記号 ' ... = ... Df' は命題論理の中で、一つの原始関数の役割を果たしており、したがってこの記号も一つの原始関数を表していると見なさねばならないと考えます。そうだとすると、原始関数の数をできるだけ少なくするには、この定義記号も還元、削除することができれば望ましいことです。そこで、いっそのこと定義記号を Sheffer 関数で表してしまえ、というわけだったのです。

上に引いた Leśniewski の文とよく似た文を、彼はもう一つ書いています。念のため、それも引用しておきます。

  • Stanisław Leśniewski  ''Introductory Remarks to the Continuation of My Article: 'Grundzüge eines neuen Systems der Grundlagen der Mathematik','' translated by W. Teichmann and S. McCall, in S. J. Surma, J. T. Srzednicki, D. I. Barnett ed., with an Annotated Bibliography by V. Frederick Rickey, S. Leśniewski Collected Works, Volume II, PWN-Polish Scientific Publishers and Kluwer Academic Publishers, Nijhoff International Philosophy Series, vol. 44/II, 1992, p. 651. This English translation was first published in Storrs McCall ed., Polish Logic 1920-1939: Papers by Ajdukiewicz, Chwistek, Jaśkowski, Jordan[,] Leśniewski, Lukasiewicz, Słupecki[,] Sobociński, and Wajsberg, with an introduction by Tadeusz Kotarbiński, translated by B. Gruchman et al., Oxford University Press, 1967. It is said that the original German paper was first published in 1939. The following quotations are from the Collected Works, vol. II.

In 1912 Henry Maurice Sheffer showed that in the theory of deduction of Whitehead and Russell there could be defined two functions of two propositional variables, in terms of either of which as sole primitive the two primitive functions of Whtiehead and Russell, namely alternation and negation, could be defined. One of these functions of Sheffer's is equivalent for all values of its variables to the function '~(p ∨ q)'; the other to the function '~p .∨. ~q'. In 1916 J. G. P. Nicod built up the theory of deduction from a single axiom, which apart from variables contained only the sign for the second of Sheffer's functions. For this sign Nicod used the vertical stroke '|'.
 In the definition of non-primitive functions in the theory of deduction, both Sheffer and Nicod make use of a special definitional sign of identity, which is not itself defined in terms of the primitive functions of the system. This fact makes it difficult to say that Nicod's theory of deduction is really based upon the sole primitive sign '|'. In 1921 I remarked that if one wishes really to base a system of the theory of deduction which contains definitions upon a single primitive term, one must write definitions using this primitive term without resorting to a special definitional sign of identity. In particular, if one were to make such a reform in Nicod's system, the definitions occurring in the system could be written, for example, in the form of an expression of the type


   p |. q | q :|: q |. p | p ∴|∴ p|. q | q :|: q |. p | p,


which, as it is easy to verify, is equivalent to the corresponding equivalence 'p ≡ q'.

私訳/試訳です。

1912年に Henry Maurice Sheffer は、次のことを示した。すなわち、Whitehead と Russell の演繹理論では、二つの命題変項を持った二つの関数を定義することができて、それらの関数のどちらを取っても唯一の原始的な関数として、Whitehead と Russell の二つの原始関数、つまり選言と否定を定義できる、ということを示したのである。Sheffer によるこれらの関数のうち、一方は、その変項のあらゆる値に対し、関数 '~(p ∨ q)' と同値であり、他方は、関数 '~p .∨. ~q' と同値である。1916年に J. G. P. Nicod は、ただ一つの公理から演繹理論を打ち立てた。この公理には、変項を別とすれば、Sheffer の関数のうち、二番目のものを表す記号だけが含まれていた。この記号に対し、Nicod は垂直線 '|' を使った。
演繹理論において、原始的でない関数を定義する際に、Sheffer と Nicod はともに、同一性による特別な定義記号を使っており、この記号自身は、その体系の原始関数によっては定義されていない。このため、Nicod の演繹理論は、ただ一つの原始記号 '|' だけに基づいて実際に築かれている、とは言い難い。1921年に私は次のように注意した。すなわち、定義を含んでいる演繹理論の体系を、ただ一つの原始名辞の上に基づけたいと本当に願うなら、この原始名辞を使い、同一性による特別な定義記号に訴えることなく、定義を書かねばならない、と。なかんずく、もしもこのような改良を Nicod の体系に施すとするならば、その体系に現われる定義は、例えば


   p |. q | q :|: q |. p | p ∴|∴ p|. q | q :|: q |. p | p


という型をした表現形式で書くことができるであろうし、容易に確かめられるように、この表現形式は、これに対応する同値関数 'p ≡ q' に同値なのである。


4. 古典的定義観と Leśniewski の方法の比較、および Leśniewski の方法の擁護 (Lejewski, Lukasiewicz 先生)

こうして私たちは Russell らの定義記号 ' ... = ... Df' と Leśniewski の定義のやり方、およびそのようにやる理由を見てきました。ここで Russell らの方法と Leśniewski の方法とを比較、対照している文章がありますので、復習とまとめの意味を込めて、それらを掲げてみます。まず、次を引きます。

  • Czesław Lejewski  ''On Implicational Definitions,'' in: Studia Logica, vol. 8, no. 1, 1958, pp. 190-191. Footnotes omitted.

 2. Leśniewski's views concerning definitions. As regards definitions in general, the majority of contemporary logicians seem to share the views of A. N. WHITEHEAD and B. RUSSELL expressed on the subject in the Principia Mathematica. These views may be summarized as follows:


   (a) Definitions are not propositions. They are neither true nor false.
   (b) Definitions do not belong to the system and theoretically are superfluous.
   (c) Definitions are concerned with the symbols, not with what they symbolize.
   (d) Definitions are mere typographical conveniences.
   (e) The sign '= ... Df', which is used to express a definition, is not equivalent to any of the functors of the Full Propositional Calculus.
   (f) The definiendum has the same meaning as the definiens.


 A different view on the nature of definitions was held by S. LEŚNIEWSKI of the Warsaw School. Leśniewski regards definitions as theses of the system. In this respect they do not differ either from the axioms or from theorems, i. e. from the theses added to the system on the basis of the rule of substitution or the rule of detachment. Once definitions have been accepted as theses of the system, it becomes necessary to consider them as true propositions in the same sense in which axioms are true.
 Now if definitions are to be meaningful expressions of the system, they should − with the exception of the newly defined term − contain no constants which do not belong to the system. Thus it follows that the sign '= ... Df' must be interpreted as a propositional functor and no other choice seems to be left but to take it as the functor of equivalence. This, however, creates a new problem: if definitions are to be written with the aid of the functor of equivalence the question of the reduction of the primitive functors calls for re-examination. We can no longer claim that NICOD's Calculus of Propositions based on SHEFFER's functor of alternative denial makes use of only one primitive term unless, of course, we bar definitions. The difficulty can be met either by constructing a Full Propositional Calculus with equivalence as the only primitive function or by finding a method of writing definitions with the help of those propositional functions which are primitive in the system.
 Leśniewski tried both these possibilities. He based his Protothetic, of which the Full Propositional Calculus is part, on the functor of equivalence as the only constant primitive functor, and in 1921 he suggested a very simple method of writing definitions with the aid of functors other than the functor of equivalence. In particular Leśniewski showed how to write definitions with the aid of SHEFFER's alternative denial and also formulated a rule of definition for a certain system of the Propositional Calculus constructed by LUKASIEWICZ on the basis of implication and negation. This rule of Leśniewski makes use of the primitive functors only.

この英文の私訳/試訳を掲げます。

2. 定義に関する Leśniewski の見解  定義一般に関して言うと、現代の論理学者の大多数は A. N. Whitehead と B. Russell の諸見解を共有しているであろう。その主題については、Principia Mathematica で述べられている。それら諸見解は、以下のように要約できよう。


  (a) 定義は命題ではない。つまりそれは真でも偽でもない。
  (b) 定義は当該の体系には属さず、理論的には余計である。
  (c) 定義は記号にかかわっているのであって、記号の表しているものにかかわっているのではない。
  (d) 定義は単なる印刷上の便法にすぎない。
  (e) 記号 '= ... Df' は定義を表すために使われるが、それは全命題計算*9のいかなる関手*10とも同値ではない。
  (f) 被定義語は定義語と同じいみを持つ。


 定義の本質に関し、別の見解を Warsaw 学派の S. Leśniewski は抱いていた。Leśniewski は定義をその体系のテーゼ*11と見なしている。この点で、その定義は公理とも定理とも異ならない。つまり、その定義は、代入の規則または分離則に基づいた体系に加えられるテーゼと、異なりはしない。一旦定義をその体系のテーゼとして受け入れたならば、その定義は、公理が真であるのと同じいみで、真なる命題だと見なさねばならなくなる。
 さて、定義がその体系のいみを持った表現であるとしたいならば、新たに定義される名辞を別とすれば、その定義にはその体系に属さない定項を含むべきではない。よって、記号 '= ... Df' は命題関手と解釈されねばならなくなり、同値関手と解する以外に他の選択肢は残されていないだろう、ということになる。しかし、これでは新しい問題が生まれる。すなわち、定義を同値関手の助けによって書きたいならば、原始関手の還元問題を再考する必要が生じることになる。選言的否定という Sheffer の関手に基づく Nicod の命題計算は、当然のことながら、定義を禁止しない限り、ただ一つの原始名辞だけを使っているとは、もはや主張することはできない。この困難を乗り切ることができるのは、同値関係を唯一の原始関数として持つ全命題計算を構築するか、またはその体系における原始的な命題関数の助けを借りて定義を書き下す方法を見つけ出すか、これらのどちらかによってである。
 Leśniewski はこれらどちらの可能性も試みた。彼は、全命題計算がその一部となっている彼の Protothetic を、唯一の原始関手定項としての同値関手を基に構築し、1921年に、同値関手以外の関手の助けにより定義を書き下す非常に簡単な方法を提案した。特に、Leśniewski は、Sheffer の選言的否定の助けを借りて定義を書く方法を示し、さらにまた、含意と否定に基づいて Lukasiewicz により構築された命題計算のある体系に対し、定義の規則を定式化した。Leśniewski によるこの規則では、原始関手だけが使われている。

この文章では、Russell らの定義観と Leśniewski の定義観の point が簡潔にまとめられ対比されており、大変参考になります。次も文章も同様に簡潔明瞭で、参考になります。

  • Jan Lukasiewicz  ''On Variable Functors of Propositional Arguments,'' in: Proceedings of the Royal Irish Academy, vol. 54, Section A, no. 2, 1951, pp. 28-29. Footnotes omitted.

 There are two ways of introducing definitions into the propositional calculus. One adopted by the authors of the Principia Mathematica, consists of expressing definitions by means of a special symbol, another way, adopted by Leśniewski, considers definitions as equivalences. Each way has its merits and faults.
 In the Principia Mathematica, where the theory of deduction is based on two primitive terms, viz., negation (''~P'') and disjunction (''p ∨ q''), the definition of the implication (''p ⊃ q'')*12 is stated in the form:


      p ⊃ q .=. ~p ∨ q  Df.


In words: ''if p, then q'' means the same as ''not-p or q.'' The sign ''='' and the letters ''Df'' are to be regarded as together forming one special symbol. This special symbol is connected with a special rule of inference allowing the replacement of the definiens by the definiendum and vice versa. This is the merit of this kind of definitions: the result is given immediately. But it has the defect of increasing the number of primitive terms which should be as small as possible.
 Leśniewski would write the same definition as an equivalence thereby introducing into his system no new primitive term, because for this very purpose he chose equivalence as a primitive term of protothetic. This is the merit of his standpoint. But on the other side he cannot replace immediately the definiens by the definiendum or vice versa, because equivalence has its proper rules and does not allow for a rule of replacement.

試訳/私訳は次の通りです。

 定義を命題計算に導入するには二つの方法がある。Principia Mathematica の著者たちによって採用されている方法は、特別な記号によって定義を表現することから成っており、他方の、Leśniewski によって採用されている方法では、定義を同値関係と見なしている。どちらの方法も、それぞれの長所と短所がある。
 Principia Mathematica では、演繹理論は二つの原始名辞、すなわち否定 (''~P'') と選言 (''p ∨ q'') に基づいており、含意 (''p ⊃ q'') の定義は、


      p ⊃ q .=. ~p ∨ q  Df.


という形で述べられている。言葉で言えば、「もしも p ならば、そのとき q」は、「p でない、または q」と同じことを意味する。記号 ''='' と文字 ''Df'' は一緒になって一つの特別な記号を形成していると見なされる。この特別な記号はある特別な推論規則と結び付いていて、その規則によると定義項を被定義項で置き換えてもよく、逆に被定義項を定義項で置き換えることも許すものである。これは、この種の定義の長所である。というのも、そのような置き換えは、定義があれば直ちに与えられるからである。しかしこの定義は、原始名辞の数が増えてしまうという欠点を持っており、その数はできるだけ少なくあるべきなのである。
 Leśniewski は同値式を書くのと同じように定義を書こうとした。これにより、新しい原始名辞が自分の体系に持ち込まれることはない。そもそもが、新たな原始名辞を持ち込みたくないという、まさにこのことのために、同値記号を protothetic の原始名辞として選んだことが、同値式で定義を書こうとした理由である。これは彼の立場にとって長所である。しかし他の面からすると、定義項を被定義項で、あるいは逆に、被定義項を定義項で、直ちには置き換えることが、彼にはできないのである。というのも、同値式には、その式のための固有の規則がまた別にあるのであって、定義項と被定義項を置き換える規則の役割までも、同値式には含んでいないからである。


この続きは明日、掲載する予定です。明日は section の 5. から始めます。

*1:問題の起源はさらに、Russell の Principles of Mathematics, Routledge, 1903, §412 までは、少なくともさかのぼりますが、今はそこまで遡上することはやめて、より影響力のあった Principia を以下で引用するにとどめます。

*2:ここでは、どうして英語原文の文章が邦訳のように訳されるのか、少しわかりにくいかもしれません。英語原文は次のようになっていました。'We will give the names of definiendum and definiens respectively to what is defined and to that which it is defined as meaning.' 問題はこの英文の後半、'to that which it is defined as meaning' です。この直前の語句を元に戻すと、(#1) 'The definition defines the definiendum to be the definiens as its meaning.' となるでしょう。(#1) を直訳すれば「その定義は、被定義項を、その被定義項の意味である定義項として、定義する」となります。(#1) を元の英語の語句に戻す process は次のようになります。まず (#1) を受動態に換えて、その 'the definiendum' を前方へ持って来れば、(#2) 'The definiendum is defined to be the definiens as its meaning by the definition.' 今、定義によって定義をする話をしていることは自明なので、(#2) の 'by the definition' を省略すれば、(#3) 'The definiendum is defined to be the definiens as its meaning.' この文の中の 'to be' は省略可能なので省略すると、(#4) 'The definiendum is defined the definiens as its meaning.' この文の 'The definiendum' は英語本文中で、前方に出てきますので、その語を受けて代名詞に直せば、(#5) 'It is defined the definiens as its meaning.' また、この文の 'the definiens' も英語本文中で前方に出てきますので、それを 'that' で受け、そしてこれを関係代名詞の 'which' で表すことにすれば (#6) 'that which it is defined as its meaning.' 最後に (#6) の先頭に 'to' を補足し、'its meaning' の 'its' を略すれば、'to that which it is defined as meaning' となって、元の英語の語句にたどり着きます。この process を追えば、どうして邦訳のようになるのか、あるいは邦訳の内容は詳しくは何なのか、それがおわかりになると思います。

*3:和訳では「意味を「定かにする「(making definite)」」となっていますが、カギかっこが一つ多いので、不要なカギかっこを一つ落とし、「意味を「定かにする(making definite)」」として引用しています。

*4:「名辞」は 'term' の訳。「項」と訳すことも考えましたが、生硬な訳になるので避けました。なお、ここと、これ以後の文章中においては、連言、選言、同値記号などなどのいわゆる命題結合子のことがしばしば 'term' と呼ばれていますが、一般に命題結合子は「富士山」や「ポチ」のような名前ではないと考えられており、それ故、「名辞」という言葉は名前の一種であると予想されますものの、ここでは「名辞」という言葉を名前のつもりで使っているのではございません。この点では、'term' の訳語として「項」の方がよりふさわしいのですが、先ほども述べました通り、「項」では堅苦しい感じがかなりしますので、この語は避けて、より親しみの持てる「名辞」を採用しております。繰り返しますが、名辞とは言うものの、これを単なる名前であるとは思わないようにお願い致します。

*5:「原始名辞」は 'primitive term' の訳ですが、「原始項」と訳さなかった理由は、直前の註を参照ください。

*6:英語原文の 'Nicod's definitions relevant to' を「今述べたことに関連して導き出される Nicod の定義式」と意訳しておりますが、この英語原文のみからは文意がはっきりとしなかったので、英語原文のもとになったドイツ語原典で該当箇所に当たり、内容を理解した上で、今のように和訳しました。Stanisław Leśniewski, ''Grundzüge eines neuen Systems der Grundlagen der Mathematik,'' in: Fundamenta Mathematicae, vol. 14, no. 1, 1929, S. 11.

*7:英訳原文では、この式の真ん中の二つの5点 dots がはさんでいるのは、':・: | :・:' のように Sheffer 関数の '|' ではなく、命題変項の 'p' となっています。しかしこれは明らかに間違っています。そこを 'p' のままにして、当初選言の定義を作ってみましたがうまくいかず、どうもおかしいと思いました。そこは ':・: p :・:' ではなく、':・: | :・:' でないとうまくいきません。それで念のためドイツ語原典に当たってみると、正しくも ':・: | :・:' となっておりました。英訳中では誤記されているようです。そのため、英語原文にある式を訂正して引用しておきます。上記の英語の引用文でも、訂正した上で引用しております。

*8: s | q )|(( p | s )|( p | s )))) となります。カッコに書き直すと、かえってわかりにくかったかもしれませんが、dots による記法に心理的抵抗を覚える方のために、あえてカッコに書き直してみました((Dots を使った記法の詳細は、当日記でもかつて説明しました。次をご覧ください。2011年6月12日、項目 'How to Read Elementary Dot Notational Formulae in Principia Mathematica.'

*9:全命題計算とは何かについて、説明します。例えば、否定と選言に基づく命題論理があったとしましょう。これには代入の規則と分離則と定義の規則が伴われているとしましょう。このような命題論理の体系から、否定記号を削除すれば、それに応じて、否定記号を含む式も削除されます。そうしてできた体系は、最初の命題論理の体系の部分系と見られます。今、否定記号を削除しましたが、分離則だけを削った場合にも、また別の部分系が得られます。あるいは最初の命題論理が含んでいる定義式に、'p → q =df. ¬p ∨ q' があったとしましょう。ここでこの定義式を削除し、この定義式を形成するための定義の規則も削除すれば、また新たな部分系が得られます。このようにいくつもの部分系が考えられますが、それに対して、最初に用意された、否定、選言、代入の規則、分離則、定義の規則の全部がそろっている命題論理の体系のことを、ここでは「全命題計算」と呼んでいます。今、否定と選言に基づく命題論理のことを取り上げましたが、命題論理には他にも、例えば条件法と否定に基づく命題論理もあります。他には条件法と選言に基づく命題論理もあります。また、連言と否定に基づく命題論理もあります。先ほどの全命題計算とは、これら様々な命題結合子に基づく様々な命題論理のすべて、ということではありません。加えて、全命題計算とは、Russell の考えた命題論理と Hilbert の考えた命題論理と Lukasiewicz の考えた命題論理などなどのすべて、ということでもありません。ご注意ください。See Lejewski, ''On Implicational Definitions,'' p. 189.

*10:関手とは関数のことです。詳しくは、数学の加法や乗法などなどの関数と、論理学の真理関数を合わせたもののことです。Poland 学派は、しばしば「関数」の代りに「関手」という言葉を使います。See Czeslaw Lejewski, ''On Leśniewski's Ontology,'' in: Jan T.J. Srzednicki, V.F. Rickey, J. Czelakowski ed., Leśniewski's Systems: Ontology and Mereology, Martinus Nijhoff / Ossolineum, Nijhoff International Philosophy Series, vol. 13, 1984, p. 124, n. 4, チェスラウ・レジェウスキー、「レスニェウスキーの存在論について」、石本新、渡辺昌三訳、石本新訳編、『論理思想の革命 理性の分析』、東海大学出版会、1972年、234ページ、註 (3). この註 (3) では、'functor' はただ「関数」と訳されています。

*11:テーゼとは、Warsaw 学派においては、公理と定理を合わせたもののこと。

*12:''p ⊃ q'' は英語原文では ''p ⊃ p'' となっているものの、明らかに誤植であるから、訂正して引用しています。