数か月前に次の本が出ました。
購入して拝読したいと思いましたが、最近この日記で記しているように、私はここのところ精神が極度の抑鬱状態にあり、本書を読めば、治安維持法のひどさに気が滅入って、さらに精神状態が悪化するのは目に見えていましたから、購入を控えさせてもらいました。
しかし、それでも本書の中を眺めておりましたら、治安維持法という稀代の悪法が、ほとんど parody と化している事件が述べられているのを見かけましたので、その部分だけでも複写し、拝読致しました。今日はそのことをごくごく簡単に書き留めておきます。(以下では、被告人のかたの立場から、事件を記述しております。検察の立場からではございません。)
その事件が述べられているのは、上記書籍の 244 ページから 248 ページにある次の記事です。
平たく言えば、妻が夫のために家事、洗濯をし、お小遣いをあげていたところ、治安維持法違反で捕まった、という事件です。なんで妻が夫に夕食を出し、下着を洗濯し、部屋を掃除して、お小遣いあげていたら、治安維持法違反で捕まんなきゃいけないのか、わけがわかりません。
この事件では被告人のかたは1930年 (昭和5年) に逮捕され、1933年 (昭和8年) に有罪判決が下っているようで、懲役6年の刑に処せられているみたいです。訴訟費用は被告人に負担させられました。上告されたらしいですが、棄却されています。勝手に捕まえられて、勝手に裁判に掛けられて、勝手に裁判費用を押し付けられて、勝手に6年の刑にされて、これはひどいです。本当にかわいそうだと思います。
しかし、なぜまた主婦が主婦業をしただけで治安維持法違反になり、逮捕されて懲役刑を食らったのかというと、その主婦のかたの旦那さんが、たまたま共産党の委員長だったらしく、それでこの旦那さんに夕ご飯を出したり、掃除洗濯をしてあげたり、お小遣い出していたことが、「日本共産党の目的遂行の為にする行為を為したる」ものと見なされて、痛い目にあわされた、ということみたいです。お小遣いあげたのは「資金援助だ」と牽強付会されたのでしょうね。(なお、この主婦のかた (小宮山ひでさん) は正確には内縁の妻です。あと、「お小遣い」と私はここで言っていますが、内田先生の文章の中には「お小遣い」という言葉は出てきません。念のため。)
主婦が家事洗濯をして、それが国体変革を企てる試みに資する、とされたわけです。夫が共産党員だったからといって、いくら何でも無茶苦茶すぎますね。とにかく当時、当局は共産党員をしょっぴき、根こそぎにするために、その人物の周辺にいる人々も、難癖をつけてしょっぴき、辺り一帯を焦土と化するまで根絶やしにしたかったのでしょうね。
治安維持法がひどい悪法であることは、以下の本を拝読して勉強させていただきましたが、
上記の主婦の事件は奥平先生のご高著には出ていなかったと思われ、内田先生の本で初めて知って、改めて治安維持法が空恐ろしい法律であることを思い知りました。
今日はこれで終わります。以上の文章には、事件に対する私の解釈が入っていますので、正確には内田先生の上記の記事を参照ください。たぶん、少し違った印象を受けると思います。検察側の主張する起訴「事実」なるものが一方的に語られているためです。なお、私の記述に関し、間違ったことを書いておりましたらすみません。謝ります。
PS
今問題となっている共謀罪改めテロ等準備罪では、共謀とは何か、共同で謀議するとはどういうことなのか、そのことが争点になっているようです。ところで初代の治安維持法第一条では、国体を変革し、もしくは私有財産制度の否認を目的として結社したり、それに加入した者は、懲役または禁錮に処すとされ、第二条では、国体変革、もしくは私有財産制度否認の目的を実行することに関し、協議を為した者は懲役に処す、というようなことが書かれています(奥平、304ページ)。治安維持法の中に「協議」という言葉が出てきています。この協議とは、協同/共同で謀議することなのでしょうか? 1941年 (昭和16年) の治安維持法改正法律では第五条で「協議」という言葉が出てきます(奥平、308ページ)。現代における共謀罪改めテロ等準備罪での共同謀議という考えは、治安維持法における協同での謀議の再来なのでしょうか? 気にかかります。とても気にかかります。