The Rumfitt-Hirose Puzzles

目次

 

はじめに

先日、書店で何気なく次の PR 誌を入手し、カフェでつらつらと拝読しておりました。

・『図書』、岩波書店、2023年5月号。 

そこに掲載されていた次の文章を拝見しておりましたら、

・広瀬巌  「大学入試って何を試したいの?(上)」

意外な方のお名前を見かけ、ちょっと驚きました。

以前に広瀬先生はオックスフォードのユニバーシティ・カレッジで、哲学研究フェローとして働き始めたらしいのですが、その時の先輩フェローが Ian Rumfitt 先生だったそうです。Rumfitt 先生といえば、Frege の言語哲学を勉強しているとお目にかかることもあるお名前ですが、そんな先生のお名前が岩波書店の PR誌上にいきなり出てきましたので少し意表を突かれました。

 

さて、広瀬先生は上の文章で、当カレッジでの入試の面接の模様を記しておられます。より詳しく言えば、面接の際に受験生に提示する試験問題を三つ、記してくれています。この問題はお二人の先生が考えたもののようです。

そこで今日は息抜きに、この三つの問題をここに転載し、次号の PR 誌で公表されるその答えを、私なりに考えて提出してみたいと思います *1

なお、私の考えた答えですので間違っているかもしれません。頭の優れていない私のことですので、間違っている可能性は結構あると思います。ひどい勘違いをしていたら小っ恥ずかしいですが、まぁ、それでもとにかく皆さまの参考に供してみましょう。お時間のある方は一緒に考えてみてください。そして次号の広瀬先生の解答を期待して待つことにしましょう。

 

問題設定

これから Rumfitt 先生と広瀬先生の問題を三つ掲げます。まず、これら三つの問題に共通している背景を説明しましょう。この説明は広瀬先生の文章を、ほとんどそのままなぞったものです。以下の各問題文も同様です *2

 

さて、真実さんと嘘さんがいます。真実さんはいつも真実を述べ、嘘さんはいつも嘘を言います。目の前に中の見えない箱がいくつかあります。それぞれの箱には一つの文が書いてあり、各々の文は真実さんか嘘さんのどちらかが書きました。あなたはそれらの箱のうち、一つを開けねばなりません。

 

第一問 爆発を回避せよ

目の前に箱 A, B, C があります。箱の一つには爆弾が仕掛けてあり、開けると爆発します。残りの二つの箱は空です。そして各箱には次のように書かれています。

A「この箱には爆弾があります」

B「この箱は空です」

C「これら三つの箱のうち、真実さんが作ったのは最大でも一つです」

爆発して死にたくなければ、どの箱を開ければいいでしょう?

 

第二問 ダイヤモンドを手に入れよう (第一弾)

箱 D と E があり、一つにはダイヤモンドが入っていて、もう一つは空です。それぞれに次のように書いてあります。

D「この箱にはダイヤモンドは入っていません」

E「これら二つの箱のうち、一つは真実さんが作りました」

どちらか一つを開けてダイヤモンドを手に入れてください。どちらを開ければいいでしょうか?

 

第三問 ダイヤモンドを手に入れよう (第二弾)

設定は第二問と同じです。

F「この箱にはダイヤモンドは入っていません」

G「これら二つの箱のうち、一つだけが真実です」

 

解答について

上の問題に対する解答を私なりに考えてみました。それを順に記してみましょう。かなりくどい解答かもしれません。

なお、間違っている可能性もあるので、決して鵜呑みにせず、まずは皆さまのほうで答えを考えていただき、それから皆さまの答えと私の答えを突き合わせて確認してみてください。

 

第一問解答

C は真実さんか嘘さんが作りました。

そこで C は真実さんが作ったと仮定してみましょう。すると真実さんが作った箱は一個かまたはゼロ個です。ところで今、真実さんは一つの箱である C を作ったと仮定しています。よってこの時、真実さんはゼロ個の箱を作ったのではなく、一個の箱を、ちょうど一個の箱を作った、ということです。そしてその箱とは C です。したがって A と B は嘘さんが作ったことになります。するとこの時、爆弾が入っているのは Bだ、ということがわかります。

今度は C は嘘さんが作ったと仮定してみましょう。すると真実さんが作った箱は二個かまたは三個です。ところで今、嘘さんは三個の箱のうちの一つ、C を作ったと仮定しています。ということは真実さんが作ったのは三個ではなく、二個の箱を作ったということです。そしてその箱とは A と B です。そうするとこの時、爆弾が入っているのは A だ、ということがわかります。

ここまでをまとめてみましょう。C は真実さんか嘘さんが作ったのであり、真実さんが作ったのなら爆弾は B にあり、嘘さんが作ったのなら爆弾は A にある、ということです。

ところで爆弾は箱一個だけに入っているのでした。そして C は真実さんか嘘さんのどちらかが作っているのでした。するとこの時、爆弾は A か B のどちらか一個だけに入っているのであり、C に入っているとは一言も言われていません。よって C をどちらが作ったにせよ、開けて安全なのは C です。C を開ければ爆発を回避できます。

 

第二問解答

E は真実さんか嘘さんが作りました。

そこで E は真実さんが作ったと仮定してみましょう。すると (1) D を真実さんが作り、E を嘘さんが作ったか、(2) D を嘘さんが作り、E を真実さんが作ったか、どちらか一方です。(1) だとしてみましょう。この時、E は嘘さんが作ったことになります。しかしこれは E は真実さんが作ったという仮定に反します。よって (1) ではなく、(2) が成り立つはずです。実際 (2) では E を作ったのは真実さんであるとされており、これは仮定と矛盾しません。こうして (2) の時、D を作ったのは嘘さんであり、よってこの時、ダイヤモンドが入っているのは D です。

今度は E は嘘さんが作ったと仮定してみましょう。すると (3) 二つとも真実さんが作ったか、(4) 二つとも真実さんが作らなかったか、つまり二つとも嘘さんが作ったか、どちらか一方です。(3) だとしてみましょう。この時 E は真実さんが作ったことになりますが、しかしこれは E は嘘さんが作ったという仮定に反します。よって (3) ではなく、(4) が成り立つはずです。実際 (4) ならば E を作ったのは嘘さんであるとなって、これは仮定と矛盾しません。こうして (4) の時、D を作ったのは嘘さんであり、よってこの時、ダイヤモンドが入っているのは D です。

まとめましょう。E は真実さんか嘘さんか、どちらか一方が作っています。真実さんが作っているとすると、ダイヤモンドが入っているのは D であり、嘘さんが作っているとすると、その場合にもダイヤモンドが入っているのは D です。よっていずれにせよ、E を真実さんか嘘さんが作っているのなら、ダイヤモンドが入っているのは D です。D を開ければダイヤモンドがもらえます。

 

第三問解答

G は真実さんか嘘さんが作りました。

そこで G は真実さんが作ったと仮定してみましょう。この時、G が言っていることは真です。すると (5) F は真で、かつ G は偽か、または (6) F は偽で、かつ G は真か、どちらか一方です。(5) としてみましょう。ならば、G は偽となります。しかしこれは G は真であるという仮定に反します。よって (5) ではなく、(6) が成り立つはずです。実際 (6) であれば G は真であるという仮定と矛盾しません。こうして (6) の時、F は偽となって、F にダイヤモンドが入っているとわかります。

今度は G は嘘さんが作ったと仮定してみましょう。この時、G が言っていることは偽です。したがって (7) F も G も真か、(8) F も G も偽か、どちらか一方です。(7) としてみましょう。すると G は真ですが、これは G は偽であるという仮定に反します。よって (7) ではなく、(8) が成り立つはずです。実際 (8) であれば G は偽であるという仮定と矛盾しません。こうして (8) の時、F は偽となって F にダイヤモンドが入っているとわかります。

以上により、G は真実さんか嘘さんのどちらか一方が作ったのであり、どちらが作ったにせよ、ダイヤモンドが入っているのは F だとわかります。F を開ければダイヤモンドがもらえます。

 

これで広瀬先生の話は終わります。息抜きになったでしょうか? なったならば、それは Rumfitt 先生と広瀬先生のおかげです。両先生にお礼をお伝えください。

そして残念なことに、私の解答が間違っていましたらごめんなさい。そういうこともかなりあり得ることだと思いますので、この場でお詫び申し上げます。

実際間違っているようでしたら、私はオックスフォードのユニバーシティ・カレッジには入れないでしょうね。う〜む、しょうがないな。まぁ、いいけど。

 

おまけ

これで終わってしまうとちょっと芸がないようにも感じられるので、ここで一つ皆さまにプレゼントを差し上げて締めとしましょう。爆弾をプレゼントします。

次は私の思い付いた問題です。よろしければ考えてみてください。解答付きです。難しいものではありません。たぶん哲学的にも特に深みはないと思います。

 

第四問 爆発を回避せよ (第二弾)

箱 H, I があります。一方の箱には爆弾があり、他方の箱は空です。

H「この文を真実さんが書いたならば、爆弾は他方の箱にあります」

I「この文を嘘さんが書いたならば、爆弾は他方の箱にあります」

どちらの箱を開ければ爆発を回避できるでしょう?

ヒント: 論理学の初歩をご存じの方に向けてヒントを一つ。文 H と I に含まれている「ならば」は、いわゆる実質含意 (material implication) のつもりです。

 

第四問解答

嘘さんが書く文は、必ず偽でなければなりません。すると H は、嘘さんは書くことができません。なぜなら嘘さんが H を書くと、条件文 H の「ならば」の前、つまり前件が偽になり、H 全体として真になってしまうからです。したがってどちらがどちらの文を書いたかについて、あり得るパターンは (1) H も I も真実さんが書いたか、(2) H は真実さんが書き、I は嘘さんが書いたか、このどちらかだけです。

そこで (1) としてみましょう。ならば文 H について、H は真であり、H の前件も真です。故に H の「ならば」のうしろ、つまりその後件も真であり、よって爆弾は I にあります。

次に文 I について、I の前件は偽、故に I 全体は真。そして I の後件は不定で構いません。あるいはあえて I の後件を特定したければ、その後件は H と整合させるために偽でなければならず、その時、爆弾は他方の箱 (H) にはありません。つまり I にあります。

よって (1) ならば I に爆弾はあるので、H を開ければ爆発は回避できます。

今度は (2) としてみましょう。ならば (1) で述べた理由から、H により爆弾は I にあります。

また、I は嘘さんが書いたので I の前件は真。すると嘘さんが書いた文はどれも偽だから、I 全体で偽にならなければならず、そのためには I の後件は偽でなければなりません。であるならば、爆弾は他方の箱 (H) にはありません。つまり I にあります。

よって (2) ならば爆弾は I にあるので、H を開ければ爆発は回避できます。

以上により、(1) であれ (2) であれ、どちらにしても爆弾は I にあるので H を開ければ爆発は回避できます。

 

最後の最後に。私が見当違いの問題を作り、見当違いの解答を書いて、皆さまを困らせたとしたらすみません。ごめんなさい。また本日の話の中で、様々な誤解や無理解や勘違い、誤記や誤字が残っておりましたらお詫び申し上げます。なお、広瀬先生の解答が判明し、私の答えが間違っておりましたら、後日訂正を入れたいと思っております。本当にそうなるかもしれないなぁ~。

 

*1:もちろん私一人で自力で考えたことです。誰にも相談していませんし、インターネットで検索して答えを探したり、答えそのものではなくても、ヒントになりそうなものもまったく検索せずに、自分で思い付いた答えと考えられるものを以下に記しています。

*2:なお、広瀬先生の文章中では明記されていませんが、今回の問題とその解答で述べられている各文は、必ず真か偽かどちらか一方であり、真でも偽でもあるとか、真でも偽でもない、ということはないことが、前提されていると考えられます。つまりいわゆる二値原理が暗黙のうちに採用されているようです。まぁ、あまり気にしなくてもいいことだと思いますが。